ゴブリンを追い出せ
俺たちはクエストを受けにバウル村という場所に来ていた。
理由はクエストを受ける前に依頼人である村長に話を聞くためだ。
村は壁で囲われているため、中に入るために俺は門を叩き呼びかけた。
「あのークエストを受けに来たものなんですけどー」
しかし反応がなかった。
するとしびれを切らした文香が門を激しく叩き始めた。
「ちょっと!開けなさいよ!仕方ない、シャウラこの門、撃ちなさい」
「それはやり過ぎではないですか」
文香の指示にシャウラが拒んでいると、ゆっくり門が開いた。
「おはようございます。村長はどちらに、」
「……ウゥ……」
門が開き中が見えるとそこにはゴブリンがいた。
すぐに事態を察した文香とシャウラは一目散に来た道を戻っていた。
予想外の事態を理解するのが、一瞬遅れた俺も、文香とシャウラを追いかけるように走る。
「ひぃー聞いてない!聞いてない!なんでゴブリン村なんだよ!」
なんとかゴブリンを撒いた俺たちは村の近くの森に身を潜めていた。
ゴブリンは村の中に入り門は閉まっている。
「帰ろう。無理だ」
「何言ってんの翔也、逃げ出すなんて絶対嫌よ」
「ですが、ゴブリンなんて私たちでは手に負えません。それにあの数、私の銃弾が足りませんよ」
「いや、何も倒せと言うわけではない。村から追い出せば良いのだ。」
「追い出すねぇ、ってあんた誰よ!」
そこには腰の曲がったお爺さんがいた。
「わしはバウル村の村長、トンガだ。」
俺たちは依頼人であるこの爺さんに話を聞く。
どうやら一昨日、村にゴブリンが襲って来て村人は村を追い出されたらしい。
幸い死傷者は出ず、行き場をなくした村人は近くの村にお世話になっているらしい。
すると依頼人である村長、トンガさんは言った。
「お前さんたち罰金のこと気にしてるんなら無理すんな。せっかく来てくださったのにクエスト失敗したくらいで、金をいただくなんてそんな酷いこと、わしはせんよ。無理なら帰って貰って構わないよ」
俺たち3人は村長の心優しいお言葉に感動していた。なんてできた村長。
ここは村長の言葉に甘えて帰らせて貰おう。
そう思ったのも束の間。村長は文香を指差して言った。
「だが、そのー、そこの女子おなご、一晩ワシと寝てくれないか」
前言撤回、ただのエロジジイだった。
「じゃ、文香よろしくな」
1人の犠牲で済むならまだましだ。俺は帰路に着いた。
「翔也、シャウラ、作戦立てるわよ」
「文香さん私の銃でゴブリンをおびき寄せましょう」
「…」
「翔也、何黙ってんのよあんたも何か案出しなさい」
「いや、村長が帰ってもいいって、」
「翔也、殺すわよ」
怖い、怖すぎる。
「わ、分かった。なら餌でつるとか?」
「そうねぇ。あ、そこの老いぼれさん、消えて貰えるかしら」
「ふむ、罵られるのもたまらんなぁ」
それからゴブリンを追い出すための作戦を試行錯誤し、いくつか案を出す。
とりあえず俺たちはゴブリンを閉じ込める柵を作っていた。
「餌で釣るって言っても、全員出て来るのか?」
「安心しなさい。絶対全員出て来るぐらいの餌にするから」
一体、どんな餌を使うつもりなんだろうか。
「文香、なんで閉じ込めるのに反対側に出口を作るんですか?」
シャウラの問いに俺も同意する。
「逃げ道よ」
なんか分かって来たぞ。こいつの考えている事が。
そんな俺の予想は残念ながら的中するのだった。
「準備完了。翔也そこら辺に立って」
そう言ってゴブリンを閉じ込める柵とゴブリンが出て来る門の中間地点ぐらいに立つよう文香に指示をされる。
「シャウラ、いいわよ」
そして文香が合図をするとシャウラは銃を門に連射した。
異変に気付いたゴブリンは門を開けて続々と外に出て来た。
すると文香が突然、詠唱を始め、俺に向かって放った。
「アプローチング」
予想はしていたが、文香の魔法をくらった俺はものすごい異臭を放っていた。
そしてゴブリンたちが俺を見て一目散に走って来た。
「翔也、いいわよ」
「いいわよじゃねぇ!俺を殺す気か!」
必死に俺は逃げ、ゴブリンに捕まる危機一髪のところで柵の出口を抜けた。
「ハァハァ。死ぬかと思ったぞ!」
「ちょっと翔也、臭いから近寄んないで。」
誰のせいだと思ってんだ。
命はった奴に対してねぎらいの言葉も無しかよ!
「翔也、お疲れ様です。ケガはありませんか?よかったらハンカチ使ってください。」
「ありがとう。シャウラ」
文香と違って気遣ってくれたシャウラに俺は感動するのだった。