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黒い白百合  作者: 髙津 央
第五章 心の罪業
64/65

64.一方通行

 婚約者は、殺人教唆(さつじんきょうさ)の罪を犯していない。いや、それどころか、この一連の事件が自分の為だと言うことすら、知らないだろう。


 ……こんなのドヤ顔で報告されたら、黒井さんが自責の念に駆られて自殺しかねないよな。


 「あんたさっき、自分を便利な道具扱いする奴がイヤや言うてたやんな?」

 「あぁ。あんたらもそうやろ。視えん奴らに魔物や幽霊のセンサー代わりにされて、ムカつくやろ?」

 同意を求められたが、見鬼(けんき)の刑事は二人ともそれには答えない。

 「自分がされてイヤなこと、なんですんの? あのコら六人、魔術の道具言うか、素材にしたんは何で?」

 「は? 能なしの半視力(はんしりょく)オンナが劣化する前に、有効活用してやっただけやんか。俺が使(つこ)て何が悪いんや」


 ……有罪になるのは兎も角、これ……刑務所に入れたところで、どこまで矯正できるんだろう?


 三千院は目眩(めまい)がした。

 嵐山課長が、自分のこめかみを押さえて話を続ける。

 「えーっと……その能なしの半視力オンナと結婚する気ぃなんや? それで、普通の生活できるつもりなんや?」

 「は? そんなん普通やろ。見鬼も魔女もこの国、(ほとん)ど居らんのやから」

 「あんたが殺した白神さんも、見鬼の婚約者が居ってやねんけど(いらっしゃるんだけど)、自分と(おんな)じ立場の他人の幸せ壊すんは、構へんのん?」

 「は? そんなん知らんがな。婚約者が見鬼とか、今知ったし」

 「別にこの国にこだわらんでも、外国行ったら、魔女も見鬼も大勢(よぉけ)居るやん」

 「は? そんなコトバ通じん奴いらんゎ」

 三千院の非難を籠めた目に気付かないのか、嵐山の質問の意図がわからないのか、新月は素っ気なく答えた。


 ……少なくとも俺は、お前のコトバの通じなさがイヤで、お前がいらん子だけどな。周りの人が道具扱いしたから、こうなったのか。こんな子だから、相応に道具扱いされてたのか、どっちだ?


 三千院は、珍獣を見る目で新月を見た。

 「んー……まぁ、何年掛かるかわからんけど、お務め終わる頃には、あんたが思てるような『普通の生活』は難しなる思うで」

 「は? 小百合が居るやろ。そら、経年劣化して子供は難しなるやろけど、怪我は治ってるやろ。しゃあないから、ヨメにもろたるで? 俺、心広いし」

 「えーっと……頼んでもせんのに『お前の為にやったった』言うていらんコトする奴、普通はお断りやで? しかもあんた、殺人やら何やら、前科付くねんで? 待っとってもらえる思てんの?」

 「は? そんなん普通、待つやろ。小百合は俺にホレてるし、俺は小百合の為にわざわざ手ぇ汚したってんで? 待てへんワケないやろ」


 ……黒井さん、治療のついでに整形して遠くに引越して、全力で逃げた方がよさそうだな……守り(たま)い、(さきわ)(たま)い……


 三千院は未来のストーカー事件を想像し、暗澹(あんたん)たる思いで黒井小百合への祈りの言葉を胸の内に繰り返した。

 後に、この事件は失敗事例(※)として、「虚ろな器」に登場した呪符魔術の教科書に掲載されたと云う……


 ※ 犯人は逮捕できたたが、巻き込まれた一般人(白神百合子)が死亡した。

 ※ 呪符を適切に使用できなかった為、魔物の器として捕まっていた一般女性を負傷させてしまった。

 ※ 同じ理由で、捜査員にも負傷者が出た。

 ※ 同じ理由で、捜査員の目の前で、危うく証拠隠滅されるところだった。

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野茨の環シリーズ 設定資料
設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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