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ラズーン 1  作者: segakiyui
11.知将ゼランの陰謀

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8

 そうだ、その通りだ。

 遥か昔に絶滅したはずの怪物達。

 それがシェーランに居るだけでもおかしなことだったのに、まだもう1匹生きているばかりか、再びユーノの前に現れた。太古生物が何かの理由で生き残っていたにしても、確率としては異常すぎる。

 いつの間にか太古生物が世界に溢れ返っていたか、それとも。

「でも、居る、おまけに」

 なぜかボク達を狙ってる。

 そう考えた方が納得できる。

 けれどなぜ?

 唇を噛んだユーノの頭の隅に閃いたのは、流浪の旅人にしては眩すぎる容貌の謎の男。

(アシャは驚いていなかった)

 太古生物の存在を、それと接触する可能性を、まるで知っていたかのようだ。

(なぜ?)

「一体どうなってやがる!」

 イルファが舌打ちしながら身を翻す。

「なんだってこういろんな太古生物が生き残ってる!」

「いろんな?」

 それはどういう意味だ、そう確認しかけた矢先、

「ユーノっっ!」

 グワッシャッッ!

「きゃあっ」

 すぐ側の壁がきしみながら破れてレガの頭が覗いた。ぎろりと見回してくる緑の複眼が粘りつく油のような輝きでユーノ達を捉える。悲鳴を上げたレスファートがすがりついてくるのを抱える。

「イルファ、剣!」

「ほ……と、いかん!」

 つい剣を投げ渡しかけたイルファが危うく手元に引き止める。

「アシャに止められてるんだっけな」

「そんなこと言ってる場合じゃない!」

 ユーノは急いで小袋から薬を含んで呑み下した。苦い味に顔をしかめて、身構えながら叫ぶ。

「傷が治るより先に殺されるだろっ!」

「いいからそこにいろっっ!」

 イルファが吠えるように叫んで、大刀を抜き放ちながら戸口から飛び出していった。応じるようにレガが体を引き、後ずさって向きを変える。

「だめだ、イルファ、1人じゃ殺られる!……?」

 レスファートを突き放しながら立ち上がろうとして、ユーノはレガの背中に黒々と身を潜めている影を見つけて目を見張った。

「人…?」

 漆黒のざんばら髪をなびかせ、ユーノに答えるように振り向いた瞳は真紅、嘲笑う形で歪めた唇も血を塗ったように赤い。穀物袋のような布目の荒い黒い服、レガの背中にひたりと吸いつくように腰を降ろした異形のものは、男とも女ともわからない。ぎょろぎょろと大きな目でユーノをねめつけると、ふいに顔の向きを変えて何ごとか甲高く叫んだ。

 呼応するようにレガがあの女性の悲鳴のような叫びを上げ、速度を上げて目の前に飛び出したイルファに迫る。

「く、そっ!」

 立ち上がろうとして背中の痛みに呻き、ユーノはもう一粒、薬を口の中に入れて噛み砕いた。飲み下す喉に灼けるような苦味、えづきながら何とか呑み込み、獲物を求めて周囲を見回す。

「だめだよ、ユーノ!」

 レスファートがはっとしたように飛びついてきた。

「真っ青だよ!」

 そういうレスファートも負けず劣らず顔色が悪い。気付いてユーノは厳しく叫んだ。

「離れて、レス!」

 びくっと身を竦めて、レスファートが固まる。

「心にも近付くなっっ!」

「っ」

 ぎゅっとこぶしを握り目を閉じたレスファートが半泣きになる。

 ごめん。

 心で謝って、けれどレスファートを部屋の隅に押しやった。

 へたに心を近付けられていては、戦えるものも戦えなくなる。ユーノは我慢できる傷みでも、レスファートを思って自分を庇ってしまう。

 そんなことでは生き延びられない。

 立ち上がり、よろめきながら部屋を進んだ。すぐに呼吸が上がってくるのを、早く薬が効いてくれればいいのに、と歯ぎしりしながら願う。

 何とか戸口に辿り着いたユーノの眼前、いくらイルファが巨漢とは言え、レガの前では四肢が動く人形のようにしか見えないまだるっこしさで剣を揮う姿があった。

 レガはまだ遊んでいる。前足でイルファの動きを嬲っては、何度かのしかかって威嚇している。

「ち、くしょ…っ」

 娘達の姿が脳裏を過った。

 確かに無神経で大雑把で失礼な男だけれど、それでもアシャが頼みとしていること、レスファートの守りであるのは変わりない。こんなところで、娘達のように屠られてしまってはレクスファの王にも申し訳がたたない。

(私と、関わった、から、なんて)

 次々死なれては、この先とても旅などできない。

「剣、を…どこへ…」

 少しずつ背中の痛みが薄れてきた。だが、同時に体の感覚が鈍くなってきた気もする。

 なるほど痛み止めは痛み止めだが、全身の知覚を低めるものだったのだ、と気付いた。

「ってこと、は」

 はあはあ喘ぎながら戸口にもたれる。

「あんまり、動け、ないって、こと、か」

 あの洞窟でレガの巨体は身動きしにくかった。だからこそのユーノ達の利点、しかもアシャで気を逸らせた一瞬に躍りかかるのに十分な場所も手がかりもあった。

 だがしかし、ここは森の外れ、森の中に逃げ込んでしまうこともできるが、あの重量で追ってこられては木々など盾にもならないだろう。ましてや、行く手を樹木に遮られてしまい、逆にユーノ達に不利になる。

 どうする。

「ユーノ!」

 こちらに気付いたイルファが汗塗れになりながら叫んだ。

「出てくるなと言っただろうが!」

「人のことより、自分の心配をしろよっ!」

 叫び返すユーノを背中の黒づくめの者が振り向く。くくく、と微かに嗤った気配にむっとしたが、冗談じゃない、このままではイルファ、ユーノと屠られて、最後はレスファートまで見つかってしまう。

 それは、いやだ。

 ぞっとしてユーノは頭を働かせる。


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