表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

大切な記憶

作者: 雨宮 怜哉

 激しい雨の降る、それでいて蒸し暑い夏の事だった。

 僕の前に、小さな女の子が、どこからともなく煙の様に現れた。何の根拠も無かったが、僕は直感でこう思った。

 この見知らぬ子はきっと、幽霊なのだと。

 少女は当然の如く僕の家に居座り、時々僕に甘えるような素振りを見せては、僕がそれに対して無反応でいると、頬を膨らませて妻の元へ行ってしまう。

 妻も最初は僕とその子の様子に困惑しているように思えたが、すぐにこの状況を受け入れることにしたのか、幽霊の少女と二人で遊ぶまでに適応していた。元々、僕と妻はあまり話をする事が無かった分、妻には良い暇つぶし相手だったのかもしれない。

 僕はというと、最初こそ驚きはしたものの、すぐに害は与えないと気付くと、野放しにしていても問題無いように思えたのだった。

 もちろん、何かコミュニケーションを図ろうとも思ったが、少しの恐怖と、それを見ていると感じる愛着から、ずっと見守っていようという気になったのだ。

 僕はしばらく、幽霊と妻と三人で日々を過ごした。

 そんな日々も定着してきて迎える、ある真夏日。

 僕の前に、もう一人の幽霊が現れた。

 次に現れたのは、見知らぬ同世代くらいの女性だった。

 最初に現れた幽霊の事もあり、少しは幽霊という存在に慣れてはいたものの、最初はやはりその存在の恐怖に慄き、自分の部屋に閉じこもったのを覚えている。

 しかし、この幽霊の女性は、最初の女の子の幽霊とは打って変わって、全く僕に話しかけてくることは無かった。もちろん、害を与えるでもなく、ただそこに存在しているという感じだ。

 僕は少女の幽霊と同じように、この女性の幽霊も受け入れることにした。

 こうして、僕は二人の幽霊と共に日々を過ごす事になった。

 しかし、少し僕は油断しすぎていたみたいだ。

 夏も終わりかけの、風の強い日。

 二人の幽霊は、ついに僕に手を出した。

 僕を二人がかりでどこかに連れて行こうとするのだ。そこは冥界だろうか。黄泉の国だろうか。きっとこの時を待っていたのだろう。油断しているところを狙うために機会を伺っていたに違いない。

 僕は二人を振り払うと、とりあえずすぐに警察所を目指した。

 しかし、すぐに立ち止まった。幽霊にどこかに連れて行かれそうだと説明しても、きっと変な人だと思われ、結局僕を助けてはくれないような気がしたのだ。

 こういう時に頼れるのは、自分の母親しかいない。

 僕は実家を目指すことにした。

 恐怖も混じってか足早に歩いていると、綺麗な海が見えてきた。

 ぼんやりと眺めながら歩いていると、足が止まった。

 あれ、僕は、どこを目指していたんだっけ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の一文でサラリと持っていかれました。 [一言] 最後を読んで一度驚き、 タイトルを読み直して疑問に思い、 もう一度読み直しました。 作品自体も面白いですが、その後の考察が弾みました。…
[良い点] 無害かと思えばま実は有害だったのですね。これは人間も同じなので、結局は幽霊も人間も本質は変わらないんだなと思えたところです。 [一言] 途中で妻という言葉も出てこなかったから、記憶を持って…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ