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黒い白百合  作者: 髙津 央
第三章 誘拐事件
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27.呪いの力

 「江田さんも飯田さんも、(くく)られてたとこから離しただけでは、術が解けへんねんなぁ」

 「かと言って、亡くなってる風でもないんですよね」

 鴨川の独り言に三千院が相槌を打った。助けるとは言ったものの、解呪の条件がわからない。


 昨日、(ともえ)は「自分が見つけたせいで呪いが」と嘆いていた。霊視力を持ち、実際に「視つけた」のは巴だ。白神(しらかみ)には、江田の中身の存在を知覚できなかった。

 気が引けたが、三千院は迷った挙句、巴の携帯電話に連絡した。

 「……あぁ、刑事さんですか。犯人、捕まったんですか?」

 思った通りの疲れた声で、心苦しい。だが、犯人逮捕に近づく為には、どうしても確認しておきたい情報でもある。

 「すみません。まだです。その件でひとつ、お尋ねしたいことがあって……今、大丈夫ですか?」

 「移動中なんで、大丈夫です」

 「移動? どちらへ?」

 「……帝都です。百合子(ゆりこ)さんの実家の方で、お葬式なので……」

 「えー……お葬式ー……? じゃあやっぱり、私って、死んじゃってるんだ?」

 巴の声は沈んでいた。

 白神百合子(しらかみゆりこ)本人の声も聞こえるが、膜一枚隔てたように、遠い。

 「巴さん昨日、呪いがっておっしゃってましたよね。何か、心当たりでも?」

 巴は、一分近く黙っていた。

 移動は新幹線らしい。車掌のアナウンスが終わると、溜め息をつき、重い口を開いた。


 巴の曽祖母(そうそぼ)は、魔法文明国の出身だ。

 曽祖母の親族の中に、曾祖母が科学文明国へ嫁ぐことを快く思わない者が居た。

 その親戚は曽祖母ではなく、夫婦の間に生まれた娘……巴の祖母に呪いを掛けた。魔力を持つ子が産まれなくなる呪いだと言う。流産するか、妊娠中に母子諸共亡くなる。また、霊視力を持つ子は長生きできない。父も四十代半ばで亡くなった。

 弟が魔力を持ちながらも、生きて生まれたのは、三つ子の兄弟で、他の二人に魔力がなかったからだろう。


 「祖母も母も、妊娠中に亡くなりました。百合子さんは……婚約しただけなのに……百合子さん、子供、いらないって……それでもいいって言ってくれたのに……何でこんなことに……」

 受話器の向こうで、巴の声が揺れ、すすり泣きに変わった。

 「巴さんのせいでも、その呪いのせいでもありません。悪意を持った人間が、故意に起こした事件です。必ず、犯人を逮捕して、白神さんの無念を晴らします。巴さんも、気を付けて下さい。大変な時にありがとうございました。では、失礼します」

 三千院は、何の慰めにもならないと知りながら、そう言う他なかった。


 「巴さん、何て?」

 「ずっと昔に、巴さんの親族間でトラブルがあったそうです。親戚の魔法使いが、巴さんの家系を呪って、お嫁さんが亡くなり易いんだそうです。それで、婚約したせいなんじゃないかって、かなり参ってました」

 「今回のあれは、犯人おるんやから、その呪いやないやろ。まだ婚約しただけで、ヨメにもなってへんのに。それにしても、恐ろしい話やなぁ。(のろ)って、気分的なもんやのぉて、ホンマに人殺せるんやから」

 鴨川も、三千院と同意見だった。

 「本人さんの意思を無視して、体と魂を分けてまうんやから、今回のこれも、言うたら、呪いみたいなもん(ちゃ)うの? サンちゃん、組合さん、何も言うて()はらへんの?」

 「すみません。蒼い薔薇の森からは、まだ何も……」

 嵐山課長に聞かれ、三千院は恐縮した。


 三千院には魔力こそないが、少しは魔術を齧った身だ。

 それなのに、何の役にも立てないことがもどかしく、悔しい。

 考えていても仕方がない。だが、関係者や現場周辺の聞きこみなどは、他課が動いている。

 備東安美利(びとうあみり)の身体は、肉眼でも普通に見えるので、霊視力による捜査は必要ない。


 内線が鳴り、嵐山課長が出た。

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野茨の環シリーズ 設定資料
設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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