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ラズーン 1  作者: segakiyui
17.『しゃべり鳥』(ライノ)

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126/131

7

「ええそうよ」

 ライノがちらりとユーノを見やる。

「アシャはその子の居場所を引き換えにと望んだの」

「……え…?」

 続いたことばに混乱して、やがて水が砂地にしみ込むように意味が通ってくる。

 アシャがユーノの居場所を知るために、交換条件として『しゃべり鳥』(ライノ)とキスしたって?

「まさか」

「まさか? 残念ながら本当よ」

 思わず呟いたユーノにライノは苛立った。

「しかも教えてあげたのに、すぐに扉を閉じてあたし達の好意を裏切ったの」

「なんてこと!」

「こんなきれいなあたし達を!」

「いくら視察官オペでも許せない!」

「まだあるわ」

 ライノは唇を歪めた。

「その子を助けるために、アシャは今こちらへ向かっている」

 ふいに『しゃべり鳥』(ライノ)達は静まり返った。ゆっくりと無言で首を回す。彫像の群れが自分達を縛りつけていた鎖に唐突に気づいたように。

「……」

 古びて今にもねじ切れそうなからくり人形が、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、と鈍い音をたてながら振り返り、ことりと動きを止める。

 そんな気配で、『しゃべり鳥』(ライノ)達が首だけ振り返った姿勢のままで固まる。

「……」

 沈黙の凝視。

 大きく見開いた瞳は石のようだ。喜びも怒りも消え失せた虚ろな表情。

 風も止まった。『鳴き鳥』(メール)も歌わない。木立の葉も鳥籠も世界が全て静止する。

 こちらを見ている動かない顔、それぞれぽっちりと様々に赤い唇が、たった1つの意識に操られるように全く同時にことばを紡ぐ。

「お前の、ために?」

 動かぬ空気、まとわりつく濃度には覚えがある。クノーラスの居城でドヌーに四方を固められたあの瞬間と同じ。

(殺気!)

 とっさに体が動いて剣を手元に引き寄せた次の瞬間、

「っあ!」

 黄金の矢のように次々と伸びてきた髪が鳥籠の中に突き刺さり、ユーノの服を裂いた。必死に振り払った腕は絡みついた髪の毛に引き延ばされ、脚を掴まれ引きずられ、勢いに転がりそうになったのを堪えたとたん、喉に巻き付いた一房に容赦なく締め上げられて倒される。

「っっっ」

 もぎ取られそうになった剣を力に逆らって抱え込むが、一層強く喉を締められ、見る間に頭が加熱した。

「はっ…」

 呼吸ができない、肺が焼けつく。

「ん、うっ!」

 意識を飛ばしかけたとたん別方向から違う髪に引っ張られた。そのままあちこちから『しゃべり鳥』(ライノ)が好き勝手に統制なく引きずろうとする。逆に喉の圧力が弱まって剣を振る隙ができた。

「、の…っ」

 激しい頭痛と弾けそうなこめかみの拍動を堪えて剣を振り切る。肉を斬ったような不快な感触、持ち主のしゃべりライノが自分の鳥籠の中で悲鳴を上げて転がる。拮抗していた力を断たれて、違う方向に吹っ飛ぶように引き寄せられる。同時にそちらから引っ張っていた別の『しゃべり鳥』(ライノ)も籠にぶつかり髪が強く引っ張られ、鋭い叫びを上げる。

「きゃああっ!」

「この馬鹿!」

「許せない、醜いくせに!」

 一瞬緩んだ攻撃の手、だが次に伸びてきた無数の金髪が掴んだのは鳥籠そのものだった。

「こうしてやる!」

「落としてやる!」

「潰れてしまえ!」

「壊れてしまえ!」

 呪詛の声と一緒に周囲から交互に激しく引っ張られて、鳥籠の中でユーノは剣を抱き込んで転がり回った。

「く…うっ」

 籠の棘が突き刺さり、無数の傷とむずがゆく痺れる痛みを晒した部分に残していく。顔を庇うのもままならない。目を傷つけまいと固く瞼を閉じた隙に剣を奪われ、揺さぶられる鳥籠の中で躍らされ、悪意の蛇となってしなる髪に叩かれる。

「、うっ」

 衝撃に吐きそうになる、揺さぶられる鳥籠が今にも壊れそうにぎしぎし鳴りながら、地上激突すれすれまで落とされ、また跳ね上げられる。さすがに抵抗できなくなって四つん這いになった瞬間、もう一度首を髪で包まれ仰け反った。

「ぐ…っ」

 今度はちょっとやそっとでは外せない、喉に幾重にも巻かれた髪に爪を立て、指を押し込み隙間を作ろうとするが、緩く痺れた全身は震えるだけで力が入らない。

「いい気味!」

「あははいい気味!」

「きれいでしょ、あたし達!」

「ぐしゃぐしゃ!」

「もっと汚くなっちゃえ!」

「消えろ!」

「消えてしまえ、あたし達の目の前から!」

「いなくなってしまえ、アシャの側から!」

「あ、ぐっ」

 喘ぎながら開いた口から空気が入ってこない。朦朧とする視界がとらえた空は晴れやかに青い、それが見る見る薄黄色く濁っていく。

(く、そ)

 引きずられて鳥籠の上部へゆっくり首を吊り下げられていく、もがいた脚の爪先が空を蹴るが、もう届かない。

 せめて籠に、足が、かかれば。

 霞む意識でなおも暴れる、その次の瞬間、

「きゃああっっっっ!」

 引き裂くような悲鳴が響いた。

「なに!」

「何なの!」

視察官オペ?」

「アシャ?」

「ひ、いいいいい!」

 およそ『しゃべり鳥』(ライノ)が上げるとは思えない悲痛で掠れた悲鳴が再び響き、ぼんやり目を開けたユーノの視界で1つの鳥籠が枝から離れて転がり落ちた。


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