嬉しいのに少しだけ息苦しい。
現代パートなのに、またもやシリアス。
わたしは、小さい頃から可愛かった。
それは、自惚れなんかじゃなくて――――
両親と、一つ年上のゆーちゃんに「羽唯は可愛いなぁ」「羽唯は本当に美人さんだなぁ」と言われて、周りの人達みんなにも「可愛い、とても綺麗な女の子」だと言われて育った。
小さい頃は、会う人会う人みんながわたしに優しくて、可愛いと誉めてくれた。
だから小さな頃のわたしは、自分はみんなに好かれているのだと思っていた。
ゆーちゃんはいつもわたしに優しくて、わたしのワガママを嫌な顔一つしないで聞いてくれた。
おやつが欲しいと言えば自分の分をわたしにくれたし、オモチャを貸してと言えば、「いいよ」と笑顔で貸してくれた。オモチャを壊してしまっても、謝れば「しかたないな」と許してくれた。その後でも、遊んでと言えば一緒に遊んでくれたし、絵本を読んでと言えば読んでくれた。
いつもニコニコとわたしを見守るゆーちゃん。年の近い兄弟姉妹なんかは、小さな頃はよく喧嘩をしたりして、あまり仲良くはならないと言われているらしいけど、わたしはゆーちゃんに、とてもとても可愛がられていた。
それは、今もなんだけど――――
ただ、昔。おままごとかなんかで、お姫さまをしたいとわたしが言ったら、
「あのね、うい。お姫さまはとってもたいへんなんだよ? だから、ほかのあそびにしない?」
と、ゆーちゃんは困ったような顔で言った。
「イヤ! ういおひめさまするのっ!?」
「え~・・・そんなにお姫さまがいいの?」
いつもはわたしの言うことをなんでも聞いてくれてたゆーちゃんの、なんだか嫌そうな顔。
ゆーちゃんにそんな風な顔をされたことが無かったわたしは、いたく機嫌を損ねた。
「なんでういのゆーこときいてくれないのっ!? ゆーちゃんのバカ! もういいもんっ!!」
そう言ってわたしは、外に出た。
いつもいつも、一人で外に出るのは危ないと言われていたのに。ゆーちゃんと一緒にいたくなくて、こっそりと家を抜け出した。
「・・・ゆーちゃんのバカ・・・」
剥れながらほてほてと歩き、
「ゆーちゃんなんかしらないもん。あ、そうだ。ういひとりでこーえんいこ♪」
いい考えを思い付いたと、公園へ向かった。一人で、楽しく遊ぼうと思って・・・
このときのわたしは、本当にどうしようもなくアホだったと思う。わたしに『可愛い』や『綺麗』と言って誉めてくれる人、好意的な人、優しい人、出会う人達がみんな、いい人ばかりなのだと、信じていたのだから。
そしてわたしは――――
公園で変質者に連れ拐われそうになって、それを知らない女の子が止めようとしてくれた。けど、変質者はその子まで一緒に連れて行こうとした。
わたしは怖くて、声も出せなかった。
それを、ゆーちゃんに助けられた。
ゆーちゃんが変質者に掴まれていたわたしの手を引き剥がして、わたしを助けようとしてくれた子も引っ張って、三人でたくさん走った。
そして、足を止めたところでわたしは泣いた。びっくりして、怖くて、涙が止まらなくなった。
わたしが泣いていると、ゆーちゃんは「もうこわくないよ。だいじょうぶだからね、うい」ってわたしをぽんぽんて抱き締めてあやしてくれた。
ゆーちゃんにバカって言ったのに、一人で外に出ちゃいけないって言われてたのに。
怖かったのと、ゆーちゃんに助けてもらったことへの安心感。言い付けを破ったことへの罪悪感。ゆーちゃんに嫌われたらどうしようという気持ちで、もう感情がぐちゃぐちゃになって、全然涙が止まらなくて大泣きした。
泣いて泣いて――――
気付いたらわたしはお布団の中にいて、隣ではゆーちゃんがすやすやと寝ていた。
「バカっていってごめんね、ゆーちゃん。ういのことたすけてくれて、ありがと。だいすき」
泣き疲れてまだ怠かったから、ゆーちゃんにくっ付いてまた眠った。
起きると、お母さんに叱られた。お父さんはとても心配したそうだ。
そしてわたしは、男の人が苦手になった。
お父さん以外の男の人を怖がるようになったわたしに、ゆーちゃんは過保護になった。
ゆーちゃんはわたしを守るのだと言って、お父さんとお母さんに頼み込んで、合気道や格闘技を習い始めたりして、自分を鍛え出した。
そして、わたしとゆーちゃんの間に、保育園で同級生だった瑠偉ちゃんも加わって――――
瑠威ちゃんとゆーちゃんは仲良しになった。元々の同級生のわたしより、二人の方が仲良しに見えるくらいだ。
ゆーちゃんと瑠偉ちゃんは本当に、わたしをいろんなものから守ってくれた。
いじわるな同級生や、年上の男の子達から。
可愛いねって言いながら、わたしを変な目で見て来る男の人達から。
電車やバス、道で変に近付いて来る人達から。
「羽唯はわたしが守るから」
「僕もウイちゃんを守るからね」
二人は、いつだって笑顔でそう言って、わたしの傍にいてくれる。
「心配しなくていい」
「大丈夫だから安心してね?」
と、優しく。嫌な顔一つしないで。
――――いつからだろう? それに、ほんの少しの息苦しさを感じ始めたのは・・・
ゆーちゃんと瑠威ちゃんは、わたしの為を思ってくれているというのに・・・
わたしが、二人になにも返せていないということに気が付いたのは・・・
わたしはなにも返せていないのに、二人に優しくされて、ずっと守られて来た。
なにも返せていないことが、心苦しい。
わたしは・・・勉強は嫌いじゃないけど、運動はゆーちゃんみたいに得意じゃなくて、性格だって大していいワケでもない。
そんなわたしは、強くて優しくて、かっこよくて、可愛くて、みんなに人気の二人に守ってもらうような価値が、本当にあるのだろうか?
この容姿以外、ゆーちゃんの妹という以外での、わたしの価値は・・・?
そう考えると、二人に申し訳なく思ったりもする。
でも、守ってくれる二人の傍を離れることも、怖いと思ってしまう。
ゆーちゃんと瑠威ちゃんが傍にいて優しくしてくれると、嬉しいのに少しだけ息苦しい。
そして、学年の違うゆーちゃんと、クラスの違う瑠威ちゃんと離れると、少しホッとする。
そのクセ、登下校や外出時などには、二人(主にゆーちゃん)がいないときには不安を感じる。
わたしはなんて、自分勝手なんだろう。
ホント、自分で自分が嫌になる。
そして――――
わたしは昔から、ときどき怖い夢を見る。
意味は・・・わからない。
・・・わかりたく、ない。
ただ、凄く凄く厭な夢。
**********
――――どこかの石造りの建物の中。
薄暗い場所に、ドレスを着た女の人がいる。女の人の顔とかは、よくわからない。
そこへ、別の『誰か』がやって来て、女の人へと恭しく包みを差し出す。
女の人が無表情にその包みを受け取って開くと、蓋付きの箱が入っていて――――
ゆっくりと、箱の蓋が開かれる。
女の人は、その『中身』を見て、うっそりと口を歪めて、嬉しそうに微笑む。
箱の、『中身』は――――
とても綺麗な、陶器のような滑らかな白さと、純金を溶かし込んだような金色の髪の――――どこか、見覚えがあるような――――目を閉じた、人形の頭。
そして女の人が、そのとても綺麗な顔をした人形の頭に向かって、なにかを語り掛ける。
恨み言のような言葉を・・・
**********
そしてわたしは、目を覚ます。
この夢が、なぜか昔から凄く厭で怖い。
この夢を見た日は、胸がざわざわとして、なんだか不安な気分になる。
けれど、この夢のことは誰にも話したくない。
そしてわたしは、今朝も・・・夢のことを告げないまま、ゆーちゃんに甘えてしまった。
ゆーちゃんはいつも通りにわたしに優しくて、今日も手を繋いでもらって――――こんな風にゆーちゃんがわたしに優しくしてくれると、ほんの少し息苦しくて、少しだけ胸が痛くなる。
わたしは、ゆーちゃんから向けられる好意に対して、なにも返せていないのに・・・と。
読んでくたさり、ありがとうございました。
初の羽唯視点。
昔助けてもらった?ユキシロのことは、女の子だと思っている模様。
夢は・・・




