コイツはやはり、相当イイ性格をしている。
「喧嘩は良くないですよぉ? 一年生を蹴飛ばすだなんて、可哀想ですよ。ユ・リ・ヤ・様♥」
少しハスキーなソプラノの声でにこやかに、軽やかな足取りでこちらへ近付く景井倖白。
「・・・君、見てたのか?」
見ていたというなら、止めればいいものを。無論、わたしではなく岸原を。
相変わらずというか・・・コイツはやはり、相当イイ性格をしている。
「ふふっ、バレちゃいましたかぁ? 正確には、聴いていた、なんですけどぉ♪」
ニヤリと笑ったユキシロが、
「ま、今回は貸しやで? ユリちゃん♥」
擦れ違い様に低くわたしへ囁き、
「こんにちは、後輩君」
「え? あ、はい」
岸原直刃への正面と立ち、おそらくはニコリと笑ったのだろう。岸原の顔がサッと赤くなった。そして・・・
「ユキはねぇ、こう見えて風紀委員なんですよぉ。というワケで、食らえ♪」
ドスっ!? と、
「っ!?」
鈍い音と同時に息の詰まるような音がして、岸原がドサリと床に倒れ伏した。
鳩尾に一撃で、自分よりも体格のいい男子を落として転がすとは、見事な手際というか・・・やはり、侮れない。
あの可愛らしい顔からはなかなか想像できないのだが、景井ユキシロは空手の、黒帯よりも更に上の段に当たる赤帯の所持者で、有り体に言えば、とても強い。
財閥御曹司で、他にもなかなかに面倒な事情のある土御門の虫除け兼、ボディガードとしての側面も持つのだとか。
赤帯は、一般的には道場を開けてしまう程の腕前を有しているそうなので、景井ユキシロを相手取るのはとても大変だろう。
わたしが本気で挑んでも、勝てるかどうか・・・というワケで、拳で語り合うことがなかなか難しいので、少々苦手としている相手だったりする。その可愛い系の美少女顔と、かなりイイ性格をしていることも含めて。
「ま、こんなもんやろ」
「倖白、お前はまた・・・」
呆れ顔で、ニヤリと笑う景井ユキシロを見やる土御門高輝。
「うっさいわ、高輝。ユリちゃんと一年女子が困っとったんやから、一発ビシッと食らわして黙らせただけやし。校規守ンな風紀委員の仕事やろ。ンなことより、噂の美少女な妹ちゃんの顔拝みたいわ」
「妹? 誰のだ?」
「やー、高輝はアホやアホや思っとったけど、ここまでアホやとはなぁ・・・自分、自称親友のクセして、ユリちゃんのことなーんもわかっとらんのな? ユリちゃんはシスコンで有名やで?」
ニヤニヤと笑いながら土御門と話す景井。ちなみにだが、景井ユキシロは関西弁が地の話し方らしい。普段は猫を被って、とても作っている。そして、その外面に騙される者はとても多い。
よし、二人が話しているこの隙に・・・
「なんだと! ユリヤに妹がいたのかっ!?」
「ほんま、高輝はアホやな。シスコンのユリちゃんなら、絶対妹ちゃんとこに来るて決まっとるから、無駄に走り回る必要無いわ」
さっきは置いて行くな的なことを言っていたクセに、実は先回りをしていたようだ。こういうところが、影井ユキシロの油断ならないところだ。
「誰がアホか! ・・・ということは、その女がユリヤの妹ということか? 顔を見せろ」
「なんや、女が怖い自分が興味持つなんて珍しいこともあるんやな?」
「ふっ、親友の身内だからな。姿があるのだから、挨拶くらいはしておくべきだろう」
「ふ~ん。ま、一歩前進言うたとこか。ええ傾向やね。・・・って、それはいいとしてぇ、ユキ達を置いてどこ行くんですかぁ? ユ・リ・ヤ・様♥」
「チッ・・・」
今のうちに、驚いている羽唯を連れて帰ろうと思ったのに、呼び止められた! 景井ユキシロめ! 仕方ないので、パッと羽唯を背中に隠す。
「舌打ちなんてヒドいじゃないですかぁ? ユキ、傷付いちゃいますよぉ」
口調を切り換え、わざとらしくしょんぼりしたような表情で、けれどその瞳には面白がる色を宿しながら、わたしを見上げる景井ユキシロ。まあ、明らかな嘘だな。
「美少女としても、そして有名なユリヤ様の妹としても、既に学校中に噂が広まっちゃってる一年生なんですから、いつまでも隠し通せる筈ないじゃないですかぁ。大人しく諦めて、妹ちゃんを紹介してくださいよぉ? ユ・リ・ヤ・様♥というワケで、こっち向いてくださいな? 妹ちゃん♪」
そして微笑みながら、わたしの後ろにいる羽唯の顔を覗き込もうとする。
「風紀委員が、後輩女子に無理強いするのは良くないと思うのだが? 景井」
明るい茶色の瞳を見下ろしながら低く言うと、
「もうっ、ユキって呼んでくださいよぉ! 景井ってあんまり可愛くないじゃないですかぁ」
ぷぅと頬を膨らませる可愛らしい美少女な顔。
「そんなことはどうでもいいが、とりあえず妹に寄るな。妹は男が苦手なんだ」
読んでくださり、ありがとうございました。
関西弁は好きなのですが、書いてる奴はネイティブではないので、どこかおかしいところがあったら教えてくださると助かります。