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藤子不二雄A作品と「家ぬす人」

 2017年6月現在、人気漫画『笑ゥせぇるすまん』の再アニメ化作品『笑ゥせぇるすまんNEW』が放送中だ。

 旧アニメはかつてゴールデンタイムの『ギミア・ぶれいく』という番組内で放送され、その後も再放送がたびたび行われた作品であるため、作品の認知度は非常に高く最早詳しい説明は不要だと思われる(若い人はまあそれでも馴染みがないかもしれないが、CMなどにも採用されたため、少なくとも作品名は聞いたことがあるだろう)。


 こうした背景があるため、人に藤子不二雄A作品の代表作を問えば結構な割合でこの『笑ゥせぇるすまん』が挙がることと思われるが、他にも『オバケのQ太郎』(藤子・F・不二雄との共著)、『忍者ハットリくん』、『怪物くん』、『プロゴルファー猿』等と並々ならぬヒット作があるので(むしろこちらが藤子不二雄先生の本領だが)、『ドラえもん』という突出した作品がある藤本先生(F先生)より代表作を挙げるのが難しい作家と言えるだろう。

 これは安孫子先生(A先生)の多彩さを表す証左であると思われる。

 もちろんF先生の作品の幅も今の基準で考えれば有り得ないくらい広いのだが、私見を述べさせてもらえば、A先生は師と仰ぐ手塚治虫や盟友・石ノ森章太郎といった不世出の天才と遜色ないほど多種多様な作品を作り続けているものと確信している。


 『ドラえもん』から藤子作品を知った私は、今は無くなってしまった高崎の『煥乎堂かんこどう』という品揃えの良い書店で『藤子不二雄ランド』という藤子作品を復刊するシリーズの作品を買いあさっていた。安孫子先生(藤子不二雄A先生)の本で最初に読んだのは『忍者ハットリくん』であったが、当時は学生どころか生徒であったため中々氏の単行本を揃えることはできなかったが、その後ジャンプスクエアが発刊されてからは安孫子先生のエッセイ漫画『PARマンの情熱的な日々』にハマるなどファンになる下地は順調に形成されていった。

 そして、大学在学中に兄が『まんが道』を購入したことで、完全に藤子不二雄A作品の虜となった。

 当時大学の近くに漫画の品揃えの良い大型書店があったのも相俟って、氏の作品の収集は進んでいった。『愛しりそめし頃に』といった当時の連載作品の他に、『少年時代』、『劇画毛沢東伝』といった復刊作品、他にも氏のエッセイやスタジオ・ゼロ関係の本などを買い揃えていき、蔵書はそれなりのものになった。

 そして、A先生の作品にハマる最大の契機となった『まんが道』が兄の所有物だったことや、実家を図書館的に使いたいとの思惑から氏に関係する作品の全てをその後全焼する実家の本棚に陳列してしまったのであった。背表紙を眺めるだけでもどこか幸福感が湧く瞬間を味わうことは、二度とない。

 

 余りに異なるテーマを、次々に漫画として描き切る藤子不二雄A先生のその卓越した能力に魅了された事には何の後悔もないが、こうなってしまうとショックも大きい。

 『まんが道』の作中で引用される月性の漢詩に「 男児志を立てて郷関を出づ、

学若し成る無くんば復た還らず、骨を埋めるに豈墳墓の地を期せんや、人間到る処青山あり」というものがあり、私も主人公の満賀道雄のごとく、憧れの職業に就くまではこの漢詩に従い、退路を考えるようなことはしないと思ったのだが、その前に郷関が燃えてしまったのであった。

 青山(墓地)は至る所にあるかもしれないが、郷関は唯一無二の存在である。今年の四月にはついに憧れの職業に就き(ブラックで辞めようとしてるが)、大手を振って郷関に帰る権利は得たのだが、地上のどこにもなくなってしまった実家に帰れるわけもない。


 A作品の中でも異色の作品に、妻の医療費を稼ぐために夫が結婚詐欺を繰り返す『愛ぬすびと』という作品がある。しばらく再版がなく、初めて読んだのは富山県立図書館だったが、2013年に完全版が刊行され、兄の誕生日プレゼントにと2015年に購入することにした。3000円を超える値段で完全版の中でも値が張るため、こういう時でもないと手が出なかったのだが、半年もせずに灰燼に帰したことを考えるともう少し買うのを待てばよかったなどと、今でも意味のない後悔をしてしまう時がある。


 A先生の作品には、高い頻度で詩が引用される。古今東西の有名なものもあれば、先生自身の作品もあり、作品の抒情性を更に高めているのだが、中でも『愛ぬすびと』の最後のページのそれは秀逸である。最後にこの名作を結ぶ詩に火事以降の心境を託したいと思う。

 

  あたしの家を

  とったのはだれ? 


  たったひとつしかない

  家なのです 

  

  あたしの家を

  かえして  


  おねがい!

  家ぬすびとさん 

  

  あたしの

  たったひとつしかない

  

  家をかえして……



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