『姫百合の騎士』
現代での話はユルいラブコメ?予定ですが、前世パートの話はシリアスとなります。
1話目はちょっとシリアスです。
よろしくお願いします。
わたしの名前は姫津百合也という。現在は日本人で十七歳の高校二年生。
身長百七十センチのスラリとした体型にサラサラストレートの漆黒の髪、そして切れ長の黒瞳。
自分で言うのもなんだが、わたしは細身の美少年と称されるような容姿をしている。
そして、成績は優秀。スポーツも、球技や団体戦は苦手だが、個人競技はそこそこ。
この名前からだろうか? 女の子達に、『姫百合の騎士』と称されることもしばしば。少々気恥ずかしいのだが、名前が美々しいのは仕方ない。母がこの百合也という名を付けたのだ。
そんなわたしには、何を隠そう・・・所謂、前世の記憶というモノが宿っている。
まあ、なんというか非常に胡散臭いという印象を抱くことだろう。そして、「お前大丈夫か? 病院行け」と、心配するような生暖かい視線や、その他言いたいこともあるだろうが、そういうのは結構だ。間に合っている。
わたしも、自分が当事者でなければ、そんなことを言うであろうことは想像に難くない。
しかし、在るモノは在るのだ。受け入れるより仕方あるまい。
そんなわたしの前世についてだが・・・
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それは、とある小国の姫君と騎士のこと。
とある小国に、大変美しい姫君がいた。
金の髪にサファイアの瞳の彼女はそれはそれは美しく、幼い頃よりその美貌に、求婚者が絶えることがなかった。
けれど姫には、将来を誓い合った幼馴染の騎士がいたので、その数多い求婚者達を断っていた。
しかし、金とサファイアの美貌の姫君の噂を聞き付けたとある大国の王が、姫を是非妾にと所望した。
正妃ではなく側室。それは国としても到底受け入れ難いものだったが、小国に大国の要望を跳ね除けられる力などは無く、姫は泣く泣く大国へと輿入れすることが決まった。
けれど、姫の許嫁だった騎士は、例え姫と婚姻を結ぶことができずとも、せめて姫を生涯守ろうと決意し、姫の近衛騎士として仕え、大国へと付いて行くことにした。
そして、姫が大国へと輿入れに行く道中。
ことが、起こった。
姫を大国に輿入れさせたくないという周辺の小国が結託して刺客を送り、移動中の姫一行を襲った。
姫と応戦した近衛達は懸命の奮闘も虚しく、小国の軍勢は多勢の刺客に囲まれて一人残らず全滅。
そして姫は、将来を誓い合った騎士が自分を守って討ち死にし、果てるのを見届け、自分を守る近衛達が誰もいなくなると・・・自刃し、壮絶な最期を遂げたのだった。
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なかなかの悲劇的な結末だと言えるだろう。
細かい部分はところどころ思い出せないが、おおよそはこんなところだったように思う。
そして、この現代日本の姫津家にわたしが生まれたというワケなのだが・・・
わたしは、生まれてからの数年間は普通の幼き子供だったように思う。
しかし、ある日のこと。
わたしは、あの前世の悲劇的な記憶を思い出してしまったのだ。
その切っ掛けというのが・・・
一つ下の妹を愛でているときのことだった。
妹はなんて可愛いのだろう、こんなに可愛くて将来は大丈夫なのだろうか? と、言い知れぬ不安が強く胸に溢れた瞬間、目まぐるしいあの記憶が頭の中を駆け巡り、わたしは気付いたのだった。
なんと、わたしの妹が、前世の姫の容姿と瓜二つだったのだ。無論、日本人なので黒髪黒瞳という色彩で、前世とは人種の差異などは多少あるにしても、妹は・・・とても、非常に愛らしかった!!!!
まあ、前世に比べると、女性が生き易い世ではあると思う。そのことは、とても嬉しく思う。
しかし、神はなんたる試練をこのわたしへと与えたもうことか・・・
わたしは、妹がわたしの妹として生まれて来たことを心底より絶望した。
いつの日か、この愛らしき妹が見知らぬ輩に奪われるときが来ることを!!!!
そして、わたしは決意した。
わたしと妹が血縁である限り、いつの日か必ずや来るであろう、恐怖と絶望とを振り撒く憎き使徒という存在。
その未だ見ぬ怨敵に我が麗しの妹を渡しはすまい、と・・・妹の騎士となることを!
だからわたしは、努力を惜しまなかった。
自分を磨き、文武両道を目指した。
とは言え、前世でも学ぶことは好きだったし、現代日本では「求める知識を男女や貴賤に関係なく学ぶことができて大変素晴らしいっ!?」と感動し、貪欲に本を読み漁った結果とでも言おうか・・・
そして、一応は前世でも多少の武術の心得はあったが、それだけでは足りぬと思い、今生の父上と母上を説得し、可愛い妹を守る為にと頼み込んで格闘技を習わせてもらった。それから修練を積み、古武術と合気道の黒帯を得るに到った。更に、今はキックボクシングも嗜んでいる。
素手では多少心許なく思いはするが、現代日本に於いては銃刀法がある為、前世のように帯剣や銃、暗器など、武器を所持携帯している者はそうそういないだろうと思う。この辺りは、現代日本の官憲諸君の働きに期待するより他ないだろう。
彼らが、わたし達の住む地域の安全を守ってくれることを切に願うばかりだ。
そうこうして、十七年の月日が経った。
我が麗しの妹は小さい頃は綺麗だったのに、大きくなったら少々残念なことに・・・という現象が起こることもなく、日々順調に美しく、愛らしく成長している。
妹の美貌が過ぎて、わたしは常に心配だが。
せめて、同じように双子で生まれて同学年であればっ! と、何度心底より思ったことか・・・まあ、言っても詮無きことなのだが。
だからわたしは小中と、一学年上から先輩風と身内であるという特権を駆使し、妹を守って来た。
けれどさすがに、高校では妹と離れてしまい、酷く辛い思いをした。
一応、妹と同学年且つ、わたしの弟分の信頼できる幼馴染に妹を託すという手を打ってはいたが・・・なんかもう、いつかわたしから妹を奪って行くであろう男には、よもや殺意しか湧かず・・・
しかし、妹がわたしを追って同じ高校に来てくれたことを、とても嬉しく思った。
ちなみに、件の弟分こと幼馴染も一緒だ。
そして、我が校の制服を纏った愛らしい妹の姿を目に焼き付けたのも束の間。
とうとう、わたしと父が恐れてやまぬこの日が、来てしまった・・・
恐怖と絶望の使徒・・・候補が現れたっ!?
読んでくださり、ありがとうございました。