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黒い白百合  作者: 髙津 央
第一章 失踪事件
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12.尾鰭背鰭

 翌日、ベテランママ宅へ先輩警官と三千院が、事情聴取に訪れた。

 令状も何もない。ただの聞き込みだったが、ベテランママはその際、「金なんか盗ってへん!」と逆上し、玄関の置物を投げつけた。先輩警官に当り、公務執行妨害の現行犯で逮捕した。

 これが、尾鰭背鰭を付けた噂となり、幼稚園と近所一帯を駆け巡った。

 短文投稿SNSを通じ、転居や転園をした者達にも、情報が拡散した。


 やっぱり、泥棒はあの人で、もうすぐ逮捕されるらしい。

 オークションで転売して、もう手元には何もないらしい。

 マグネットだけではなく、多額の現金まで盗んだらしい。

 盗んだお金は若いツバメに貢いで、手元にはないらしい。

 泥棒がバレる前に、人を使って被害者を追い出していた。

 もう逮捕されて、罪が多過ぎて一生刑務所暮らしらしい。

 逮捕されたら、今まで盗られた物は返って来ないらしい。

 ギャンブルにハマって夫の貯金にまで手を付けたらしい。

 取り戻すなら今の内しかないらしい。みんなで訴えよう。


 真偽が入り混じった噂を(もと)に、何人もの窃盗被害者が、三千院が勤務する交番に被害届を出しに来た。ついでに、幼稚園での出来事を切々と訴える者も多かった。

 三千院はうんざりしながら、来る日も来る日も、愚痴の相手になりつつ、書類を作った。


 その後、刑事が令状を以て行った家宅捜索では、キャラクターグッズが大量に見つかった。

 記名されて売り物にならないが、子供が気に入ったから、と他人の名前が書かれた玩具などを、そのまま使わせていたのだ。


 ベテランママ……三反長サワ(さんだんおささわ)は取調室で、自分は現金には一度も手をつけていない。盗ったのは格下だ。貧乏で可哀想だと思って今まで黙っていた、と言う趣旨の供述した。


 上司と三千院が格下……動画撮影者に事情を聞きに行ったが、他の者達と大差ない情報しか引き出せなかった。

 園の迎えの時間、撮影者が新米ママに植木鉢を投げつけた。

 「せっかく証拠の動画撮ったったのに! 普通、そんなことするか? 恩を仇で返しやがって!」

 植木鉢が当たり、新米ママは負傷。救急と警察が呼ばれた。


 逮捕後、撮影者は観念したのか、自供した。

 盗みは初めてで、今なら三反長(さんだんおさ)さんに罪を被せられるから、実行したと言う。

 玩具だけではきっと罪が軽いから、重罪に仕立て上げる為、現金も盗んだことにしたかった。まさか、三反長さんが見ていたのに黙っていたとは思わなかった……と。

 供述通り、撮影者宅から落書き入りのクッキー缶が見つかった。中の現金は手付かずだった。


 撮影者の逮捕後、ベテランママの三反長サワもポツリポツリと、自身の犯行を供述した。

 曰く、たかが数百円の玩具では普通、逮捕しないと思った。自分はずっと、園をよくする為に頑張って来た。面倒事を自分に丸投げする連中が悪い。手間賃をもらうのが普通だ。労力の元を取る為に転売した。なるべく高く売るのが普通……


 その渦中で、ベテランママの夫・三反長総作(さんだんおさそうさく)がSNSの投稿を知り、名誉棄損で投稿者らを訴え、損害賠償の泥仕合に発展した。

 それまで、三千院は魔物などを恐れていたが、人間が一番恐ろしいと思うようになった。


 ……今回の行方不明事件は、何を「普通」だと思う者の犯行だろう?

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野茨の環シリーズ 設定資料
設定の説明とイラスト置場。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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