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異世界における召使い指南書  作者: 黒土黒人
第一章 主人は魔族で俺は召使い
9/17

決闘終了。そして逃避行。

 前話を見たほうがこの話はわかりやすいです。

 怒りに肩を震わせながら長剣を頭の上までゆっくりと上げ、ラミュエルをキッと睨む。

「……今の言葉、撤回しろおぉぉおおおおお!」

 うおぉぉおおおおお! と迫力ある声を上げながら、ラミュエルに猪突猛進。

 ラミュエルはピクリとも眉ひとつ動かさず、冷静に攻撃を避ける。

「フン、あんたは相当頭がハッピーなようね。さっきまでの戦闘で、私に敵わないって感じなかったの?」

「だまれッ! 私はマスターに忠誠を誓った者。私への罵倒は許せてもマスターへの侮辱は許せん! ここで成敗する!」

 言ってることは立派なことだが、やはりテーラーの攻撃はすべてかわされてしまった。

 まさか、この煽りも計算のうちなのか?

 そう思うと、ラミュエルの狡猾な事の運び方に寒気を感じる。

「さてと、あんたの面子も立たないでしょうし、倒さないといつまでも刃向ってきそうだから……」

 攻撃を華麗にかわしながら呟き、瞬時に目が鋭くなった。

 雰囲気的にラミュエルも攻撃するんじゃないか?

 数回避けた後、テーラーが鋭い突きを放つのを見切り剣脊に拳を振る。

 え? 剣を殴るだけ?

 確かに、あの鋭い突きにむかって当てるのもすごい技術だが、なぜ剣だけ?

 突きを横から弾かれ、大きくのけ反るものの次の攻撃を繰り出そうとするテーラー。

 だが――。


 パキイィィイイイン。


 振った瞬間に美しい剣身が特有の金属音とともにが粉々に砕け散った。

「な……」

 いきなりの事態にテーラーは困惑のあまり言葉を失う。

 なんでいきなり剣身が砕けたんだ? ただ殴っただけのはずなのに。

 俺もラミュエルが何をしたのか全く飲み込めない。

「これで、ヴァルキリー自慢の剣技は使えないでしょ。そこで大人しくしてなさい」

 子供を諭すように静かに言って、ラミュエルはテーラーの横を通り過ぎてフレリアの元に向かう。

「まだだ!」

 しかし、あきらめのつかないテーラーは剣身のない柄を投げ捨て、殴りかかる。

「ちょ、やめ……」

 このままでは反則となるのでテーラーに警告を促そうとした時、ラミュエルが鋭い回し蹴りをテーラーの腰に食らわせて、とどめをさした。

 うっわ……。

「が……は……」

「自分の意でもない忠誠を掲げて愚かに力を振るう……可哀そうね」

 数歩よろめき倒れるテーラーに向かって、ラミュエルは吐き捨てるようにつぶやく。

 俺はラミュエルが言ったことが何を意味しているのか、この時は分からなかった。

 テーラーがピクリとも動かなくなるのを確認して、ラミュエルは再度フレリアの元へ。

「ん? この娘……まさか」

 フレリアの前で立ち止まりまじまじと見ていたラミュエルだが、いきなり顎をガッと掴み、顔をまじまじと見つめる。

「やっぱりね。レドロ家の令嬢、フレリア・レドロ。あの猿が『フレリア』ってうっさいから、もしかしてと思ったけど。まさかこんなところでお目にかかれるとはね」

 目を見開き不気味な笑いとともに、嫌味を利かせるラミュエル。

 って、なんでお前まで俺のこと猿呼ばわりすんだよ。

「あんたみたいな高貴な人間は、魔界でもさぞ高く売れるでしょうね。しかも生娘。メインディッシュには相応しいわ」

「ひっ……」

 まるで味見をするかのように頬をぺロッと舐められたフレリアは、恐怖に顔をゆがませて小さく悲鳴を上げる。

 このままじゃやばい! あと、判者としてこれは反則行為だから止めねば!

 救いたい一心と正義感からなのかいてもたってもいられず、俺はラミュエルとフレリアに走り寄り、ラミュエルを突き飛ばして二人の間に割って入る。

「……ッ。なにすんのよ!」

 したたか尻を打ちつけたラミュエルは、擦りながらキーキーわめく。

 俺は一歩も引くことなく、むしろ両手を広げて立ちふさがった。

「判者としてこの決闘はラミュエルの反則行為とみなす! よって、この決闘は無効とする!」

 俺は腹の底から力いっぱい叫んだ。

 これが一番いい選択のはず。

 しかし、ラミュエルは俺の出した審議に対して不服のようで、鬼気迫る顔でこちらを睨む。

「反則行為?! 私はまだ何もしてないわ! あと、反則っていうならそちらのヴァルキリーの不意打ちは反則になるはず!」

「ならば双方反則行為を犯したとみなし、よってこの決闘は再度無効とする!」

 相手を威嚇するようにさらに声を張り上げる。

 もうこれ以上、反論は言わせないぞ!

 怒りを露わにし、うめき声をあげて今からでも襲いかかる勢いだったラミュエルだが、しばらくして「はぁ」とため息をついて乱れた髪を直す。

「わかったわよ。本当に食べるつもりじゃないし、人間の肉なんてまずいしね。ただ怖がらせるつもりだっただけ」

「そうか、まだラミュエルにもモラルがあって助かったよ」

 ほんと一時はどうなるかと。

 ひとまず落ち着いたみたいで、ホッと胸をなでおろした。

「ただ――」

 ラミュエルはそう呟き、目を細めてにこやかに、そしておもむろに魔法陣を取り出す。

「えっと、何してるんですか? ラミュエルさん?」

 瞬間的に背筋に寒気が走った。

 その行動の意図が全く分からないんですが?!

「あんたにはたっぷりお仕置きしないとね~。こっちの気が済まないっていうかね~」

 すごく晴れ晴れと笑っているのにもかかわらず、言動と目が据わっているのがものすごく恐しい!

「け、決闘は無効になったから。お仕置きはなしのはず――」

「それはそれ。これはこれ。そして、あんたは私の従者で、私はあんたの主人。従者をお仕置きするのに理由なんている?」

「そんな! 理不尽だ!」

 こいつ……納得してない! ていうか俺に憂さ晴らししようとしてるな!

 そんなことを悟っても、ラミュエルがじりじりと恍惚の笑みを浮かべながら近づいてくるのは止められない。

 どうする……ええーいッ!

「うおお! なんだあれ、すっげえぇぇえええええ!」

 目をくわっと見開いて、何処をビシッと指さす。

 迫真の演技で注意をそらす……って、こんなの通じるはずが――。

「え?! なにがすごいの?!」

 予想外にもラミュエルは俺の指の方向を向いて、ありもしないなにかを探し始めた。

 お前、いくつだよ!

 しかし、せっかく掴んだわずかなチャンスを無駄にはできない。

「フレリア行くぞ! あと閃光の魔術を!」

「え……わ、わかった!」

 魂ここにあらずだったフレリアの腕をつかみ、閃光の魔術を要請する。

 それに応じて、フレリアはローブの袖から魔法陣を取り出し、すぐにラミュエルに向けて激しい光を放った。

「キャッ!」

 ラミュエルもその光には堪らずたじろぎ、あたりをきょろきょろと見渡している。

 よし!

 ラミュエルの目が利かないのを確認、フレリアの腕を引きながら走って門をくぐる。

「待てえぇぇえええ! 何もしないからあぁぁああああ!」

「ひッ……」

 これは嘘だ! 絶対に捕まっちゃいけない!

 嫌な汗が滲み、背筋にひやりとした寒気を感じる。体が恐怖を感じているのだろう。

 あの身体能力だし、すぐ追いつかれるかも。ましてや、こっちはフレリアを引っ張っているっていうのに。

 しかし、ラミュエルが門をくぐった瞬間に状況が一変した。

「ま、魔物だ!」

「魔物が侵入した! 軍の応援を呼んで来い!」

「子供は家に避難するんだ!」

 なんと朝市でにぎわう人々がラミュエルを囲い、動きを止めて応戦しているのだ。

 ありがたい!

 魔物侵入の時の普通の対応なのだが、この時ばかりは多大に感謝した。

「くッ……邪魔!」

 ラミュエルの怒声が聞こえるのは、結構遠い。

 これは相当、足止めになってくれているのだろう。



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