-2- 立ち上がらない
魚川は朝一でパソコンを立ち上げようと電源をONにした。ところが困ったことに、黒い画面のまま、なかなか立ち上がらないのである。魚川は、今朝もかっ! と腹立たしい思いで座椅子から立ち上がった。俺が立ち上がっているのに、お前は立ち上がらないのかっ! とつまらない怒りを催し、魚川は湯呑のお茶をガブリ! と飲み干した。このまま、じぃ~~っと立ち上がるまで待っているのも、どうも腹立たしい。魚川は、そうだっ! 先に塵掃除でもやってやろう…と箒と塵取りを手にすると、辺りを掃きだした。ボケェ~~っと待っているのも悪くはないが、それでは世間の皆さまに申し訳がない…というようなことは考えず、場当たり的に動き出したのである。まあ、時間の有効活用ではある。
しばらく掃いていると、パソコン画面が明るくなった。ようやく立ち上がったのである。魚川の内心が、パチパチパチ…と手を叩き、そのあと、こんなことで喜んでどうするんだっ! と、柔い心を諌めた。まあ、それは当然で、パソコンがすぐ立ち上がらないと、即戦力に欠け、役に立たない、或いは間に合わない場合だってある訳である。
魚川が調べると、どうもセキュリティ・ソフトの関係のようだった。さらに調べれば、すぐ立ち上がらない症状を改善するソフトも同じ会社から発売されていた。結局は企業利益を上げる商業主義の手段か…と魚川には思えた。これでは、国力も落ちて当然だ…と関係ない国の現状と結びつけ、今度はお茶ではなく、コーヒーをゴクッ! と啜った。少し気分が和み、今はもうそんな時代なのか…と思ったとき、カラスがカァ~カァ~・・と鳴いた。魚川には、そのとおり~そのとおり~・・と聞こえた。
完




