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黒い白百合  作者: 髙津 央
第二章 殺人事件 

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14.現場回り

 「三千院さん、どないでした?」

 「どうって、特に変なモノを憑けられた様子はありません。普通の変質者か、もし、行方不明事件の関係者だとすると……」

 臓器売買の可能性を語った。

 大原はその可能性ではなく、別の部分に食いついた。

 「変なモンって、何ですのん?」

 「例えば、使い魔、とか」

 わかりやすく噛み砕いて説明する。


 それなりに力のある魔法使いは、その辺りを漂う雑多な妖魔や、猫や鴉などの小動物を一時的に支配し、使役できる。

 手紙の運搬などの簡単なお使いや、偵察などが主な用途だ。

 (あるじ)となった魔法使いは、使い魔の視聴覚を利用できる。魔法使いは、任意に感覚を切り替え、使い魔が見聞きしたことをそのまま、知覚できるのだ。

 また、魔法文明圏でなければ、建物に雑妖などの侵入防止措置を施していないことが多い。

 日之本帝国では、かつては寺社が発行するお札などを使用していたが、現在はそれを迷信扱いして、何もしていない物件が多い。雑妖の「使い魔」が自由に出入りできる状態で、ほぼ野放しになっているのだ。


 「ストーカー目的なら、下手な盗聴器や隠しカメラよりも、よっぽど高性能ですよ。霊視力のない人には、まず、見つかりませんから、バレるリスクが少ないですし、術者本人が、常に対象を監視できる訳ですから」

 雑妖は、神社仏閣など特に清められた場所以外なら、どこにでも存在する。

 霊視力を持つ【見鬼】が存在に気付いても、特に気にしない。下手に関心を寄せて憑かれると面倒なので、この国では大抵の見鬼が、視なかったことにしてやり過ごす。

 三千院も、単に視えるだけで雑妖を祓う能力はないので、いつもはそうしている。

 「魔法使いて、ホンマ洒落にならんなぁ……」

 大原が大仰に首を振る。

 「その為に、魔道犯罪規制法とかの法律が整備されて、魔道犯罪対策課が設置されたんですよ」

 「せやったな、アテにしてんで(あてにしているよ)

 大原が、三千院の肩をポンと叩いた。

 「まだ、その不審者が、魔法使いだと決まった訳じゃありませんし、行方不明事件との関連も不明ですし……」


 大学方面へ向かって歩きながら、話を進める。白神が地図で示した道順を辿(たど)り、何か痕跡が残っていないか、目を凝らす。

 不審者が立っていたと言う、商店前の自販機まで来た。

 酒類の自販機と壁の隙間の影に、小さな雑妖(ざつよう)が居る。

 雑妖は、三千院と目が合うと、自販機の下の影に潜り込んだ。存在に気付かれたことを恐れ、自らの意思で移動している。

 魔法による支配を受けて、強制的にここで何かを監視させられている様子はなかった。

 「何か、()るんですか?」

 「いえ……あの、まぁ、普通の雑妖が居るだけです。特に誰かに支配されてる様子はなさそうです」

 つい、いつもの癖で否定しかけ、慌てて説明する。

 大原は、自販機の下に目を向け、気味悪そうに三千院を見た。

 「ただそこに居るだけで、別に、何か悪さする訳じゃありませんから……」

 「ホンマでっか?」

 大原が言いながら、自販機からそっと距離を取る。ここでは、特に手掛かりを得られなかった。

 道なりに古都大へ向かう。

 狭い生活道路の先に、人集(ひとだか)りができていた。

 「何やあれ? 何ぞ事件か?」

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野茨の環シリーズ 設定資料
設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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