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黒い白百合  作者: 髙津 央
第二章 殺人事件 

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23/65

23.六月十日

 六月十日。

 今日の夕方、伏見教授はフィールドワークから戻る予定だ。


 休憩室から、嵐山課長の声が聞こえる。

 三千院も、課に出る前に休憩室へ顔を出した。飯田と課長が、朝のニュース番組を見ながら、世間話をしている。

 江田だけが元に戻り、心細かったのか、飯田はよく喋っていた。普通の生者と会話することで、自分をこの世に繋ぎ留めようとしているかのようだ。

 「……シラカミユリコさんは、搬送先の病院で死亡が確認されました」

 聞き覚えのある名前に、三千院は思わず、テレビを見た。課長も言葉を切り、画面に見入る。

 ホームの監視カメラの映像が流れていた。

 若い女が、電車を待つ女性に、背後から体当たりする。丁度、ホームに進入してきた列車が、ブレーキを掛ける間もなく、女性の落下地点を通過した。

 女は結果を見届けると、線路に背を向け、走り去った。

 一瞬の出来事で、周囲の客は立ち竦んでいた。

 「……警察では、逃げた女の行方を追っています。それでは、次のニュースです」

 「これ、何? ちゃんと聞いてへんかった。シラカミさんて、あの白神さん? 何で?」

 嵐山課長が、画面を食い入るように見るが、既に次の話題に移っている。白神を知らない飯田は、二人の様子にオロオロするばかり。

 「飯田さん、ごめんな。また後で。サンちゃん、一課行くで」

 三千院は、嵐山課長に従った。


 一課は既に慌ただしく動いていた。状況を確認する。

 死亡したのは、江田を発見したカップルの一人、白神百合子だった。


 昨日、六月九日十九時四十三分。

 青龍線(せいりょうせん)出待箭内駅(でまちやないえき)下りホームから転落。丁度入って来た回送列車に轢かれた。古都第二中央病院に搬送されたが、間もなく死亡が確認された。

 目撃証言と監視カメラの映像から、殺人事件と断定。

 現在、映像の詳細な解析を急いでいる。


 「何で、魔道課さんが気にしよんです?」

 刑事の一人が、(わずら)わしげに聞いた。

 この班は、連続行方不明事件の捜査に加わっていない。嵐山課長は、気を悪くする風もなく答えた。

 「殺された白神さんは、行方不明者の中身を見つけたカップルの片割れなんやゎ。ひょっとしたら、犯人に口封じされたかも知れんのですゎ」

 「モミジさん、目星ついてはるんですか?」

 「全然」

 勢い込んだ刑事が、その勢いのまま肩を落とす。

 「せやから、魔道課言うより、連続行方不明事件の捜査本部にも、カメラの映像を見して欲しいんやゎ」


 すぐ捜査本部に召集をかける。

 主だった面々が集まる頃には、映像のキャプチャをプリントした物が回って来た。

 「何やこれッ?」

 捜査本部の反応は一様ではなかった。

 一課は色めき立ち、生活安全課が何とも言えない顔を見合わせ、魔道犯罪対策課は渋面を作る。

 白神百合子(しらかみゆりこ)を線路に突き落とした人物は、備東安美利(びとうあみり)だった。

 何度も、行方不明の捜査資料と見比べる。

 「このコ、双子の姉妹が()やはるんか?」

 鴨川が眉間に縦皺を刻む。神楽岡(かぐらおか)が素っ気なく答えた。

 「一人っ子やで」

 「何かの術で操られてるとしたら、犯人が口封じに、備東さんの体を使(つこ)た言うことや。巴さんも、危ないかも知れん」 

 駅と店舗の防犯カメラの映像から、備東安美利は駅構内を駆け抜け、改札を強行突破し、駅前の人混みに紛れている。

 その後の行方は、掴めていない。

 二本松が映像に驚く。

 「このコ、陸上でもやっとったんか? ハイヒールやのに、めちゃめちゃ速いやんか」

 「爪先に体重掛かって、相当、足痛い筈やで」

 嵐山課長が言い添えた。

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野茨の環シリーズ 設定資料
設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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