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黒い白百合  作者: 髙津 央
第一章 失踪事件
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07.捜査本部

 三千院は、聞きこみの翌日も悶々としていた。

 見落とし……茂み周辺の呪具や呪符の有無を確めたいが、確証も令状ない。これ以上、発見現場である大学の捜査はできない。


 ……あーッ! もうッ! 俺のバカバカバカ……ッ!


 「そもそも、ウチらの管轄かどうかもわからんのに、サンちゃんがイライラしても仕方(しゃあ)ないやん」

 課長はのんびり構え、江田の話し相手になっている。

 鴨川がノートパソコンから顔を上げた。

 「一課から、メール来てんで(きているよ)

 三千院も、自分に割り当てられたノートパソコンで、メールを開いた。


 件名:捜査本部設置

 本文:連続女性行方不明事件として、捜査本部を設置した。

 先に連絡のあった江田英美の他、三名が失踪している。

 いずれも十代後半から二十代半ばの女性。

 今月、突然行方がわからなくなっている。

 現在、江田英美と思われる生霊を魔道犯罪対策課で保護している。


 以降は、捜査本部の体制や連絡先などが記されていた。

 川端署の生活安全課と府警の魔道犯罪対策課も、組み入れられている。

 第一回会議は、今日の午後だった。

 「わぁ……私、生霊なんだ……」

 「ちょっと違う気がしますけど、生きてますし、いいんじゃありませんか?」

 江田が、三千院の肩越しに画面を覗きこみ、顔を(しか)めた。三千院がテキトーに言って宥める。


 大原から電話が掛かってきた。

 「やー、どうもどうも、一課のメール、もう見はりました? 儂も今から本部寄らしてもらいます。それでな、何か心当たりないか、江田さんにも顔出してもらえへんやろか?」

 「他の行方不明者の個人情報のこともありますし、それはちょっと……」

 「まぁしゃあないわな。普通は行方不明者て、居らんもんな。ほな、また、会議の時に」

 三千院は受話器を置き、課長に報告した。

 「あはは。そんなん、アカン(ダメ)に決まってるやん。会議は、私とサンちゃんで行こか。カモさん、江田さんとお留守番よろしゅう」


 会議で、各課が持つ情報を出し合い、すり合わせる。

 捜査一課は、江田英美の携帯電話のGPS情報や履歴、生活安全課は行方不明者の情報、魔道犯罪対策課は江田英美の証言。

 「その、幽霊さんの言うてはることは、ホンマですか? 江田英美の名前を騙っとることはありませんのん?」

 「江田さんの言う通り、本人さんが行方不明になってはります。お顔もこの写真の通りのべっぴんさんですよ。私らが江田さんに会うより先に行方不明になってはって、私ら、それを確めただけですよってにねぇ」

 嵐山が、一課の二本松(にほんまつ)の質問に、のほほんと答える。

 「幽霊さんは、本人やのに、何で自分の居るとこがわからんのですか?」

 「中身はここに居てはるけど、ガワだけどっか行ってしもてるんですよ」

 「えっ! 今、ここに?」

 他課の捜査員達が腰を浮かし、会議室を見回す。大原が三千院を見た。

 嵐山課長が、首を横に振る。

 「いぃえぇ。魔道課でウチの課員とお留守番してもろてます。会議出てもろた方がよろしぃねやったら、お呼びしましょか?」

 「いや! えぇ! 呼ばんでえぇ!」

 「そんな怖いモンみたいな言い方、やめたりぃな。こんな可愛らしお嬢ちゃんやのに」

 嵐山が資料写真を指差し、血相を変える二本松らを(たしな)める。

 「その、江田さんなんですけど、GPSでは、十二日の夜にバイト先のコンビニから、まっすぐ下宿に帰ってますよね。江田さんは帰宅途中、自販機でコーヒーを買ったそうなんですが、飲んだ覚えがないと言ってるんですよ。気が付いた時には、霊体だけの状態で、古都大学敷地内の植え込みに立っていたそうで……」

 説明する三千院に、怪談を聞いているような視線が注がれる。

 一課の神楽岡(かぐらおか)が息を呑んだ。大原が補足する。

 「儂も、江田さんを最初に見つけた言う学生さんらと一緒に、古都大の発見現場を確認さしてもらいました」

 「任意で現場を視せていただいただけなので、特段、変わった物は見つけられませんでした。もっとちゃんと調べられれば、何か見つかるかもしれません」

 「何かって、何がですか? 兇器?」

 神楽岡が震える声で聞く。

 「江田さんの中身を、あの場所に固定していた呪具か、呪符のような物が見つかるんじゃないかと……」

 一課、生活安全課の捜査員達の顔が強張った。

 「まだ、そうやて決まった訳やおへんのやけど、ウチはウチ独自の眼ぇで捜査しますよって、一課さんと生活さんも、そちらさんの眼ぇで捜査して下さいねぇ」

 嵐山課長のはんなりした声に、やや空気が緩む。

 捜査員は互いに何とも言えない顔を見合わせた。

 「あぁ、まぁ、せやな。役割分担。その為に魔道課も入れてあんねやからな」

 捜査本部長、一課の(たちばな)の声で、再び会議が動き出した。


 住所はバラバラだが、アルバイト先や勤務先が、川端署管内に集中している。

 江田英美(えだえいみ)(一九)古都春菜女子大学二回生、フレンドマート川端病院前店でアルバイト。

 柴田詩乃花(しばたしのか)(二三)、川端病院前の生花店「はぎや」勤務。

 出口芽衣(でぐちめい)(二四)川端病院の事務員。

 上記三名は、家族から捜索願が出ている。

 備東安美利(びとうあみり)(二一)、フレンドマート川端病院前店のアルバイト。

 上記一名は、川端署生活安全課の捜査で、行方不明が判明。捜索願なし。


 行方不明者の共通点は、以下の通り。

 年齢は十代後半から二十代半ば。性別は女性。

 住所は古都府内。勤務先は川端署管内。貴重品や携帯電話等は、自室にある。

 今月、突然失踪。家出の動機がない。備東以外は、異性トラブルなどもない。

 身代金の要求はない。

 以上の点から、物盗りや身代金目的略取ではなく、猥褻目的略取の疑いが強い。

 また、何らかの方法で、江田英美の霊体を体外の特定の場所に固定していたことから、魔法使いの関与若しくは、魔法の道具が使用された可能性を考慮。

 科学、魔道両面から捜査を継続する。

 勤務先が、川端総合病院とその周辺に集中していることから、帰宅途中に拉致された可能性が高い。この一帯に土地勘がある者の犯行であると見られる。

 当面は行方不明者の安全に考慮し、マスコミに公開せず、交友関係の洗い出し、病院周辺の防犯カメラの解析、聞きこみ、付近の不審者情報の洗い出しを中心に進めることになった。

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野茨の環シリーズ 設定資料
設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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