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短編集

善意を理由に負担を強いていけば、悪行がまかりとおるだろうという事を考えたのでお話にしてみた

作者: よぎそーと
掲載日:2019/03/17

「いや……、もう生活が大変で」

 そうぼやくとある会社員は、ため息を繰り返し吐いていく。

「税金がねえ」

「まあ、そうですよね」

 対面に座る男も、事情は分かってますよ、という風に頷く。

「増えるばかりですからね、税金」

「おまけにまた上がるっていうんでしょう。

 もうこっちは何にも出ないってのに」

 そう言ってまたため息が漏れていく。



 このようにぼやく理由ははっきりしている。

 男が口にしたように、税金が上昇していっているからだ。

 実際、給料の支給額から源泉徴収される金額は跳ね上がっている。

 会社が支給する給料から様々な天引きをした後に残る金額は、かなりの減額がなされた後である。

 人によるが、手取りは五割近くまで下がる事も珍しくはない。



 姑息というか何と言うか、これらは明確に税金という形式を取ってるわけではない。

 社会保障費やら何やらという名目で、税金とは別途に差し引かれている。

 だからこそ、税金というか税率は名目上は変わっていない。

 そこが税金を取っていく側の言い訳になっている。

 我々は税金を上昇刺せているわけではないと。

 しかし、政府が取っていく、そして政府関連の機関がとっていくという事に変わりはない。

 何よりも、一人当たりの手取りが減っているのは変わらない。

 国民への負担の上昇というのは、覆る事のない事実である。

 故にこの話しをしてる二人は、この両方をひっくるめて税金と呼んでいる。

 実態として何も間違ってない。



「この調子じゃ、今まで通りの生活なんて無理だよ」

「ですよね……」

 問題はここである。

 残った金で生活していくとなれば、その限界は早急に訪れる。

 ごく当たり前と思っていた生活さえも見直さねばならなくなる。

 なお、この二人の生活水準は隔絶して良いというわけではない。

 片や3LDKマンションに家族四人での暮らしている。

 もう一方は親の代からの中古住宅(間取りはおよそ3LDK)に祖父母親子の六人住まい。

 裕福でもなければ貧窮でもない、ごく普通の生活水準と言えるだろう。

 そんな生活も、ある程度みなおさねばならない程に、手取りは下がっていた。



「子供にも金がかかりますしね」

「そうなんですよ」

 特に上位の学校に通えと言うわけではないが、それでも学費はかかる。

 また、学費以外の養育部分での金も結構なものになる。

 それらを支払っていく事を考えると、現状の手取りでは全然足りなくなるだろう。

「給料が満額入ってくるなら問題ないんだけど」

 実際、会社の支給額がほぼそのまま手取りになるなら問題は無い。

 この話しをしてる二人の給料は、もの凄く高いわけではないが、問題になるほど安いわけでもない。

 家族が暮らしていくだけなら問題無く過ごせるだけの金額である。

 それが生活を見直さなくてはならないのは、偏に手取りが少なくなってるからである。

 ようするに、天引きされる税金やら社会保障費などの負担が大きい。



「本当にどうしたものやら」

 ため息を吐く男。

 問題はかなり深刻である。

 生活がかかってるのだから当然だ。

 そんな男に、向かいに座る者は、

「まあ、手段がないわけではないですが」

と提案を始める。

 その言葉に、ため息を吐いていた男は顔をあげる。



 ────二ヶ月後。



「いやあ、助かりましたよ」

 以前、手取りの少なさにため息を吐いていた男は晴れやかに言う。

「おかげで助かりました」

「役に立ったようで何よりです」

 向かいに座る、かつてため息を吐いていた男に提案した者も朗らかである。

 二人とも、迷いや悩みから解放された故である。

 心労から解放されると人は雰囲気や表情が変わる。

「いやいや、あなたの言葉がなければ、今頃もっと酷い事になってましたよ。

 みんな、あなたのおかげです」

「いや、こちらは助言しただけですから」

「それでもです」

 そう言ってため息を吐いていた男はコーヒーをすする。

「……今はこうやって気兼ねなくコーヒーを飲むことも出来ますし」

 以前であれば、手取りの少なさに嘆いてた頃ならばそうもいかなかった。

 一杯300円程度の、標準的なコーヒーショップのコーヒーであってもだ。

 その300円のコーヒーを飲みにいくのを躊躇うほどに余裕が無かったのだ。

「お互い大変ですね」

 向かいに座る男は、しみじみとした表情と口調で応じた。

 彼も彼で、以前は目の前に座る男と同じような状態だった。

 だからこそ、気持ちは良く分かった。

「まあ、こうせざるえないというのは、どうかと思いますけどね」

「それもそうなんですよね。

 出来れば、根本的な解決がされるといいんですけど」

「無理なんでしょうね」

「ええ。

 多分、今のままずっと変わらないでしょうし」

 そう言って二人は、同時にため息を吐いた。

 この時ばかりは、以前と同じような表情で。



 この二ヶ月で、祖父母を含めた三世帯で同居していた男の家から、祖父母が消えた。

 一見して分かる変化はそれだけである。

 だが、それによってため息を吐いていた男の生活は驚くほど改善された。

 消失したとはいえ、祖父母は書類上は生きている。

 死亡届などが出されてないのだから当然であろう。

 そして、その為に二人分の年金がそのまま自動的に支払われる事になる。

 その分の取り分が男の生活の補助になっていった。

 年金として支払われる金額は、源泉徴収で天引きされる金額には満たない。

 だが、それでも生活を持ち直させる位にはなっていた。



「これで天引きされた分を少しは取り返せましたよ」

 税金以外で差し引かれる社会保障費は、おおむね福祉などを名目に引かれている。

 それを理由に自分の生活が阻害されてるのだからたまらない。

 男からすれば、理不尽な言いがかりとすら言える。

 それを少しは取り戻したと思うのも無理はないだろう。

 どんな大義名分があろうと、それで生活を損なわされたのだからたまらない。

 取り返したと言うのも、彼の心情とおかれた状況、そして実態を考えれば間違ってはいなかった。

 正解と言って何ら問題は無い。



「まあ、差し引かれる分がまるまる返ってくるわけではないですけどね」

「全くです。

 それが理由で天引きされてるはずなですけどね」

 そこが釈然としないところではあった。

「まあ、関係する所に支払う金に使われてるんでしょう」

 様々な機材や諸経費、人件費などに用いられてるのは明らかである。

 その分だけ出費が増えてると言える。

「本当に、何のためにあるんですかね。

 やってる意味があるんだか……」

「分からんですね、そこは。

 ただ、正直に言えば、存在する意味は無いと思いますけど」

「そう思いますか……」

「ええ。

 それで我々が立ち行かなくなるなら」

 結局はここである。

 どんな言い分があろうと、それで困窮させられるのであればたまらない。

 そして、困窮の原因になるなら、そんなものが存在する意味など無い。

 存続させるだけ無駄でしかない、という事になる。

 いや、無駄であるだけなら良いのかもしれない。

 それが負担にならないのであれば。

 だが、わずかなりと言えども金やら何やらをとって存在してるならば、その瞬間に負担が発生する。

 何の有益性もないのに負担が生じるなら、それはもう損害や損失、害悪となりえる。

 少なくともこの男達にとっては、害悪としか言えないものがあった。



「どうにかなればいいんですけどねえ……」

「変わらないかぎり無理でしょうねえ……」

 二人揃ってため息を吐く。

 やるせない話である。

 何が問題かは分かってる。

 だが、分かっていても変えられない。

 変わる事も無い。

 それが理解出来てしまうのだから。

 それが負担を強いていると分かっていても。

 その負担を軽減するために、二人の人間が消失しなくてはならなかったのも。

「こんな事が続いていくんですかねえ」

「何とも言えません。

 でも、おそらくはそうなんでしょうね」

 そう言いながら、解決手段を提案した男は言葉を続ける。

「我々だけじゃないですし」



 現在、この国において老年に突入した者達の消失は続いている。

 届け出がないから、書類や統計上の人数は減ってはいない。

 戸籍上は存在し続けている。

 そうした、存在しない存在が確かにいる。

 調査がされてないので正確な人数は分かってない。

 だが、書類上は生き続けてる人間が確かに存在した。

 そして、それらに福祉として支払われる金額は毎年計上されている。

 その金がどこに流れているのかすらも把握されずに。

 ただ、何時の頃からか一般家庭の生活水準がある程度安定しだしたのは確かである。

 様々な理由によって給料が天引きされ、手取りが減っているにも関わらず。



「しかし、こういう事が続いていくなら……」

「いずれは我々の番が来るでしょうね」

「そうなる前に、変えられればいいんですけどね」

「そうですね。

 二の舞になるのは御免ですからね」

 表情を硬くさせながらそう言って、二人は残り少なくなったコーヒーを口に含んだ。

 制度が変わらなければ、自分達もいずれ同じ道を辿る事になる。

 それだけは彼等も避けたいところであった。

 ならば、制度や体制を変えるしかない。

 それが容易でない事は分かっている。

 だが、やらねば不本意な最後を迎える事になる。

「やらなくちゃならないでしょうな」

「ええ、その通りです」

 静かな決意を抱きながら、二人は先々の事について考えていった。

 今、何が出来るのか。

 何をしなくてはいけないのか。

 それを考えながら。

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