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黒い白百合  作者: 髙津 央
第四章 魔道犯罪
53/65

53.戦う人質

 三千院は、あと一言、結びの言葉の直前で詠唱を止め、部屋に入った。後を追うように鴨川の呪条が続く。

 【消魔】の術は、その場の魔法の内、術者か呪符の魔力より弱い術に作用する。未使用の水晶の方が、呪符より魔力が強い。複数の術のどれを打ち消すか、三千院の錬度では指定できない。最悪の場合、自分が持つ【魔除け】が失効するか、呪条の命令を解除してしまう惧れがある。

 先程、柴田に【消魔符】を貼り付けると、中の魔物が暴れた。新月(にいつき)の支配は、それ程強くないらしい。

 備東と神楽岡が、刺股を取り合っている。中大路が加勢するが、びくともしない。刑事と睨みあう備東の足を、嵐山の呪条が這い上がる。

 新月が力ある言葉を詠じる。

 単純な命令ではなく、三千院にも聞き覚えのある呪文だ。記憶を手繰る。


 ……えーっと……鵬程(ほうてい)を? 越え……此地から彼地へ……これ……【跳躍】だ!


 「逃がすかッ……!」

 水晶を握った拳を叩きこみ、新月と同時に結びの言葉を唱えた。

 水晶の魔力が解放され、解呪の網が広がる。【消魔】の網に絡め取られ、新月の【跳躍】が掻き消える。敗者の手の中で、水晶が砕け散った。

 普家の術が完成し、火柱が上がる。

 橘が備東の背に【吸魔符】を貼り、炎から逃れた。燃え移った片袖をもう一方の手で叩き、鎮火する。

 「サンちゃん! こっち!」

 嵐山が叫ぶ。新月の腕を捉えていた三千院は、躊躇した。

 「代わるわ!」

 「このッ! 放せッ! 半視力(はんしりょく)の癖に!」

 河原が、逃れようと暴れる新月を取り押さえる。飯田が河原に掴みかかり、新月から引き剥がす。

 鴨川の呪条が這い上がり、飯田を縛り上げた。


 「えぇから、()よ来て!」

 普家を拘束した嵐山が再び叫ぶ。普家は再び、同じ呪文の詠唱を始めていた。

 三千院は火柱を避け、膠着状態の備東、神楽岡らの脇を抜け、部屋の入口に戻った。

 嵐山が無言で呪条を押し付け、送還布を広げながら部屋に入る。呪条を伝い、三千院にこの世界への憎悪が流入する。

 新月が力ある言葉で叫ぶ。

 備東が刺股を放し、嵐山に襲いかかる。神楽岡が飛び付き、備東とともに倒れ込んだ。そのまま床に押さえつけ、制圧を図る。

 備東は神楽岡の体重を意に介さず、立ち上がった。

 嵐山は二人を横目で見ながら呪文を唱え、普家に近付いた。

 「来るなッ! 来るなッ! クソッ!」

 新月が後退りながら、焼け焦げた本を投げる。嵐山は腕で顔を庇い、呪文を唱え続けた。

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野茨の環シリーズ 設定資料
設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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