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今すぐ俺の感動を返してほしい。

 土御門視点です。

 俺について、勘違いしている奴も存外多かったりするが・・・

 いや、女装をさせた倖白(ユキシロ)を側に置いて、腐っている趣味の姉が考えた『偽装BL作戦』とやらでわざと周囲に勘違いを誘発させていることは事実だ。

 そうまでして女を近付けないようにしている俺は、確かに女が苦手だが・・・しかし、俺は特段、女自体を嫌っているワケではない。


 普段の母親や姉、祖母は、怒らせなければ別に恐怖を感じないし、年の離れた親族の、まともな女性達も同様に怖いとは思わない……まぁ、まとも(・・・)でない(・・・)親族の女共には恐怖を感じるが。

 土御門家(うち)はそこそこな資産家なので、それなりにヤバい親戚がいるし・・・というか、どこの家でもそれなりと言ってはなんだが、頭がおかしかったり、ヤバいような縁者の一人や二人は存在することだろう。男女問わず、そういうモンスター的なヤバい輩に恐怖を覚えるのは当然な筈だ。


 まぁ、それは()(かく)、そういった輩とは関係無く、なぜか俺は、昔から女が怖かった。


 俺に対して好意…というか、恋愛的な興味だろうか? を抱かない女相手ならそうでもないのだが、俺に対しての好意や、容姿や家柄にすり寄って来るような女には、なぜか生理的な恐怖を感じてしまう。


 俺には昔から……おそらくは物心付く以前から不思議と、『そういう女(・・・・・)にいつか殺される』という強迫観念染みた思いが常に心の奥にあって、幼少期にはよく過呼吸とパニックを起こしていた。


 話に拠ると、俺のそれ(・・)は本当に赤ん坊の頃からの症状だったらしい。


 年が離れていても、欲が透けて見えるような女の前では発作を起こしていたという。金目当ての親族などなどの・・・


 別に俺は、女という存在自体を嫌っているというワケではない(写真や映像は平気)のだが、実物の女に好意や欲得、打算などを持って近寄られると、過呼吸やパニックの発作を起こしていた。


 そんな俺を育てるのは、さぞや手が掛かったことだろうと思う。家族には感謝しかない。腐った姉には、少々複雑な感情を抱くが。


 そして・・・チビで女顔で性格と口と態度が悪くて腹黒で、嫌なことは嫌だとハッキリ断れる倖白が、自分の本意ではない女装姿…『偽装BL作戦』で腐った姉に面白がられながら、未だに俺に付き合ってくれているのも、幼少期に起こしていた酷いパニック状態を知っているからだ。


 幾らイトコとは言え、女装という捨て身でここまで俺をフォローしてくれる倖白には、頭が上がらない。一応、感謝している。

 口と態度と性格の悪さに腹が立つことも非常に多いから、本人には絶対言いたくないが。


 そんな風に周囲の人間へと迷惑を掛けていた俺は、原因不明の女性恐怖症をどうにかしたいと思い、過呼吸やパニック発作を緩和させる為にカウンセリングの一環として、催眠療法を受けた。


 そして、あのなんとも言えない前世と称される(たぐい)の、俺の知らない、明らかに時代の違う、俺ではない男の記憶が浮かび上がった。

 俺は自分の前世がクズ男だと思うと酷く嫌だったが、ぼんやりと浮かび上がったその記憶(・・・・)のせいだとすることで、原因不明だった女性恐怖症に(ようや)く折り合いをつけることができた。

 ()は『女に殺されたことがある』から、女に恐怖を抱いて当然なのだ、と。


 それからの俺は、ある程度の距離を置けば女が同じ空間にいても過呼吸やパニックを起こすことが減り、症状の緩和はされたのだが・・・


 罪悪感が、ずっと胸に()り続けている。苦い想いが、どうしても消えてくれない。


 そして・・・あの話をした後から、百合也の顔を見ることができない。


 俺の、女性恐怖症の原因だという前世…らしき話を、百合也はどう思っただろうか?


 倖白が話した、女を何人も侍らせ、最期はその女達に刺し殺されたという男の話を・・・


 百合也は、俺を軽蔑するだろうか?


「・・・」


 百合也と目線が合いそうになる度、怖くて思わず顔を背けてしまう。そんなことを繰り返すうち、授業が終わって休憩時間になり・・・


「土御門。さっきからなんなんだ? じろじろと人の顔を見てるクセに、目が合いそうになると思い切り顔を逸らすだなんて、感じ悪いぞ」


 百合也が不満そうに言った。


「っ!?」


 どうやらバレていたらしい。


「それは勿論、高輝(タカキ)サマはユリヤ様に熱視線を送っていたんですよ」


 ニヤニヤと笑う倖白が猫被りで言う。


「熱視線? なんだそれは」

「高輝サマはユリヤ様にお話があるみたいですよ♪…せやろ? 高輝…」


 百合也には作った声で、俺にはぼそりと素で。


「……その、百合也は……」

「うん? なんだ、土御門。声が小さい」


 首を傾げた百合也の黒い瞳を、見据えて聞く。


「……百合也は、俺を・・・軽蔑するか?」

「? 土御門を軽蔑? 君はなにか、わたしに軽蔑されるようなことをしたのか?」


 きょとんと不思議そうに俺を見返す漆黒。


「いや、特にそんな覚えは無いが・・・その、百合也は先程の・・・俺の、あの話(・・・)を聞いて、自業自得だとか、いい気味だとか、そういう風に思ったりしない、のか?」


 姉が、「もし前世(それ)が本当だってンなら、普通にアンタが悪いっしょ。ま、そりゃ苦しんでも仕方ないよねー」と軽く言って笑ったように・・・

 ちなみに、倖白は「なんや、高輝自分(お前)、自業自得やったんか!」と手を叩いて爆笑しやがったっ!?


 百合也も・・・そう、思うだろうか?


「? ああ、女性恐怖症の原因の話か?」


 俺が言葉を濁したことへ思い当たったようで、けれど百合也は、また首を傾げる。


「なぜだ? 土御門(・・・)自身(・・)が、沢山の女性を侍らせて苦しませたワケではあるまい。今の君(・・・)自身が、女性達に酷いことをして、それで仕返しをされたことに対してトラウマを持つのなら、それは自業自得だと言えるだろう。けれど、それを君が、土御門高輝(・・・・・)としてやったことではないというのなら、今の君(・・・)がそこまで苦しみ続けることはないと、わたしは思う。君を軽蔑するか否かは、君がわたしへ見せる言動で決まることだ。違うか? 土御門」


 真っ直ぐな漆黒の瞳と、


「っ!? 百合、也……」


 思いがけない言葉に、息が詰まる。


 なぜだか、長い……長い間、ずっと胸につかえて重苦しいものが、少し(ゆる)されたような気がして、目の奥がつんと熱くなる。


 込み上げる切なさと、百合也の優しさへじーんと感動していると・・・


(ただ)し、これから五メートル以内に羽唯(ウイ)に絶対近付くな? 土御門。もし貴様が羽唯に近付いた場合、実力行使で排除する」


 深い黒の瞳が、ガチで威圧して来た。


「っ……百合、也? なにを言って」

「とりあえずだな、前世クズ野郎が羽唯に気軽に近付くな?」


 ズドッ! と胸を抉る鋭く冷たい言葉に、


「いや、ちょっ、待てお前っ!? 言ってることがさっきと全く違うではないかっ!? 今の、さも自分は気にしてないし、俺を軽蔑していない的ないい言葉はなんだったんだっ!? それにお前は俺の親友だろうがっ!」


 先程とは別の意味で胸が痛む。とても・・・具体的には、百合也に裏切られた感満載だ。


「? なにを言う、土御門。それはそれ、これはこれだ。確かに、君自身が(・・・・)やってもいないことで苦しむことはないと思っている。が、しかし自称(・・)親友の君との友情など、羽唯の前では、塵芥(ちりあくた)に等しい。可愛い妹に、クズ予備軍が近寄ることをこのわたしが容認する筈が無いだろうが。ということで、君ら(・・)は羽唯に寄るな? 絶対に。ちなみに、立ち塞がるならば君と拳で語ることも辞さないぞ? 影井」


 真面目な顔で好戦的な宣言する百合也に、


「・・・全くぶれてへんし。オマケに、高輝の友情ゴミ扱いて・・・ほんに清々しい程のシスコンやね、ユリちゃんは。けどな、どうしても一つ言わせてもらうわ」


 呆れたような声が途中で変化。キリッとした表情で百合也を見上げる倖白。そして、


「俺を、高輝なんかと一括りにせんといてや。女を複数侍らすようなクズちゃうし。これでも結構一途なんやで? せやから、俺と仲良うしたってや。な? ユリちゃん♥」


 パチンと薄茶の瞳がウィンクした。


 この野郎・・・


「・・・早速わたしを懐柔か? やはり、クズ予備軍ではあるが現状ヘタレな土御門よりも君の方を警戒すべきという考察は、間違いなかったようだな。影井」

「誰がクズ予備軍な現状ヘタレだっ!?」


 思わず声を上げると、


「高輝やろ」

「土御門だな」


 なにを今更? という二対の視線が向けられた。


「お前らっ・・・」


 今すぐ俺の感動を返してほしい。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 前半はちょいシリアス…と見せ掛けて、今回もわちゃわちゃしてますね。そして、土御門と岸原は割と雑な扱いです。

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