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ラズーン 1  作者: segakiyui
16.鳥たちの森

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118/131

7

 ライノは手近の蔓を手に取り、たぐり寄せるように飛び上がった。白い薄衣が翻って視界を上昇したかと思うと、すぐにレスファートの鳥籠がするする降りて地面に着く。

「ゆーの…」

「キスしてあげれば?」

 ライノの声にひざまずき、そっと手を伸ばすとレスファートはいそいそとすがりついて、嬉しそうに頬を差し出してくる、その矢先。

 ぎしっ、ときしみ音をたてて、扉が開いた。

「……キスも、していないのに…」

 ライノが呆気にとられた声で呟く。

「どうして扉が………あなた、『銀の王族』ね!」

 はっとしたように叫んだライノと同時に、きしりながら扉はどんどん開いていき、すぐにレスファートが半身抜け出せるほどになった。

「キスもせずに扉を開けられるのは、『銀の王族』かラズーン直々の視察官オペしかいないもの!」

 オペ。

 そのことばを幾度か耳にしたことがある。

「オペ…?」

「そうよ、視察官、でもあなたはそうは見えないものね」

 ラズーン直々の視察官。

 ユーノの頭を過ったのはセレドへやってきたイシュトの姿、そして、とてもよく似た気配を持つもう一人の正体不明の男。

(アシャ)

 アシャがもしそうならば、あの広範な知識と異常に高い経験値も納得できる。

(でも、それならなぜ、あんな姿でセレドに?)

 ひょっとして、何か別の意図があったのか?

「ユ、ユーノ」

「あ…ごめん」

 半開きの扉から体を抜き出したレスファートの頬にそっと唇を当てた瞬間、びしっ、と鋭く木が裂ける音が響いて扉が開いた。転がり落ちるようにレスファートが飛び出し、しがみついてくる。

「ユーノ!」

 強がっていてもやはり怖かったのだろう、レスファートの身体は冷えてがたがたと震えている。

 その耳元に小さく囁いた。

「いい? アシャ達は近くまでやってきてる。しゃべりライノ達の鳥籠の鍵とその在処、アシャなら知ってるかもしれない。探し出してほしいって伝えて?」

「で、も」

 掠れた声でレスファートが反論する。

「もし、みつから、なかったら」

「その時は」

 もしアシャがラズーン直々の視察官ならば、セレドの忠誠もカザドの悪行もきっとラズーンに届くだろう。ユーノがラズーンに辿り着けなくても、ユーノが全力を尽くしてラズーンに向かおうとしたことは伝わるだろう。そしてもし、ラズーンの視察官がセレドの次代王として降りてくれるのなら、セレドは末永く安泰、ユーノが先行きを案じるまでもない。

「ボクのことはいい」

 見捨てて先へ進んで。

「いやっ!」

 レスファートは間髪入れずに叫んだ。

「いや、いやだって、そんなの、ぜったいいやっ」

 それぐらいならぼくがここに残る、ぼくが失敗したんだから、ぼくがこの『おばさん』達を怒らせたんだから。

「ぼくがせきにんをとる!」

 ぼろぼろ泣き出しながら、レスファートが叫んで、周囲のしゃべりライノ達がまた険しい気配になった。

「いやだったら、い……っ!」

 びくっとレスファートが身体を強張らせた。

「ゆ…の……」

 ひどい、よ。

 小さく呟いて、泣き顔のままユーノ腕に崩れ落ちる。

「ごめん」

 このままでは長引く一方、そう判断して軽く当て身を食らわせたのだが、レスファートにはちょっときつかったかもしれない。

 眉をしかめつつ謝って、

「ヒスト!」

 呼ぶと栗毛の馬はふんふんと鼻を鳴らしながら近づいてきた。

「レスをアシャ達のところへ運んでくれ」

 ふふん、と汗に濡れたレスファートの髪を嗅ぎ、ふんふん、とユーノの髪に鼻を寄せ、頭を振り上げた。

「っふぅん」

「ありがとう」

 仕方ないなと言いたげな仕草に微笑みながら、ユーノは気を失ったレスファートをしっかりとヒストの背中に固定する。

「行ってくれ、静かに」

 ヒストはうっとうしそうに頭を跳ねた。ためらう様子もなく向きを変え急ぎ足に離れていくが、視界から消える瞬間にちらりとユーノを振り返り、軽く尾を振ってみせる。

 と、そのすぐ後からライノがふわふわと着かず離れず追いかけるのが目に入った。

「あれは」

「見張りよ」

 側の鳥籠から声が響いて振り返る。

 ライノと同じく金色の髪、鮮やかな瞳はやや緑がかって美しいが、かくりと首を傾げて微笑んだのに寒いものが走る。

「あなたをここに放ってかれても困るじゃない」

 だって、あなたってば、あんまり美しいひとじゃないものね。

「もう一度取り戻しに来るかどうか、心配だわ」

 あの子供ならまだしも。そう言った矢先、するする伸びてきた金髪が剣に伸びかけたユーノの手首に巻き付いた。

「これ幸いと捨て置かれてもねえ」

 ぐい、と引っ張られてそちらへ脚を踏み出すと、別の鳥籠から伸びた金髪がまたユーノの腕に絡む。

「こっちよ」

「あなたに似合いの籠がある」

「そのみっともない煤けた顔にぴったりの」

「跳ねてくしゃくしゃの汚れた髪にお似合いの」

「あちこち穴が開いたみすぼらしい服にちょうどいい」

 金髪から金髪へと受け渡され、途中で何度か血の気が引くほど締め付けられ、痛みを覚えるほど引っ張られて、ユーノは奥まったところの籠の前まで導かれた。

 他の鳥籠とは違い、薄茶色の棘がついた蔦で編まれている。床にあたる部分はきっちり編まれてはいたのだろうが、妙な色に染まり、一部腐ってきているようなぬるりとした汚れがついた汚い籠だ。

「さあお入り」

「ぴったり、ねえほら見てやって」

「なんてみっともないんだろう」

 開かれていた扉に押し込まれ、差し込まれた金髪に中に引きずり込まれていく途中で、鋭い痛みが走って顔をしかめる。

「あら、ごめんなさい?」

 くすくすとしゃべりライノ達があちこちで嗤った。

「言い忘れていたけれど、その棘は痺れるの」

「く」

 裂かれた服の下の肌にじん、と鈍くてむずがゆい感覚が走る。

「ほらこっちよ!」


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