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ラズーン 1  作者: segakiyui
17.『しゃべり鳥』(ライノ)

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130/131

11

「アシャ…が……男がいい……だなんて」

 そりゃ、そういう感じもするけどさ。

 さっきまでの可愛らしさはどこへやら、ユーノは体を折り曲げて笑っている。

「イルファは喜ぶだろうなあ」

「おい」

「それどころか、妙な取り巻きもできそう」

「あのな」

「ほんとに男のほうがいいの?」

 ちらっと悪戯っぽい目で見やって来たユーノが付け加え、反論しようとした矢先、ふい、と目を逸らせた。

「男がいいから」

「?」

「男の人がいいから……私にでも、キス、できたの……?」

「何を言ってる」

 手を伸ばして俯きがちになった頭をくしゃりと押さえる。

「俺は色惚けじゃない」

 ちゃんと相手は選んでる。

 証明するようにくしゃくしゃとユーノの頭を撫で回した。

 さっきまで震えていた熱はない。けれど、掌にあたる小さな頭がひどく愛しく大事なものに思えて、そのままもう一度抱き込みたくてたまらない。

 逃げるかと思ったユーノは大人しく頭を撫でられながら、小さな声で呟いた。

「……ありがと」

 優しいね。

 ふいに、ぱっと顔を上げ、にっこり明るい笑みを浮かべる。

「大事な人へのキス」

 もらっちゃってごめんね?

 消え入りそうな儚い気配にどきりとする。

「ユーノ?」

「私だったら、好きな人以外にキス、できないな」

「う」

 暗に自分の無節操さを詰られた気がしてアシャは怯んだ。

 確かに今まではあれやこれやと相手が途切れたことはない、ないが今はとにかく俺はお前が。

「でも、アシャは違うんだよね」

 何が?

 確認され間抜けな問い返しをしそうになって口をつぐむ。

「私も、アシャ、みたいな男の人に、生まれたかったな」

 へへへ、とユーノは笑った。

「大事な仲間のためなら、自分の信条曲げてもあらゆる手立てを打てるような男に」

 自分の信条を曲げても?

 ことばの意味が微妙に伝わってこない気がして眉を寄せる。

 それはつまり、俺が不本意なキスをしたって考えてるってことか?

 ようやく思い至って慌てて口を開く。

「ユーノ、俺は」

 お前が大事だから。いやむしろ、お前が欲しかったから。

「それでさ!」

 言いかけたことばをあっさり封じられて、

「私も、アシャみたいに器の大きな剣士になる」

 これからもよろしくご指導、お願いします!

 改まって頭を下げられ、伸ばしていた手が宙に浮いた。

「さ、いこ! レスが待ってるよ」

「ユーノ!」

 はっとして我に返った時は既に遅く、さっさとヒストに跨がったユーノはもう向きを変えている。そのまま置き去りにされそうで、急いで馬のところに駆け戻る。

 だがユーノはアシャを待つ前に走り出した。

「ユーノ!」

 叫ぶ声に振り返らない。

「違うんだ!」

「わかってるーっ」

 明るい声が返ってくる。

「心配しなくていいからーっ」

 けれど速度を落とさない。

「違う、俺は!」

 何がわかってる? 何もわかってない、アシャのことばを聞いてもいない。

「く、そ!」

 このまま距離があいてしまったら。

 アシャは必死にユーノに轡を並べようと駆ける。


「アシャ…が……男がいい……だなんて」

 そりゃ、そういう感じもするけどさ。

 さっきまでの可愛らしさはどこへやら、ユーノは体を折り曲げて笑っている。

「イルファは喜ぶだろうなあ」

「おい」

「それどころか、妙な取り巻きもできそう」

「あのな」

「ほんとに男のほうがいいの?」

 ちらっと悪戯っぽい目で見やって来たユーノが付け加え、反論しようとした矢先、ふい、と目を逸らせた。

「男がいいから」

「?」

「男の人がいいから……私にでも、キス、できたの……?」

「何を言ってる」

 手を伸ばして俯きがちになった頭をくしゃりと押さえる。

「俺は色惚けじゃない」

 ちゃんと相手は選んでる。

 証明するようにくしゃくしゃとユーノの頭を撫で回した。

 さっきまで震えていた熱はない。けれど、掌にあたる小さな頭がひどく愛しく大事なものに思えて、そのままもう一度抱き込みたくてたまらない。

 逃げるかと思ったユーノは大人しく頭を撫でられながら、小さな声で呟いた。

「……ありがと」

 優しいね。

 ふいに、ぱっと顔を上げ、にっこり明るい笑みを浮かべる。

「大事な人へのキス」

 もらっちゃってごめんね?

 消え入りそうな儚い気配にどきりとする。

「ユーノ?」

「私だったら、好きな人以外にキス、できないな」

「う」

 暗に自分の無節操さを詰られた気がしてアシャは怯んだ。

 確かに今まではあれやこれやと相手が途切れたことはない、ないが今はとにかく俺はお前が。

「でも、アシャは違うんだよね」

 何が?

 確認され間抜けな問い返しをしそうになって口をつぐむ。

「私も、アシャ、みたいな男の人に、生まれたかったな」

 へへへ、とユーノは笑った。

「大事な仲間のためなら、自分の信条曲げてもあらゆる手立てを打てるような男に」

 自分の信条を曲げても?

 ことばの意味が微妙に伝わってこない気がして眉を寄せる。

 それはつまり、俺が不本意なキスをしたって考えてるってことか?

 ようやく思い至って慌てて口を開く。

「ユーノ、俺は」

 お前が大事だから。いやむしろ、お前が欲しかったから。

「それでさ!」

 言いかけたことばをあっさり封じられて、

「私も、アシャみたいに器の大きな剣士になる」

 これからもよろしくご指導、お願いします!

 改まって頭を下げられ、伸ばしていた手が宙に浮いた。

「さ、いこ! レスが待ってるよ」

「ユーノ!」

 はっとして我に返った時は既に遅く、さっさとヒストに跨がったユーノはもう向きを変えている。そのまま置き去りにされそうで、急いで馬のところに駆け戻る。

 だがユーノはアシャを待つ前に走り出した。

「ユーノ!」

 叫ぶ声に振り返らない。

「違うんだ!」

「わかってるーっ」

 明るい声が返ってくる。

「心配しなくていいからーっ」

 けれど速度を落とさない。

「違う、俺は!」

 何がわかってる? 何もわかってない、アシャのことばを聞いてもいない。

「く、そ!」

 このまま距離があいてしまったら。

 アシャは必死にユーノに轡を並べようと駆ける。



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