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黒い白百合  作者: 髙津 央
第二章 殺人事件 
15/65

15.ニュース

 「聞いてみましょう」

 足早に近づく。民家の前に人垣ができ、中心部は見えない。

 大原が人懐こく、野次馬に話し掛ける。

 「どうも、こんにちは。みなさん、何見てはりますの?」

 「あぁ、これな、変わった花が咲きよんですゎ」

 「新聞に載っとったから、どんなもんかいなぁ(おも)て、見に来たんですゎ。ここ、ほら」

 老婆が新聞を見せてくれた。古都府内だけで発行されている、ローカル新聞の夕刊だ。

 小さな記事だが、写真入りで載っている。「いたずら? 黒いテッポウユリ 民家の庭先に突如にょっきり 吉田上町」と言う、ぬるい見出しに続いて、短い本文がある。本文よりも写真の面積の方が大きかった。


 古都市左区吉田上町、梶井一真さん(七十六)方に黒いテッポウユリが現れた。開花直前のつぼみは真っ黒で、「鉄砲」そのものの黒光り。

 植わっているのは、塀の外にある植栽の根元で、一日朝の時点では、なかったという。何者かが植えたとみられる。梶井さんは、「気味が悪いが、どんな花になるか見たいので、枯れるまでそっとしておく」と話していた。

 古都市立大生物環境学科 川原町聖護(かわらまちしょうご)教授の話「テッポウユリに黒色変異は発生し得ない。根元に黒インクなどをまいて、色素を吸わせたいたずらだと思われる」


 二人は記事に目を通し、老婆に礼を行って返した。

 「普通、クロユリ言うてんのは、全然別の奴で、もっと、こんまいからね。これはホンマに珍しぃわ」

 「イタズラやて書いてあるけど、それにしても、おかしな話やで」

 老婆が解説すると、周囲の見物人達も、口々に話し始めた。

 「まぁ、確かに色は変わってますけど……」

 三千院が首を傾げる。

 「兄ちゃん、いつ、誰が、こんなもん、ここへ植えよったんかが、おかしいんやで?」

 「ここの道はな、学生さんらがしょっちゅう通らはるから、いっつも人目があるんや」

 「流石に夜中は、用事もないのに通るもんは、居らんけどな」

 「梶井さんも、全然知らん()にこんなん生えてって、びっくりしてはるんやゎ」

 「気色の悪いハナシやでなぁ。他人んちの庭先、勝手に掘り返してからに……」


 草丈一メートル程の立派なテッポウユリだ。蕾がみっつ付いているが、いずれも黒光りしている。

 ユリの傍らに、黒髪の若い女性が立っていた。梶井家の者だろうか。

 老人ばかりの見物人の中で、唯一人の若い女性は、居心地悪そうにしている。白百合を思わせる清楚な美人。今にも消えてしまいそうな、儚げな雰囲気だ。

 「黒インク吸わしたて書いてあるけど、ウチも切り花()うてって、赤インクでも吸わしたろかぃな」

 「そんな毒々しいのんせんと、もっとこう、涼しそうな、水色とかにしときんか」

 「どうせやんねやったら、一発ド派手にキメたいやないか。虹色もえぇなぁ……」

 「そんなもん、どなして塗り分けんのんな? みんな混ざって、真っ黒けになってまうん(ちゃ)うの?」

 老人たちは、既に新参の見物人に興味を失い、てんでに勝手な話をしている。

 「ははぁ。そしたら、これも、虹色の失敗作か?」

 「誰が他人んちの庭先で、こんなアホな実験しよんねやろな?」

 「学校の前にもあったで」

 「えっ?」

 他の全員から注目を浴び、発言した老人は、寸の間、口ごもった。すぐに気を取り直し、得意げに話す。

 「岡西町の方から来たんやけど、来る途中で、小学校の生垣のとこにも、こんなん生えとったで。電柱の陰になっとったさかい、みんな知らんと通り過ぎてもてんねんな」

 「そしたら、そっちも見に行ってみよか」

 「何や何や、暇人ばっかりやの」

 「こんな他所(よそ)さんの家の前で、いつまぃでもワーワー言うてたら、迷惑やろ」

 暇を持て余している老人たちが、ぞろぞろ移動する。

 三千院と大原、黒髪の女性だけが残った。

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野茨の環シリーズ 設定資料
設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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