35.身代わり
移動の車中で、ざっと事情を聞いた。
二谷代志華、古都大学経営学部の二回生、二十歳。
三日前の六月九日、サークル活動で帰りが遅くなった。忘れ物に気付き、取りに戻ったところで記憶が途切れている。
三千院達は三日前にもここに来ている。江田英美が元に戻り、本人も一緒に実況見分していた。あの後、と言うことになる。犯人は大学関係者だろうか。
江田の不在に気付き、代わりに二谷を固定した可能性が高い。
志賀越川小学校の百合には、まだ柴田の代わりは括られて居なかった。校長、校務員、警備員が見守る中、無事に呪具の回収を終えた。
安堵の息を吐き、古都大と同じ物を押収する。
校長が額の汗をハンカチで押さえながら、三千院に声を掛ける。
「ありがとうございます。あの、刑事さん、これ、学校に埋めた犯人は、まだそこらウロウロしてるんですよね?」
「はい。すみません。今、全力で捜査しています」
「犯人が、撤去されたことに気ぃ付いて、逆上して子供らに何かする……なんちゅうことは……」
「パトロールを増やしますので、何かありましたら、警察にご連絡下さい」
「犯人、魔法使いなんですよね? ウチの装備、普通の不審者にしか対応してへんのですけど……」
先日とは別の警備員が、不安を隠そうともせず、三千院達に縋るような目を向けた。対魔道士専門の警備会社でなければ、対応しきれない。
「もし、ここで不審者をみかけても、直接対応せず、警察にご連絡下さい」
「警察は、装備持ってはるんですか?」
「機密なので、細かいことまでは、お答えできません」
専門の警備会社より遥かに脆弱だ。
こんな情報が漏れれば、魔法の使える犯罪者が真っ先に潰しに来るだろう。
「もう何も居らん言うても、何や気色悪いですし、子供らのことも心配なんで、神主さん呼んで、お祓いしてもらおか思うんですけど、構いませんか?」
校長が、恐る恐る質問する。
「勿論、私のポケットマネーで、税金はビタイチ使いませんのやけど……」
「問題ありませんよ」
除祓しても雑妖がしばらく居なくなるだけだ。特に何がどうと言う物でもない。ただ、子供の怪我などは減るだろう。
「ほな、しばらくは保護者に子供らの送り迎えもして貰います。刑事さん、早よ、捕まえて下さいね」
校長は、やや安堵した声で言った。
捜査本部に戻ると、川端東マンションに張り込んでいた河原と中大路からは、不審な人物は現れなかった、と言う報告があった。マンションに行った嵐山課長も、あの後、誰かが触った様子はない、と言う。
飯田、柴田、出口に、三千院が連れ出した二谷、嵐山課長が連れ帰った普家、鴨川が公園で見つけた備東が加わった。
六人とも、同じ状況だ。
呪具を掘り出しただけでは、解呪されない。
備東には、身体が悪用された件は伏せ、六人を小会議室に移動させた。