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黒い白百合  作者: 髙津 央
第一章 失踪事件
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06.聞きこみ

 翌日、三千院は大原の聞きこみに同行した。

 「まだ、事件か家出かよぉわからん状態なんで、一課が出て来るまで、当面、生活安全課でやりますよってに」

 「こちらこそ、宜しくお願いします」

 備東(びとう)の住所に向かう車中で、情報交換する。


 備東安美利(びとうあみり)も、この辺りに多い、学生向けの安アパートに住んでいた。

 「備東さん? さぁ? 最近も見ぃひん(みない)けど、前からあっちこっち、遊び歩いて(あそびほうけて)はるみたいやからねぇ(いらっしゃるみたいだからねぇ)……」

 アパートの隣に屋敷を構える大家が、言葉を濁す。

 大原は備東の実家を聞きだし、丁重に礼を述べて、住人への聞きこみに移った。


 「ふーん。この人、ビトウさん、言いはるの? え? 行方不明? ふーん」

 隣室の中年女性は、隣のドアを顎でしゃくった。

 「あぁ、帰って来た日ぃはね、よおぉわかりますよ。ナンボ言うても、夜中にヒールでカンカンカンカン、階段上がんの止めはらへんからね。ウチも下の人も、何遍(なんべん)も苦情言うて、大家さんにも言うてもろてんけどね……」

 「誰かとトラブルになっているとか……?」

 三千院が恐る恐る質問する。

 「そんなん、ここらの人、みな、怒ってはるゎ(おこってらっしゃるのよ)。居る時はステレオ、ガンガンかけて、近所迷惑な。最近静かになってくれて、ホッとしとりますゎ」

 「あぁ、そら、大変でしたねぇ」

 大原が、おばちゃんを(いた)わる。

 「ホンマにねぇ。こないだも、二股かけてはったんか知りませんけど、若い男のコが訪ねて来はって、戸ぉの前でしばらく騒いではったゎ。お隣は、ずーっと留守で、うんともすんとも返事なかったから、小一時間騒いで帰らはったゎ」

 「二股?」

 大原と三千院と江田の声が重なる。

 「こないだて、日にちは覚えてはりますか?」

 「うーん、十日程前? いや、もっと前かぃなぁ? 何せ、静かになって二、三日してからやゎ。やれ『ここで同棲してるんか』やの『どっちが本命かはっきりさせぇ』やの『今やったらまだ許したる』やの何やの……」

 「その男性のお名前とか、わかりますか?」

 隣のおばちゃんは宙を見詰め、思い出しながら答える。

 「さぁねぇ。とっかえひっかえ、しょっちゅう、(ちゃ)う人が出入りしてはったし、ウチらも付き合いありませんよって、怖いから戸ぉも開けてへんし……顔は見てへんけど、声は若い感じやったゎ」

 「そしたら、また、そんな男の人訪ねて来て、玄関先で騒ぐようやったら、警察言うたって下さい。急ぎやなかったら#9110へ、お願いします。何かあるといけませんよって、奥さん、直接言わんと、警察呼んで下さいね」

 大原は不審者対応を助言し、隣のおばちゃんに念を押した。

 隣のおばちゃんが、ハッと何かに気付いた顔で、大原に質問する。

 「刑事さん、これ、ひょっとしてアレなん? 最近流行りの、えー……ストッキング?」

 「ストーカー事件かどうか、まだわかりませんのやゎ。捜査に支障が出たり、奥さんらにご迷惑があるといけませんよって、詳しいことはお知らせでけんのですゎ。堪忍したって下さい」

 大原がさりげなく勘違いを訂正し、隣のおばちゃんの安全第一を前面に押し出しつつ、やんわり質問を(かわ)す。

 三千院は、ベテラン刑事の話の持って行き方に感心した。

 隣のおばちゃんはそれで納得し、それ以上、質問しなかった。

 「はぁ、そらそうやわねぇ。何をどない逆恨みされるか、わからしませんもんねぇ。怖い怖い。早よ、犯人捕まえたって下さいねぇ」

 「はい、鋭意邁進、頑張ります」

 大原が大仰に敬礼した為、三千院もそれに倣って、アパートを辞した。


 警察車両の中で、互いに推測を述べる。

 「男女関係のもつれで、どっか捕まってんのやろか?」

 江田が大きく頷いた。

 「あー、備東さんなら、あり得るー」

 「備東さんなら、あるかもって、何か心当たりでも?」

 「心当たりって言うか、コンビニでも色々あって……」

 備東安美利は、アルバイト先のコンビニで、店長をはじめとする男性従業員、男性客らのウケは良かったが、女性従業員と女性客の心証はすこぶる悪かった。

 雪のように白い肌、対照的に闇のように黒い髪、小柄で華奢で、思わず守ってあげたくなるような美人だった。但し、中身は相当に(したた)かで、異性が居る場と同性だけの場では、別人のように態度が変わった。

 「性格ブスって、あー言う人のコト言うんでしょうねー。男の人って、そう言うの見抜けないから、備東さんがサボって私達に仕事押し付けたり、レジのお金誤魔化したり、おばちゃん客の応対が(ザツ)かったりするの伝えても、なぁなぁで済まされたり、ブスの(ひが)み呼ばわりして、私達が悪者にされてるんですよ。それに、誰とも付き合ってないのに、男だったら誰にでもイイ顔するから、勘違いされて、一時期ホントにストーキングされてたらしいですし。さっきのおばちゃんが言ってましたけど、アパートにもしょっちゅう、押し掛けられてたみたいですよ。それをバイト中に男の人に相談して、しばらく彼氏のフリさせたりとか……」

 マシンガンのように早口に(まく)し立て、三千院が口を差し挟む隙もない。


 一気に捲し立てるのを半ば聞き流し、要約した。

 「つまり、敵が多いんで、心当たりがあり過ぎて、どの方面からの事件か、わからない……と?」

 「おミズが天職っぽいのに、何、真面目ぶってコンビニでバイトしてんだか……」

 「えーっと、備東さんの職業の適性については、置いといて、事件性があるかもしれないし、身の危険を感じて、自ら姿を隠しているかもしれないんですね?」

 「ま、単なるサボりかもしれませんけどねー」

 雪のように白い肌、闇のように黒い髪、小柄で華奢で、思わず守ってあげたくなるような美人と言う条件は、江田英美にも当て()まる。

 舌鋒(ぜっぽう)鋭く非難する江田は、備東安美利の態度を心底、嫌悪しているようだ。


 ……えーっと、その話だと、「備東安美利の敵」って、江田さんも含まれるんだけど、わかって言ってるのかな?


 (もっと)も、江田は備東より先に「行方不明」になっている。何かできるとは思えない。

 「三千院さん、魔法でなんとかなりまへんの?」

 「うーん……今の魔道犯罪対策課には、魔法使いは一人も居ないんです」

 「えッ? そしたら、どなして悪い魔法使い捕まえはるの? 気合い?」

 ハンドルを握る大原が、思わず振り返る。

 「大原さん、前! 前! えっと、色々と装備があるので、それで……」

 「その装備があったら、魔法使いやのぉても、誰でもいけますのんか?」

 「説明すると長くなるんですが……霊視力は、あった方がやり易いです」

 大原は、魔道犯罪対策課の管轄について、確認してくれたらしい。相互理解が進めば、捜査がしやすくなるかもしれない。

 今はそのことだけでも、ありがたかった。

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設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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