武具屋にて
「思ったより太くて長いのね。」
今の発言にドキッとしたのは俺だからだろうか。
俺と文香は武器屋に来ていた。
今見ているのは文香の職業である回復士が持つ武器、杖だ。
「これなんかいいかも」
そう言って文香は杖を手に取る。そして値段を見てそっと置いた。
どうやら武器の値段はピンからキリらしい。
恐らく文香の予算は髪飾りを売って手に入れた3万のうち宿泊代や食事代、これから買う装備のことを考えて多くても1万といったところだろう。
武器を必要としない俺は外で待つことにした。
それから数分して文香は杖を持って店から出て来た。
「結局、何円の杖を買ったんだ?」
そして文香は満足そうに言った。
「2万4千円だったかしら」
どうやらこいつに予算という概念はないらしい。
呆れながら俺は言った。
「お前はワンピースで闘うのか?」
そして文香は何の気なしに言った。
「は?装備なんていらないわよ。どんなにいい装備してても敵は倒せないじゃない。それに私、回復士だし」
なんか論破されてしまった。
確かに文香の言う通りだ。
回復士に防具は必要ないし衣装は収入を得て余裕ができてからでいい。
「でも俺は格闘家だから防具買いに今から防具屋行くけど来るか?」
「何言ってんの?翔也、金ないでしょ。私は昨日、髪飾り売って3万円貰ったけど。」
そういえばこいつ俺が4万円ネコババしたこと知らないんだよな。正直、説明するの面倒くさいな。
「実は、俺も何か売れないかと思ってポケットに入ってた金になりそうなもの質屋行って売って来たんだ」
とりあえずこういうことにしておこう。
「で、いくら持ってるのよ」
俺はポケットから4万円を取り出して見せた。
「す、すごいわね」
そしえ俺と文香は防具屋に向かう。
「4万って一体何を売ったのよ」
「えっと腕時計とか」
「そんなの手首につけてたっけ?」
「ポケットに入れてたんだよ」
文香のジト目が痛い。
すると俺の横をアイスを持った女の子が通り過ぎ、つまずいたのかアイスを俺のスーツにつけてしまった。
「ごめんなさい」
男だったら子供でない限り問い詰め、あわよくば金を貰うところだったが、女かつ子供なので俺は優しく言う。
「大丈夫だよ。こっちこそよそ見してたかも」
そして女の子はアイスのついたスーツをハンカチで丁寧に拭き取りもう一度
「本当にごめんなさい」
と言った。
「嘘ついたからバチでも当たったんじゃないの」
「嘘なんかついてねーよ」
その後も4万円の入手方法が気になるらしく、しつこく聞いてくるので大変だった。
そうこうしているうちに防具屋に着いた。
様々な防具があったがとりあえず初心者セットという防具一式が1万円で売っていたのでそれを買うことにした。
そして俺はある異変に気づいた。
「……金がない」
ポケットに入れてたはずの4万円がないのだ。
防具屋を出て俺は外で待つ文香に言った。
「金、落としたかも」
「は?武器屋出るとき私4万円見たわよ」
とりあえず来た道を戻って探してみる。
しかし見つからなかった。
すると文香は言った。
「あんた盗まれたんじゃない?」
正直俺も薄々そんな気がしていた。
そして思い当たるのが
「アイスをスーツにつけられた時か」
あの女の子を疑いたくはないがそれしか思い当たる節がない。
しかしどれだけ考えたところで、もう4万円が帰ってくる確率はゼロと言っていい。
どうすることもできない俺たちはギルドに戻ることにした。
「このクソヤロー!」
俺は心の中でそう叫ぶのだった。