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黒い白百合  作者: 髙津 央
第五章 心の罪業
55/65

55.満身創痍

 新月の逮捕から二日。

 行方不明者六名は、病院で身体を取り戻した。

 魂が戻り、肉体の痛みに驚く。

 打撲や擦過傷、脱臼、呪条の索痕。爪が折れた者も居る。

 合同捜査本部長の橘警部と、魔道犯罪対策課の嵐山課長が、魔物の抵抗が激しく、無傷で保護できなかったことを説明し、謝罪した。

 念の為、一日入院し、現在はそれぞれ帰宅している。

 備東安美利(びとうあみり)には、その肉体が殺人に悪用された件は、今のところ伏せている。

 新月に魔道犯罪規制法違反での有罪が確定すれば、「道具」として使われた備東が刑事責任を問われることはなくなる。報道で知ってしまう可能性があるので、専門のカウンセラーを同席させたうえで、慎重に説明することに決まった。

 この事件は昨日、魔道犯罪と認定され、【(ただ)しき燭台(しょくだい)】の使用許可が下りた。


 合同捜査本部は昨日中に記者会見を開き、防犯カメラの映像で姿が報道された女性は、魔道犯罪の「道具」として悪用された被害者であると発表した。

 科学文明国では珍しい事件の為、ワイドショーや週刊誌でも、繰り返し取り上げられている。

 ネットには、単なる興味本位から専門家による考察まで、質も量も様々なまとめや検証のサイトが、ほんの数時間で乱立した。

 三千院は、それらのサイトが検索結果の上位に挙がってくることに、背筋が寒くなった。

 内容のレベルはまちまちだが、サイトの管理者たちは「贄」と「道具」の人権に配慮し、実名や学校・勤務先、顔写真などは掲載していない。

 警察としては、それらの個人情報が掲載された場合、関係者から申し立てを受ければ、何らかの対応をせざるを得ない。だが、管理者が配慮している限り、内容に間違いや単なる憶測が混ざっていても、訂正することはなく、静観に留めた。


 突入した捜査員も、無傷ではなかった。

 神楽岡が骨折で入院、橘警部と二本松は肋骨にヒビ、鴨川は火傷、三千院は裂傷、嵐山を除く全員が、打撲であちこち痣だらけだ。

 「まぁ、みなさん、化けモン相手によぉ、いらん出世せんと済んで……」

 報告会議で、大原が突入組を(ねぎら)った。

 新月の逮捕後、各課の調べで判明した情報をすり合わせる。

 逮捕直後、嵐山課長が身体検査し、魔力の水晶を押収した。

 新月は自社の顧問弁護士を呼び、以降は黙秘を貫いている。

 営利目的等略取の拘留期限終了間際に、魔道犯罪規制法違反で再逮捕した。


 「反省せなアカンとこは、いっぱいあるんやけどね……」

 突入組で唯一人、無傷の嵐山課長が溜め息をつく。

 最大の失敗は、被害者の負傷。次に捜査員の負傷。更に証拠の一部滅却。

 何度も会議を持ち、情報の共有と意思疎通は、充分に図れたように思う。

 作戦も、現状では、これが最善だったろう。実践訓練ができれば、もっと違った結果になったかもしれない。

 敗因は、捜査一課と魔道犯罪対策課の連携不足、対魔物装備の不足、錬度の不足、魔道課の人員不足であることが、火を見るより明らかだ。

 突き詰めれば、根本に予算の不足がある。

 「銭がないんは、首がないんと一緒やなぁ……」

 橘警部が、痛む胸を押えた。

 捜査一課は、魔術に関しては全くの素人だ。

 法改正後に新設された魔道課にしても、一応の知識はあるが、魔力を持たない見鬼だ。敵を視認できるからと言って、それが即ち、戦う力にはならない。魔術的な能力は新月と同じで、道具の力に頼るしかない「なんちゃって魔法使い」だ。

 特務課でありながら、魔物と直接戦える力を持ち合わせていない。

 大原の言う通り、六体もの魔物相手に戦って、二階級特進する者が出なかったことだけは、僥倖だった。

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野茨の環シリーズ 設定資料
設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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