11
「アシャ…が……男がいい……だなんて」
そりゃ、そういう感じもするけどさ。
さっきまでの可愛らしさはどこへやら、ユーノは体を折り曲げて笑っている。
「イルファは喜ぶだろうなあ」
「おい」
「それどころか、妙な取り巻きもできそう」
「あのな」
「ほんとに男のほうがいいの?」
ちらっと悪戯っぽい目で見やって来たユーノが付け加え、反論しようとした矢先、ふい、と目を逸らせた。
「男がいいから」
「?」
「男の人がいいから……私にでも、キス、できたの……?」
「何を言ってる」
手を伸ばして俯きがちになった頭をくしゃりと押さえる。
「俺は色惚けじゃない」
ちゃんと相手は選んでる。
証明するようにくしゃくしゃとユーノの頭を撫で回した。
さっきまで震えていた熱はない。けれど、掌にあたる小さな頭がひどく愛しく大事なものに思えて、そのままもう一度抱き込みたくてたまらない。
逃げるかと思ったユーノは大人しく頭を撫でられながら、小さな声で呟いた。
「……ありがと」
優しいね。
ふいに、ぱっと顔を上げ、にっこり明るい笑みを浮かべる。
「大事な人へのキス」
もらっちゃってごめんね?
消え入りそうな儚い気配にどきりとする。
「ユーノ?」
「私だったら、好きな人以外にキス、できないな」
「う」
暗に自分の無節操さを詰られた気がしてアシャは怯んだ。
確かに今まではあれやこれやと相手が途切れたことはない、ないが今はとにかく俺はお前が。
「でも、アシャは違うんだよね」
何が?
確認され間抜けな問い返しをしそうになって口をつぐむ。
「私も、アシャ、みたいな男の人に、生まれたかったな」
へへへ、とユーノは笑った。
「大事な仲間のためなら、自分の信条曲げてもあらゆる手立てを打てるような男に」
自分の信条を曲げても?
ことばの意味が微妙に伝わってこない気がして眉を寄せる。
それはつまり、俺が不本意なキスをしたって考えてるってことか?
ようやく思い至って慌てて口を開く。
「ユーノ、俺は」
お前が大事だから。いやむしろ、お前が欲しかったから。
「それでさ!」
言いかけたことばをあっさり封じられて、
「私も、アシャみたいに器の大きな剣士になる」
これからもよろしくご指導、お願いします!
改まって頭を下げられ、伸ばしていた手が宙に浮いた。
「さ、いこ! レスが待ってるよ」
「ユーノ!」
はっとして我に返った時は既に遅く、さっさとヒストに跨がったユーノはもう向きを変えている。そのまま置き去りにされそうで、急いで馬のところに駆け戻る。
だがユーノはアシャを待つ前に走り出した。
「ユーノ!」
叫ぶ声に振り返らない。
「違うんだ!」
「わかってるーっ」
明るい声が返ってくる。
「心配しなくていいからーっ」
けれど速度を落とさない。
「違う、俺は!」
何がわかってる? 何もわかってない、アシャのことばを聞いてもいない。
「く、そ!」
このまま距離があいてしまったら。
アシャは必死にユーノに轡を並べようと駆ける。
「アシャ…が……男がいい……だなんて」
そりゃ、そういう感じもするけどさ。
さっきまでの可愛らしさはどこへやら、ユーノは体を折り曲げて笑っている。
「イルファは喜ぶだろうなあ」
「おい」
「それどころか、妙な取り巻きもできそう」
「あのな」
「ほんとに男のほうがいいの?」
ちらっと悪戯っぽい目で見やって来たユーノが付け加え、反論しようとした矢先、ふい、と目を逸らせた。
「男がいいから」
「?」
「男の人がいいから……私にでも、キス、できたの……?」
「何を言ってる」
手を伸ばして俯きがちになった頭をくしゃりと押さえる。
「俺は色惚けじゃない」
ちゃんと相手は選んでる。
証明するようにくしゃくしゃとユーノの頭を撫で回した。
さっきまで震えていた熱はない。けれど、掌にあたる小さな頭がひどく愛しく大事なものに思えて、そのままもう一度抱き込みたくてたまらない。
逃げるかと思ったユーノは大人しく頭を撫でられながら、小さな声で呟いた。
「……ありがと」
優しいね。
ふいに、ぱっと顔を上げ、にっこり明るい笑みを浮かべる。
「大事な人へのキス」
もらっちゃってごめんね?
消え入りそうな儚い気配にどきりとする。
「ユーノ?」
「私だったら、好きな人以外にキス、できないな」
「う」
暗に自分の無節操さを詰られた気がしてアシャは怯んだ。
確かに今まではあれやこれやと相手が途切れたことはない、ないが今はとにかく俺はお前が。
「でも、アシャは違うんだよね」
何が?
確認され間抜けな問い返しをしそうになって口をつぐむ。
「私も、アシャ、みたいな男の人に、生まれたかったな」
へへへ、とユーノは笑った。
「大事な仲間のためなら、自分の信条曲げてもあらゆる手立てを打てるような男に」
自分の信条を曲げても?
ことばの意味が微妙に伝わってこない気がして眉を寄せる。
それはつまり、俺が不本意なキスをしたって考えてるってことか?
ようやく思い至って慌てて口を開く。
「ユーノ、俺は」
お前が大事だから。いやむしろ、お前が欲しかったから。
「それでさ!」
言いかけたことばをあっさり封じられて、
「私も、アシャみたいに器の大きな剣士になる」
これからもよろしくご指導、お願いします!
改まって頭を下げられ、伸ばしていた手が宙に浮いた。
「さ、いこ! レスが待ってるよ」
「ユーノ!」
はっとして我に返った時は既に遅く、さっさとヒストに跨がったユーノはもう向きを変えている。そのまま置き去りにされそうで、急いで馬のところに駆け戻る。
だがユーノはアシャを待つ前に走り出した。
「ユーノ!」
叫ぶ声に振り返らない。
「違うんだ!」
「わかってるーっ」
明るい声が返ってくる。
「心配しなくていいからーっ」
けれど速度を落とさない。
「違う、俺は!」
何がわかってる? 何もわかってない、アシャのことばを聞いてもいない。
「く、そ!」
このまま距離があいてしまったら。
アシャは必死にユーノに轡を並べようと駆ける。




