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黒い白百合  作者: 髙津 央
第二章 殺人事件 
20/65

20.実況見分

 三千院と大原は、江田に案内を頼み、古都大学のベンチに向かった。

 大学職員が立会し、ロープを巡らせた中で捜査員が、足跡、繊維片や指紋の採取などを行っている。

 大原が改めて、本人から状況を聞く。


 三千院は、ベンチとその周辺に、使い魔や呪具の類が残っていないか、入念に調べる。

 使い魔どころか、雑妖の(たぐい)すら、一匹も見当たらない。ここは校舎と校舎の間で、日当たりが良くない。普通なら、陰を好むモノが(たむろ)している筈だ。

 魔道学部が、魔除けを使った可能性はあるが、魔除けの呪符は、素材だけでもかなり高価だ。敷地全体に行き渡らせるとなると、費用は莫大になる。或いは誰か魔法使いが、自前の魔力で穢れを祓ったのか。


 鑑識が作業を終え、ベンチから離れた。

 三千院はベンチの傍らに立ち、目を凝らした。

 イヤな気配が残っている。

 それを残したのが何者なのかまでは、わからない。ベンチに残ったぬくもりから、座っていた人物を特定しようとするに等しい。

 立ち働く人々の影は薄くなり、陰と陽の境が曖昧になる。


 刑事が一人付き添い、江田を下宿に帰らせた。

 大原が、数歩離れた位置から、声を掛ける。

 「何ぞ、悪いモンでも居りますのんか?」

 「いえ、ここにはもう居ません。気配が残っているだけです」

 「何が居りましてん?」

 「ちょっとそこまでは……」

 単なる見鬼の霊視力では、警察犬が臭気を追跡するようにはいかない。

 三千院は、文献でしか知らないが、「三界(さんかい)()」と呼ばれる能力なら、このイヤな気配もはっきり視認できるらしい。(かす)かな気配でも、ナメクジの這い跡を辿(たど)るように、追跡できるだろう。

 強い意志を持った人間の亡霊なのか、魔物なのか。

 少なくとも、力の弱い雑妖の類ではない。ここに雑妖が居ないのは、何か恐ろしいモノに怯えて、逃げたからだろう。

 それは、ベンチにしばらく留まっていたのか、気配を染み付かせていた。

 どこから来て、どこへ行ったのか。


 三千院は無理を承知で、ベンチの周囲に意識を集中した。

 肉眼では見えない「イヤな気配」に霊視力のピントを合わせる。目の奥がじくじく痛み、吐き気がするが、気配の正体を見極めようと、視線は外さない。陽炎(かげろう)のように揺らめく気配が、どの方向に動いたのか。気配の流れを突き止めようと、その境界を視線でなぞる。

 それは、移動経路が特定できる程、速度は遅くないようだ。ベンチから外れた位置には、何の気配も残っていなかった。

 三千院は、目を閉じて大きく息を吐き、緊張を解いた。


 日が落ち、鑑識が引き揚げる。

 三千院と大原も、諦めて校門へ向かった。

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野茨の環シリーズ 設定資料
設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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