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黒い白百合  作者: 髙津 央
第一章 失踪事件
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09.マズイ飯

 興味津々で耳を傾けていた江田が、小さく溜め息をついた。

 「どこも一緒なんですねぇ」

 「どこもって、他にもこんな酷いとこがあるんですか?」

 三千院が小声で聞いた。

 他の刑事には、江田の声は聞こえない。傍目には、三千院が特製ソースを除去した鯵フライに醤油をどばどば掛けながら、独り言を行っているようにしか見えない。

 「えー、前も言いましたけど、私がバイトしてるコンビニも、備東さんが遅刻しても、何かミスっても、レジのお金ゴマ化してもスルーなのに、パートのおばちゃんが一回お釣りミスっただけで、弁償させてクビにしちゃったんですよ?」

 「窃盗か、業務上横領を放置? っていうか、それだけで解雇って、労基法違反……」

 「でしょー? マジ、酷いんですよぉ。備東さん、パッと見、髪黒くてマジメっぽいけど、男遊び超激しいし、如何にも『私、ちゃんと仕事してます、有能です』みたいな態度だから、コロっと騙される人、多いんですよ。特に男の人。雰囲気じゃなくって、言ってるコトとやってるコト、ちゃんと見てれば、即バレなのに、美人だからって、顔と雰囲気しか見ないで判断してるんですよ。もしかしたら、イメージが壊れる都合悪いことは、見なかったコトにしてんのかも。刑事さんはプロだから、そんなコト、ないですよね?」

 「えっ、あ、あぁ、気を付けてるよ」

 その辺りは、警察学校で習った。

 もっと以前、大学でも、人外のモノとの関わり方で、同様のことを教わった。

 三千院は、人外と人間の犯罪者への対応が、ほぼ同じだと言うことに愕然としたことを、懐かしく思い出した。

 醤油でゴマ化した鯵フライを味噌汁で流し込み、三千院は考えた。

 少なくとも、これを作った人物の味覚は普通ではない。


 「普通の人間」の基準って何なんだろうな……


 三千院達、霊視力を持つ見鬼は、日之本帝国のような科学文明国では少数派だ。差別を恐れ、その能力をひた隠しにする者も多い。

 霊視力のない「普通の視力」の持ち主は、異能者を見下し混じりに異物扱いし、遠ざけたがる者が多い。

 そう言う者は往々にして、自分達の都合で見鬼の能力を利用する際、「お前のような異常者に声を掛けてやったのだから、有難く思い、無償で奉仕せよ」と言う態度で(のぞ)む。

 勿論、そうでない者も多いが、声が大きいのは、利用する者、遠ざける者達だ。

 そうでない者達は、他に対するのと同じ「普通」の対応をするだけで、声高に何か言うことがなく、異能者に対する「意見」として意識されにくい。

 声の大きい意見は、目に付き易い為、それが「普通」と認識され、定着し易いのだろう。

 だが、霊視力のない「普通の視力」が、魔法文明国では「半視力」と呼ばれ、「普通の能力を持たない者」として、保護の対象となっている。霊質と物質の片方しか視えない視力では、生活に支障が出る為だ。


 所によって、法も常識も変わる。

 何が「普通」であるか、基準など、あってないようなものだ。

 他人を支配したがる者、自らその支配下に入り、追従(ついしょう)する者。

 追従者は、支配者が命じれば、法や道徳に反することでも、諾々と行う。

 追従者が多数派の場では、命令のままに罪を犯すことが「普通」で、それに異を唱える者は、誹られ詰られ、異常者として排除されてしまう。


 こうして、閉鎖的な「場」の集団は、尖鋭化してゆく。

 尖鋭化し、その思考が定着した者は、「場」の外でも、内と同様に振る舞い、外にも「場」の「普通」を強要するようになる。

 強要された側が、毅然とした態度で臨み、証拠があれば、事件として警察に回って来る場合もある。

 三千院は交番勤務時代、ご近所トラブルを明確な事件として取り扱った経験がある。

 上司や先輩と共に対応したが、自分の行動を「普通」と信じこんでいる犯罪者は、現行犯で手錠を掛けても、警官を罵り、通報者や被害者を極悪人呼ばわりして、更に罪を重ねた。

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野茨の環シリーズ 設定資料
設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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