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黒い白百合  作者: 髙津 央
第四章 魔道犯罪
50/65

50.襲う人質

 嵐山と鴨川が、ダイニングの入口で息を飲んだ。

 送還布のサファイアがひとつ、淡い光に包まれる。対になる【吸魔】と【充魔】の呪符で、魔力の移送が始まったのだ。

 刺股の【退魔符】を突きつけ、二本松が柴田の中の魔物を牽制する。柴田は後退しながらも、先程と同じ呪文の詠唱を続ける。

 「サンちゃん、まだいけるか?」

 「はい。そんなに深く切れてません」

 三千院は嵐山課長に応え、【消魔符】を取り出した。何度も練習した呪文を早口に唱える。

 嵐山が送還布を両手で広げ、力ある言葉で発動を命じる。

 力を出し切った【退魔符】が灰になり、散った。


 「ねーちゃん、すまん!」

 二本松が大きく踏み込む。刺股で右腕と胴を捉え、硝子戸に押し付けた。

 河原も加勢し、二本松が押えた位置の下に刺股を押し当て、若い女性を捜査員二人掛かりで押えつける。

 柴田は左手で柄を掴み、二本松の刺股を押し返す。若い女性とは思えない力に、二本松が顔色を失う。顔色ひとつ変えず、易々と外した。

 河原が、自分は外されまいと、胴を押えた刺股に力を籠める。

 柴田は刺股を掴んだまま、左腕を振った。二本松が体勢を崩す。

 「まっつぁん! 危ない!」

 鴨川が叫んだ。

 柴田は無表情に、二本松に力ある言葉を叩きつけた。

 二本松が弾かれたように刺股を放し、両手で頭を庇う。

 結びの言葉と同時に、無数の傷がフローリングに刻まれた。二本松の周囲だけが(まる)く無傷だ。【不可視(みえず)の盾】に守られ、二本松も傷ひとつない。

 柴田が、奪い取った刺股を薙いだ。

 二本松が軽々と飛ばされる。マネキンのように立つ二谷を巻き込み、テーブルに叩きつけられた。椅子の背もたれが腹に食い込む。二本松は吐き気を堪え、身を起こした。

 床に倒れた二谷が、操り人形のように起き上る。右手に包丁があるが、立ち上がっただけで、動かなかった。


 「サンちゃん、先、柴田さんな」

 鴨川が、力ある言葉で呪条に命じ、押えられた柴田を指差した。呪条が河原の刺股ごと縛り上げる。

 三千院は頷き、捕縛された柴田の肩に発動した【消魔符】を押し当てた。

 柴田の口から咆哮が上がる。

 捜査一課の面々が硬直した。

 柴田の顔が怒りに歪み、異様に輝く目が鴨川を睨みつける。鴨川は手を緩めず、呪条を引き絞った。

 柴田の身体ごと縛られた魔物が、人間には発声し得ない咆哮を上げながら、もがく。呪条が食い込み、柴田の肌に縄目の傷が付く。

 送還布が唸りを上げ、再起動した。

 嵐山が、暴れる柴田を背後から抱き締める。激しく身を(よじ)るが、呪条と刺股、嵐山に押えられ、振り解けない。

 柴田の手から、二本松の刺股が落ちた。送還布に貼った【充魔符】が光を失う。魔物が元居た世界に送り還され、柴田の身体が抜け殻になった。


 鴨川が呪条を解き、二谷に向ける。

 二谷には、何の命令も与えられていないのか、包丁を手にしたまま動かない。相変わらず、マネキンのように突っ立っていた。

 嵐山が、ぐったりした柴田の身体を河原に預け、送還布の呪文を唱える。

 三千院は、ズボンで掌の血と汗を拭い、次の【消魔符】を出した。

 橘警部が、右手側のドアに近付く。

 「他の奴らは、奥か?」

 「一人で行ったら危ないで」

 鴨川の声で動きを止める。

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野茨の環シリーズ 設定資料
設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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