悪役令嬢は、幼馴染の恋を応援する。
悪役令嬢シリーズ、第3弾です!
よろしくお願いします。
3月4日より、連載版を始めました。
よろしければ、そちらもお読みください( ^ω^ )
「ごめん、ベルローズ! ぼ、僕、アレクサンドル王子のこと、好きになっちゃったんだーっ!」
私には少し変な幼馴染がいる。侯爵家の嫡男、イヴァン・グレイズ。
私達は母親同士が親友ということもあり、物心ついた頃からお互いの家で遊んでいた。
そんな幼馴染が私に恋を打ち明けたのは、学園に入学して1年程経った13歳の頃だった。
サラサラの銀髪に、サファイアのようなパッチリした瞳。
もしかしたら、彼は私より美人かもしれない。
そんな彼が、私の生まれた時からの婚約者である、この国の第2王子、アレクサンドル様を好きであると告白してきたのである。
イヴァンとは、10歳まではお互いの家を行き来するなど、家族ぐるみの付き合いをしていた。
ちょっと素直になれない私の性格をよく理解してくれているし、話は合うし、一緒にいるととても居心地が良くて、楽しかった。
もしかしたら、ほのかな恋心を抱いていたかもしれない。なるべく意識しないようにしていたけど……。
11歳の誕生日を前に、私達は会うのを止めた。
なぜなら、私は第2王子のアレクサンドル様の婚約者だから。
幼馴染とはいえ、いつまでも異性の友人と一緒にいる訳にはいかないでしょ?
―――そして、12歳の春、学園で私達は再会した。
見かけて会釈する程度の付き合いだったけど、その頃はまだ普通だったと思う。
しかし、この13歳の愛の叫びの後、彼はすっかり変わってしまった。
「ローズ、ローズ、見て! このお菓子、とても美味しいだけじゃなく、見た目も繊細で、すごく可愛いでしょ? アレクサンドル様にプレゼントしようと思うんだけど、どうかしら?」
あれから3年。私達は16歳になった。
この語尾にハートマークが付きそうな喋り方をしているのは、イヴァンである。
彼はあれから、どんどん女性化している。
話し方も仕草もだ。
学園では制服着用だし、服装こそ男性だが、長く伸ばした美しい銀の髪は、肩の位置で緩やかに結われ、前側に垂らしている。
なんだかとても優美な雰囲気を醸し出している。
あれから、私とイヴァンの関係は、女友達のソレになった。
あの告白の後、私はイヴァンのアレクサンドル様への秘められた恋を応援することにした。
ちょうど男同士の恋愛をテーマにした恋愛小説を読んでいた影響もあったのかもしれない。
アレクサンドル様のことは、パートナーとしては尊敬しているけど、政略結婚だし、別に恋愛感情はない。
だから、別にイヴァンがそんなに王子が好きなら、陰ながら応援してあげようと思ったのだ。
……イヴァンは私の初恋でもあるので、少し微妙な気持ちではあるが。
「あら、ベルローズ様! イヴァン様! こんにちは!」
我が婚約者のアレクサンドル様に、べったり腕を絡ませて、にこやかに挨拶してきたのは、男爵令嬢のソフィア。
愛妾希望なのか、入学以来、ずっとアレクサンドル様に付き纏っているが、アレクサンドル様も満更ではない様子。
もしかしたら、もうデキているのかもしれない。
「御機嫌よう、ソフィア様」
私が淑女の礼で答えようとすると、イヴァンが口を挟んできた。
「ちょっと、アンタ! アタシのアレクサンドル様に、何ベタついてんの! 不愉快なんですけど!」
「別にベルローズ様は何も言わないし、部外者のイヴァン様は私達の関係に口を挟まないでくださいっ! いつも思っていたんですけど、イヴァン様は邪魔なんですっ。私とアレクは真実の愛で結ばれているんだから! ねぇ、アレク?」
ソフィアが上目遣いでアレクサンドル様を見つめる。
しかし、その笑顔は引き攣っている。
「イヴァン、お前が有能なのは私も認めているし、将来の側近候補として、期待している。頼むから、昔のまともな男であった頃のお前に戻ってくれ。その気持ち悪い話し方は、どうにも受け付けられん」
気持ち悪いと言われ、イヴァンが傷付いた顔をする。
仕方ないので、親友である私がイヴァンの援護をすることにする。
「何を言ってるんですか、アレクサンドル様! イヴァンは本気で殿下のことをお慕いしているんです! それなのにそんな言い方、酷いではないですか! アレクサンドル様に男色の趣向がなくて、気持ちに応えられないのは仕方ありませんが、乙女心を否定するなんて、イヴァンがかわいそうです! 想うくらい、許してあげてくださいませ!」
「ベルローズまで、何を言ってるんだ! 私には全く理解できない…… 。ソフィア、行くぞ」
そう言って、王子とソフィアは逃げるように去って行った。
「イヴァン、平気?」
傷付くイヴァンの顔を見るのは、辛かった。
まだまだこの世界は、男同士の恋愛への理解はない。
「ローズは優しいね。もう少しだから、大丈夫よ。あと1ヶ月の辛抱だから」
もう少し? 何がだろう?
―――1ヶ月後といえば、卒業パーティ?
――――――――
「ベルローズ・オルレイン公爵令嬢、お前とは婚約を破棄する!」
あちゃー! 始まっちゃったよ! やっぱり止められなかったか……。まぁ、あんな奴と結ばれても、ローズは幸せになれないし、ローズは僕が貰う予定だからいいけど。
煌びやかなシャンデリアのある大広間の中央で、ついに例のシーンが始まるようだ。
僕の名前は、イヴァン・グレイズ。父親は侯爵で、ローズとは幼馴染。
―――そう、悪役令嬢ベルローズと。
ローズは、薔薇のような赤い髪に、エメラルドのような緑の瞳。凛とした美しさを持つ女性だ。幼い頃から美少女で、とても可愛らしかった。薔薇の棘のように、ツンツンした性格ではあったが。
彼女は生まれた時からアレクサンドル王子の婚約者であることが決まっていたので、途中から淑女教育やら妃教育やら、いろいろ大変そうだったけど、それでも彼女なりに頑張っていたのは知っている。
過密スケジュールの合間を縫って、10歳頃までは普通に一緒に仲良く遊んでいた。相性も良かったんだと思う。
「もう、貴方とは遊べませんわ。私はアレクサンドル様の婚約者ですもの」
僕の11歳の誕生日を目前に控えた日、ついにローズに言われた。
「これ、差し上げますわ」
いつものようにツンツンした表情で、だけど薄っすら頰を赤く染めて差し出されたのは、美しい薔薇の刺繍の施されたハンカチ。
僕はよく知ってる。彼女が精一杯照れているのを隠そうとしていることを。
―――アレクサンドル王子のために練習した、余り物だったりして……。
ふとそんな嫌な考えも過ぎったけど、それでも嬉しかった。
「大切にするよ」
僕は2人きりでゆっくり話すのはこれが最後になると思って、クラバットに飾りでつけていたサファイアのブローチを取り外し、彼女に差し出した。
「これ、お祖母様がくれたものだけど、ローズにあげるよ。ハンカチのお礼」
「こんな高級なもの、戴けないわよ」
「僕の気持ちだから、受け取って? 友情の証。もう、気軽に話すこともできないでしょ? 僕との思い出だと思って」
とにかく何でもいいから、彼女に僕の身に付けた物を持っていて欲しかった。
「まるでイヴァンの瞳のようね」
ローズがブローチを見つめて、切なそうに言った。
僕の淡い初恋はこれで終わった……と思ったら、終わっていなかった。
その日の夜、僕は高熱を出した。そして、前世を思い出してしまったのである。ここは、異世界で、前世の妹が大好きだった、乙女ゲームの世界であるということを。
―――そして、彼女は悪役令嬢であった。
だから、決めたんだ。どうせ彼女が捨てられるなら、ローズは僕が貰おうって。
貴族は12歳から16歳まで、学園で過ごす。
一旦は離れた僕らだったけど、12歳の春、僕らは再会した。
「久しぶり、ベルローズ」
彼女の横には、当然のごとくアレクサンドル王子……と思ったら、すでにいなかった。
「アレクサンドル様なら、ソフィア様と一緒よ」
僕の不審そうな表情に気が付いたローズが、少し寂しそうに笑みを浮かべて答えた。
ストーリーが進んでいる……。
このままだと、ローズの未来は破滅だ。僕が君を守るしかないと心に決めた。
まずは彼女の破滅を避けるため、アレクサンドル王子とソフィアの目をローズから逸らさせないと。
悪役令嬢ベルローズが嫉妬の行動を起こす前に……。
―――僕は考えた。
まず僕は前世の世界の記憶にあった、オネエキャラの真似をすることにした。
男のままだと、友としてローズの側にはいられない。それならば警戒されないよう、女友達のような関係になればいい。
それに、僕が王子を好きと言って、僕が王子を追いかけ回せば、逆に冷静さを保てるかもしれない。
―――僕は君のために道化師になろう。僕は僕のやり方でこの世界から君を守るよ。
そして、ついに恐れていたあの婚約破棄の瞬間が来てしまった。
もちろん、悪役令嬢ベルローズは嫉妬に狂ったりはしていないし、ソフィアには何もしていないので、乙女ゲームのように、何か罪に問われることはないだろう。
―――さぁ、乙女ゲームの世界よ、どう出る!?
緊迫したのは、一瞬だった。
「……分かりましたわ。ソフィア様とお幸せに。また詳しくは、お父様を通してお話ししましょう」
ベルローズは至って静かに述べ、優雅に腰を落としてお辞儀をすると、クルッと僕の方へやってきた。
「イヴァン、気をしっかりね。やはりアレクサンドル様はソフィア様を選ばれてしまったわ」
そして、僕の手を引き、ボーイからシャンパングラスを受け取ると、テラスの外に出た。
「今日は失恋酒ね。ここなら泣いても大丈夫よ」
そう言って、僕にシャンパングラスを手渡した。
僕はそれをグイッと飲む。
「ローズは平気?」
「別に。だって、最初からアレクサンドル様のことは好きでないもの。尊敬はしているけど。まぁ、あの妃教育のための勉強が全て無駄になるのかと思うと、少し悔しいけど」
ベルローズはふふっと笑う。そして、僕を見上げた。
「ねぇ、私と結婚してくださらない?私、昔からイヴァンとお喋りしている時が一番自分らしくいられるの。イヴァンは男色だけど、侯爵家嫡男だし、どうせ結婚しないといけないでしょ? 私なら、男同士の恋愛への理解もあるし、きっと楽しい結婚生活になると―――」
彼女の言葉の途中で、僕は彼女の手首を掴み、その身をぐっと引き寄せ、ずっと欲しかったその唇を奪った。
彼女の目が大きく見開く。
「僕が好きなのは、ずっと君だけだよ」
―――さて、そろそろ君に真実を話そうか。
読んでくださり、ありがとうございます!
皆様に楽しんでいただけると、私のモチベーションも上がります( ^ω^ )
連載版も始めましたので、よろしければ、そちらも読んでいただけると、嬉しいです!