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ラズーン 1  作者: segakiyui
5.標的として
21/131

4

 熱い、熱い、熱い……。

 ユーノの夢の闇は暗く燃え上がっている。

(傷のせいだな)

 ユーノは呟く。

 何度も経験してきたことだ、今さらうろたえるものでもない。

 痛みが強まる。血が流れ出していったまま、永久に止まらない気がしてくる。

 血を流しているのはどこなのだろう。

 腕か、脚か、腹か、胸か。

 美しい姉、可愛い妹、たおやかな母、穏やかな父。

 幸福で優しい家族。

 誰にすがれるというのだろう。

 誰にユーノの傷みを訴えればいいのだろう。

 訴えれば最後、家族はユーノを案じる。カザドに怯える。自分達の無力に傷つき、苛立ち、不安がる。

 いずれはカザドに呑み込まれるしかない国だとしても、できれば今少しの平安を保ちたい。偽りでもいい、それがユーノ1人の犠牲で済むのなら。ユーノが戦うことで、平穏が続いてくれるのなら。

 血を流しているのは心だ。見捨てられ顧みられることなく朽ち果てていくその傷みを、誰にも告げられないで闇に沈む心。

 誰もユーノを振り返らない。誰もユーノの側で立ち止まらない。

 いや、立ち止まってしまえば、それは新たなる悲劇を生むだけで。

(サルト)

 激情に泣いた。2度とこんなことは引き起こさないと誓った。

 闇は朱に染まっていく。血の紅、炎の紅蓮。

 引き裂かれた肉の海にのたうつユーノの額に、ふいにひらりと落ちて来たものがあった。

 ひんやりとした、心を寛がせ和らげる感覚。静けさが額から荒れた心に染み通ってくる。

(何……?)

 ナニヲ、シテイル。ドウシテ、ヨバナイ。

 それが落ちてきた彼方の上空から、一つの声が響いた。

 苛立たしげな、心配そうな………アシャの声。

(アシャ、だって?)

 微苦笑を漏らす。赤く熱いものに濡れた手で額を触れる。

 だが、そこには何もない。

(ほら、ね)

 吐息をついて手から力を抜く。

(アシャは姉さまが好きなんだ。優しくしてくれるのは、セレドの皇女だから……姉さまの妹だからだ。危険な旅に付き合ってくれたのも……姉さまに頼まれたから……)

 くす、と皮肉な笑みを零す。

(期待しちゃいけない……アシャの視界に入ってるなんて思っちゃいけない………私は………ユーノ、として気遣われているわけじゃない……)

 深く息を吐くと溜まった涙が溢れ落ちた。傷みが再びきつくなる。歯を食いしばってそれを堪えながら、ユーノは再び昏い夢に落ち込んでいった。


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