妹に腹黒が移ったらどうする!
「ふぅん・・・そ・れ・な・ら、余計にユキは好都合なんじゃないですか♪ユキはぁ、景井倖白って名前でぇ、そっちにいる土御門高輝サマとはイトコ同士で、ユリヤ様と同じクラスなんです。ユキはユリヤ様とは仲良しさんなのでぇ、その妹ちゃんのアナタとも仲良くしたいな♪」
にっこりと笑顔で自己紹介するユキシロ。
「仲良くしなくて宜しい! っていうか、寄るなと言っているだろうが! 景井ユキシロ!」
「イヤで~す♪」
「妹に腹黒が移ったらどうする!」
「え、と・・・わたしは、姫津百合也の妹で一年の姫津羽唯です。景井先輩?」
「あ、羽唯!」
自己紹介をされたので紹介を返さなければと思ったのか、それとも可愛らしい見た目のユキシロなら大丈夫だと思ったのか、羽唯がわたしの背中からひょっこり顔を出した。瞬間、
「「・・・」」
ユキシロの色素の薄い明るい茶色の瞳が大きく見開かれ、息を飲む音がした。
「っ……その顔、めっちゃ好き」
白い頬をほんのり赤く染め、ぼそりとハスキーなソプラノが呟いた。
「おい、表出ろ景井」
ユキシロを、見下ろす。
「うっわ、そないマジにならんでもええやろ? ユリちゃん。ま、ユリちゃんの顔もかなり好きなんやけど、妹ちゃん…ウイちゃん? の顔は、めっちゃタイプやわ♪な、ウイちゃん。俺と付き合うてみん? あ、言うとくけど本気やからね」
「ブッ飛ばすぞこの野郎」
「イヤやわ、ユリちゃん。返事くらい聞かせてくれたってええやろ? ちょぉ待ちぃや」
「へ? 俺? 付き合う? か、景井先輩?」
「ああ、一応こないな格好と高めの声しとるけど、俺の性別はちゃんと男やから。ウイちゃんは自分より背ぇ低い男、嫌やったりするん?」
「っ!? お、男の人ぉっ!?」
ぎょっとしたような羽唯の声に、
「せや、実は俺、男なんよ。信じられへん言うなら、触って確かめるか? 胸なんかマジぺたんこやで? 特になんも詰めたりしてへんし」
美少女のような顔でにっこりと微笑み、平らな自身の胸をすっと撫でるユキシロ。
「寄るな、景井。そして君は、土御門のことが好きだという設定だろうが」
「イヤやわぁ。そないイケズなこと言わんといてや。それは、財閥御曹司である高輝の虫除けの為の設定やて、知っとるクセに。俺かて別に好きで女装や、あんなけったいなキャラ作っとるンちゃうわ。土御門本家に頼まれとるから、分家として仕方のうやっとるだけやし。俺かて、偶には素ぅに戻ったり、可愛らし女の子と仲良うしたいわ。お友達♪のユリちゃんは、シュッとしたイケメンさんやし」
「え? ぇ~と……? 景井先輩は、土御門さん? の為、に・・・?」
「せや。高輝とはイトコ同士の腐れ縁やからね。その関係で、アレの世話係させられてんねや。高輝が女性恐怖症のポンコツへたれで、しゃあないからな。俺がこない格好して防波堤しとるんよ。ユリちゃんと一緒にっ☆」
「同情を誘うな。そして、わたしを巻き込むな」
「やー、十分同情されてもおかしないくらい、割と可哀想やと思うんやけど? 高輝の姉貴が、所謂腐った系でな? 女装した可愛らし男が高輝にくっ付いとったら、女の子絶対寄って来ぃひんから、試してみ? 言うて、俺に女装とあのキャラやれって命令してん。一度試してみたら、マジで女の子寄って来んようなってな。以来、これで学校通わされとるワケや。俺の扱い、酷ない?」
巻き込むな、が綺麗に無視された。
「それは・・・」
羽唯の声に同情するような響きが混ざり、若干非難するように土御門を見やる。と、
「騙されるな! 姫津妹! コイツは、そんな状況でさえも愉しむような腹黒鬼畜野郎だぞ!」
今まで黙っていたクセに、いきなりビシッとユキシロを指す土御門。
「まあ、確かに・・・景井は土御門を揶揄って愉しんでいることがあるな」
別に土御門を擁護する意図はないが、事実を言う。羽唯が奴に誑かされないように!
「え?」
ユキシロを見下ろし、驚いたように固まる羽唯。
「なんや、高輝。邪魔せんとき。折角、同情引いてウイちゃんと仲良うなろ思うとったんに」
「羽唯。景井ユキシロはこういう奴なんだ。だから、あまり近寄るな。腹黒が移る」
シッシッと追い払うように手を振ると、
「ユリちゃんの言動がヒドいっ……傷付くわぁ。な、俺泣いてええ? 慰めてや?」
目許に手を寄せ、パッチリした明るい茶色の瞳がわたしを見上げる。明確なウソ泣き。
「土御門に慰めてもらえ」
「ああっ、そんなクールなユリちゃんも、好・き♥でも、高輝は嫌やわ」
ぽっと頬を染めたユキシロが、さっと表情を変えて嫌そうに土御門を見やる。
やはり、食えない奴だと思う。
「俺だって願い下げだ」
ぼそりと呟く低い声。
「ふっ、なに言うてンねん? 高輝、自分に嫌がる権利なんぞ無いわ、ボケ」
そして、ユキシロは土御門に割と理不尽だ。
まあ、ユキシロも土御門を揶揄って愉しんではいるが、そこそこ苦労もしている模様。親類ならではの柵と、気安い態度と言ったところだろうか?
しかし、通常の友情なら兎も角、土御門の女子避けの為の、『腐な設定』にわたしを巻き込もうとするのはやめてほしいのだが。
「と、兎に角、倖白! お前は姫津妹に寄るな! そして、姫津妹。その……困ったことがあれば相談に乗ってやる! なにせ、俺は風紀委員だし、ユリヤの親友だからな!」
土御門が、なぜか顔を赤くし、羽唯から微妙に目線を逸らしつつ、大きな声で言った。すると、
「っ……ぅ、っ!? 申し訳ありません、姫! このエルネスト、不覚を取ってしまいました!」
転がっていた岸原直刃が目を覚まし、バッと勢い良く起き上がって羽唯へと膝を着いた。
「「「「・・・」」」」
岸原本人以外、みんなドン引きだ。
「倖白ーっ!? お前コイツの頭ヤったのかっ!?」
土御門の声が響いた。
読んでくださり、ありがとうございました。
「エルネスト誰っ!?」ですね。