絶望の使徒《彼氏》なんて、羽唯にはまだ早いっ!!!
「・・・」
景井倖白に当て身を食らい、気を失っていた一年男子且つ、妹の羽唯のクラスメイトの岸原直刃。彼は、目を覚ますなり、羽唯へ膝を着き、エルネストを自称し出したっ!?
土御門やユキシロみたいなハーフやクウォーターがエルネストという外国人な名前を自称するならまだしも、岸原はどう見ても純日本人だ。
倒れたときの打ち所が悪かったのか、土御門が心配…というよりは、なんだか気の毒そうに岸原を見下ろしている。
ちなみに、ユキシロは岸原に引き気味だが、その口元はニヤニヤしているように見える。悪い奴め。
そんな状況で、羽唯が助けを求めるようにわたしを見上げる。と、
「ハッ!」
という気合いの声と共に、翻る偽装男の娘の美脚。次いで、岸原がまたバタンと床に倒れ伏す。
「え?」
ぱちぱちと瞬く羽唯の黒曜石の瞳。
「倖白っ!? お前」
「いやぁ、なんや面倒そうやったから、一旦落としただけや。とりあえず、医者連れてこか? あ、言うとくけど俺、後輩君の頭は殴ってへんよ? しゃあないから、ここまでやね。折角べっぴんさんなウイちゃんと仲良うなろ思たんに・・・」
「仲良くせんで宜しい!」
わたしの怒声に、クスリと笑った薄茶の瞳がパチンとウインクを返した。無駄に可愛い顔をして。
「ふふっ、また明日会おか、ユリちゃんもウイちゃんも♪ほな高輝、さっさと運び」
「仕方ないな。じゃあ、また明日だ。ユリヤ、そして姫津妹よ!」
と、倒れた岸原を担いだ土御門がユキシロと一緒に去って行った。
「・・・大丈夫、かな? 岸原君」
不安そうに、教室の外を見やる羽唯。
「確かに、かなり心配だが・・・」
羽唯の回りに変人がいるという状況が。
とりあえず、あの二人が岸原を医者へ連れて行ったので、明日二人へ話を聞くとして。
今は倒れている机を直そう。あ、さっきわたしが乗った机も拭かなくては。こうしていそいそと机を直した後、羽唯と二人で家路へ着いた。
※※※※※※※※※※※※※※※
それから――――寝る前。
全く、なんたることだろうか?
岸原直刃はなにやら危なそうだし、影井倖白はいきなり羽唯に告白をしやがった。更には、あの女性恐怖症な筈の土御門高輝まで羽唯に興味を示しているようだった。
これで・・・もしも羽唯が、あの野郎共に興味を持ってしまったら・・・
「っ!? 考えただけで動悸が・・・」
胸が、痛む。
絶望の使徒なんて、羽唯にはまだ早いっ!!!
羽唯を溺愛するわたしと父上が許しません! 母上は、どうだか知らないけれど・・・
まあ、今のところ羽唯はあのアホ共をなんとも思ってなさそうではあるが。是非とも、興味を持たないままでいてほしいものだ。
とりあえず、わたしができることは、ユキシロと土御門が羽唯に近付くのを徹底的に妨害して、岸原後輩へ無駄にプレッシャーを掛け捲って牽制することくらい……か?
土御門はどうとでもなる。奴は然程強くない。
そして、岸原。呆気なくユキシロに沈められた今日のことを見る限り、彼も拳での語り合いが有効だろう。
問題はユキシロなのだが・・・勝てるかどうかではない。殺るかやらないかだな!
決闘も辞さない覚悟だが・・・
存外、羽唯の為にできることが少ないな?
朝夕の登下校では一緒だが、学年が違う為、羽唯と同じクラスの岸原対策に遅れを取ってしまうだろう。
一応、羽唯には危険人物及び、無闇に男には近付かないよう自衛を促している。しかしっ、そんな気休め程度の自衛ではわたしが不安だっ!?
とはいえ、他にできることは無い。
それにしても・・・
「なんか忘れてるような・・・?」
実は、先程の岸原のエルネスト発言の後から、どうにもなにかが引っ掛かっている。
けれど、それがなんなのか、思い出せない。
喉元まで出掛かっているというのに・・・
結局思い出せず、うとうとと――――――
読んでくださり、ありがとうございました。
憐れ岸原、雑な扱い・・・