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笑顔、優しいことば、温かい腕。その奥にあるしたたかで激しい心。さしのべられる手……すがりつこうとした矢先に、相手の掌に既に載せられている色白の指に気付く。
(レアナ姉さま)
軽々とレアナを抱き上げるアシャ。
金褐色の髪に栗色の髪が絡み付き、紫水晶の瞳にガーネットの輝きが応える。まばゆい光景……胸の痛みをも忘れさせそうな美しい二人。
(綺麗、だな)
アシャとレアナがお互いの手を取り、振り向く。
祝福してくれるわよね、ユーノ。
レアナが囁く。零れるような喜びの顔。
(ええ、姉さま)
俺とレアナ皇女は似合うと思わないか。
満足そうにアシャが言う。誇らしげに自信を満たす笑み。
(そうだね、アシャ)
寄り添う2人の前で、ユーノは必死に笑顔をつくる。
(2人ともとってもお似合いだ。嬉しいよ、私も。アシャがいれば皇宮は安泰だし、姉さまも母さまも、父さまもセアラも安心して暮らせるもの)
『嘘……つ……き』
呟きに遠く反論する小さな声を聞くまいとする。
ユーノの返答を聞いて、アシャとレアナがほっとしたように笑い合う。
よかった、そう言ってくれると思っていたよ。
華やかな結婚式、そして、続く荘厳な戴冠式。レアナの頭を飾る王冠をアシャがまばゆげに見つめ、レアナはにこやかにアシャの手を取り宣言する。
『あなたは我が主、よってセレドもまた、あなたに従います』
上がる歓声、舞う花吹雪、人々が興奮して皇宮のテラスに並び立つ艶やかな2人を見上げて叫ぶ。なんて美しい。なんて素晴らしい。なんて見事なお2人だ!
名実ともに、アシャはユーノの兄となり、ユーノはアシャの妹になる。
ユーノは深く礼をとり、儀式として祝いを述べた後にアシャとレアナに笑いかける。
(アシャ兄さま、だね。アシャが兄さまなら大歓迎だよ)
『嘘つ……き』
儚く響く声を、ユーノは聞かない。
(ねえ、アシャ、見てやってよ。ほら、レアナ姉さまったら真っ赤だ。ね、ああいうところが姉さまながら可愛いんだ。アシャもそう思うでしょ)
思うよ、ユーノ。
アシャが愛おしくレアナを見遣りながら呟く。
レアナ姫は本当に一生守らねばならない女性だと感じる。俺がいなくてはいけない、と。
紫の瞳が潤むようにレアナを見下ろし、レアナが静かに微笑み返す。
私も、いえ、私こそ、あなたあればこそ生きております。
(姉さまを幸せにしてよね、私から奪っちゃうんだから。喧嘩したらね。仲直りの方法、教えてあげるよ)
『嘘つき……』
掠れた声が震えて響く。打ち消すようにアシャが笑う。
ああ、是非。だが、俺がレアナを傷つけるようなことはないだろう。大事な人だから。
(そう、だよね)
私には、そうじゃないものね。ことばを噛み殺す。
(アシャってどっちかっていうと、私にはずっと兄貴風ふかしてたから……ああ、じゃあ私は弟か)
そうなるな、はねっかえりの手に負えない弟だ。
(うん、そうだろうと思ってたんだ、でも弟でいいから、これからよろしく)
笑う。
『嘘つき』
声が責める。
(レアナ姉さまが大好きなんだよね、アシャ)
2人は互いを抱き締めあう。
『ぴったりだね』
どこに隙間があるというのだろう。
(レアナ姉さまもアシャが好きで…)
距離が離れても通いあう心はペンダントを託した祈りが示している。
『どうにもならないじゃない』
たとえレアナと張合うほどの美人であっても。
(相思相愛で)
セアラと並ぶほど強気に出たとしても。
『私の入り込める余地はない』
目の前で見つめあう2人が教えている。
(アシャが私に優しいのは、姉さまの妹だからで)
大事な人の妹だから。
『ユーノだから、じゃなくて』
レアナを傷つけないように。
(ラズーンへ付いてきてくれたのも、姉さまに頼まれたからで)
ユーノが無謀なことを言い出したとレアナが不安がったから。
『私が行くから、じゃなくて』
ユーノを案じてくれたわけではなく。
『親切なのも、セレドの第二皇女だからで』
これまで出会った人々のように。
ユーノ自身を求めて心配してくれたのではない。
『行き場がない』
そんなこと、わかっていた。
『なのに、アシャが優しい』
期待してしまった、けれど。
『アシャが生きて帰れば、セレドは大丈夫で』
言い聞かせないと、守りたい気持ちの理由がつかない。
『私でなくても』
アシャを支えることができれば誰でもいいのだろうけど。
『アシャは守ること、レアナ姉さまとセレドのため』
せめて。
好いてもらえないなら、せめて役に立ちたい、一瞬だけ、よくやったと褒めてもらいたい、その瞬間だけでも。
ユーノを、見て、ほしい。
でも。
『傷を』
見られた。愛するに価しないと見抜かれた。




