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異世界における召使い指南書  作者: 黒土黒人
第一章 主人は魔族で俺は召使い
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決闘

 騎士道に則る決闘。

 かなりの歴史を誇っている決闘の形式。はるか昔、決闘が娯楽のように開催されており多くの決闘者が人々の愉悦を満たすためだけに殺しあっていた。

 この現状に当時の国王が嘆き「決闘は戦争ではない、情を持て。人の子ならば命を粗末にするでない」と公言し、一連の規約を設けたのである。

 一つ、決闘には判者を立て、判者は私情にとらわれずに決闘の進行を行うこと。

 一つ、勝者は敗者の意を汲むこと。無益な殺生はしてはならない。

 一つ、決闘者やその従者以外に被害が及ぶことがないようにすること。

 一つ、決闘の勝敗の結果がどうなろうとも執着してはならない。潔く認め、己を鍛えよ。

 一つ、正々堂々と戦え。決して不意打ちはしてはならない。

 この精神が後に『騎士道』と呼ばれる厳格なものになり、それを踏まえて『騎士道に則る決闘』になったのだ。

 たしか、今でも首都のコロシアムではやっているんじゃないかな。

「ジン。判者を」

 決闘について思い出していたところ、フレリアが真剣な眼差しで俺に判者を頼んできた。

 この場合は否応なく俺だよな。

「ああ、わかった」

 本当は声を大にして「学校は?!」と言いたいところだが、雰囲気的にも言い出せるような状況ではないので、仕方なく判者を請け負う。触らぬ神に祟りなしってやつだ。

 了承を得たフレリアは一歩踏み出し、キッとラミュエルを睨む。

 一方のラミュエルは笑みを浮かべて、かなり余裕を持っている様子。

 そんな二人の間に割って入るは俺。

「これより決闘を始める、両者ともに従者の召喚を!」

「従者ってあんたなんだけど」

「いや、一応これやんなきゃいけないから」

 形式通りに進行しているとラミュエルが不満をぶつけてきたが、こればかりは仕方がないのでなだめる。

「我、主の特権を行使し、ここに従者を召喚させる!」

 フレリアは指示に従って召喚のための呪文を唱えると、その隣りの地面に魔法陣が浮かび上がりそこから光が溢れる。

 たしかフレリアは高等魔術科だから精霊のはず。

 案の定、その光は次第に人型に形成していき、最後に光がパァッと弾けて姿を現した。

 長くしなやかな肢体に煌めく鎧とはためく長いスカート。

 ゲームの世界から出てきたんじゃないかと思わせるほどの端正で凛とした顔つきに、腰まで伸びる長いブロンドの髪。

 そして右手には柄に豪華な装飾が施されて細長い剣身からはまばゆい光を放つ長剣。

 フレリアの精霊はなんとヴァルキリーだった。

 おお、なんと美しい姿。

 ヴァルキリーを従える主は滅多にお目にかかれないので、こうして目の前で見れるのは貴重だ。

 あまりに俺が見惚れていたのか、ヴァルキリーがふとこちらに視線を向ける。

 うおぉぉ……美しいぃ……。なんか声かけておいたほうがいいよな。

 まるで街中で好きなアイドルに出会ったかのような晴れやかな気分。

「なんだこのパッとしない顔をした猿は。とっとと失せな」

「え……」

 しかしお美しいヴァルキリー様が俺に対して発した第一声は、なんとその端正な顔には似つかわしくない罵倒の言葉だった。

 え? え?

 天使の微笑みで「ご機嫌麗しゅう。あなたのお名前はなんて?」と透き通るような声音で仰るのを期待していたが、それよりも540度くらい違う対応に言葉を失う。

「テーラー、そんなひどいこと言わないでよ。たしかに、顔はパッとしないし、魔術はあまり使えないけど優しい人だから」

「うぐッ……」

 たぶん本人はフォローしてるつもりなんだろうけど、俺の精神ゲージは刻々と削られてるぞ。てか「魔術はあまり使えないけど」っていらなかったよね?!

 テーラーと呼ばれているヴァルキリーはフレリアに向き合い、姿勢を正す。

「マスター。申し訳ありません。この猿めがマスターに獰猛で野蛮な視線を送っていたもので」

「送ってねぇわ!」

 ていうか猿呼ばわりするな!

 けれどもテーラーは応じる様子はなく、ただ静かにフレリアの指示を待っている。

「ジン、ごめん。彼女は極度の男嫌いらしくて」

 見るに見かねたフレリアが弁明したが、男嫌いではもうどうしようもない。

 もう嫌だわ。なんでこんな仕打ちをされなきゃいけないんだ。

「ちょっと、早く開始の合図してくれない?」

 そこで空気を読まず俺に判者を続行させて進行を促すラミュエル。

 もう、どうにでもなれ。

「決闘~。はじめ」

 気だるく開始を宣言。

 すると、テーラーとラミュエルが同時に走り寄り相対した。

 テーラーはあの重いはずの長剣を素早く振り、踊るかのような身軽なステップで次々と鋭い攻撃を繰り出していく。しかしラミュエルは笑みを浮かべて余裕な顔つきですべて見切り、遊んでいるかのように軽やかに避けている。

 化け物じみてるのは魔術の能力と胸のなさだけじゃなかったのか。

「キャハハ、ヴァルキリー自慢の剣技はこんなものとはね。笑えるわ」

「くッ……ほざけッ!」

 ところどころで挑発し、テーラーを煽るラミュエル。

 テーラーはそれにまんまと引っ掛かり、次第に攻撃が力任せで単調になってきている。

 完全に相手の動きを掌握したと言えるだろう。

 それでもなお、ラミュエルは攻撃を避け続けいていた。

 ん? あいつ全く攻撃する気配が感じられないぞ。

「私をなめているのか?! なぜ攻撃をしない!」

 一向に攻撃しないラミュエルにテーラーがしびれを切らして、剣を振り続けながら鬼のような形相で怒声を発するものの、ラミュエルは全く応じず黙々とかわし続ける。

「貴様ぁッ……」

 その反応にとうとうテーラーの堪忍袋の緒が切れ、目をカッと見開いてがむしゃらに振り始めた。

 ラミュエルは相変わらず華麗に避けているが。

 にしても本当に激しい戦闘だ。

 がむしゃらで単調でも剣さばきが見えないほどに素早く、どんな風に攻撃を繰り出しているかが俺からは分からないのに、ラミュエルはそれを正確に冷静に対処しているのだ。

 さすがどちらも超人、というか人間ではないだけある。

「このままじゃだめね……」

 この状況をいぶかしげに見つめるフレリア。

 おそらくテーラーだけでもいけると踏んでいたのだが、ラミュエルの高い身体能力と鋭い戦闘感覚に驚きを隠せないようす。

 ラミュエルは魔物とは言っても、かなりずば抜けている。初見でこれならテーラーもよくやってるほうだとは思うな。口が直ればなおさらいいんだけど。

 そして、フレリアが息を深く吸い始め――。

「雷神の名に於いてこの力を行使する! 闇を切り裂く一筋の白き閃電よ。ここに顕現し、我の行く手を阻む者に打ち掛かれ!」

 歯切れのいい発音で呪文を唱えた。

 うお、中等雷撃魔術の『白雷(はくらい)』じゃないか。いきなり本気か?

 フレリアが手の平を前に突き出すのと同時にテーラーが大きく横に避ける。

 ラミュエルはというと、いままでずっと含み笑いだったがここにきて一層気味悪い笑みを浮かべた。

「かかった!」

 と叫び、ノートバックから魔法陣を取り出し、フレリアの手から放たれた白い一閃を雷の魔術壁で防ぐ。

 かなり無難な対応だ。

「え……嘘……」

 しかしフレリアは相当のショックを受けたようで、その場にヘタリと座り込み、テーラーもその場で固まってしまった。

 魔族は魔術が使えないはずなのに、魔族であるラミュエルが魔術を使っているんだから無理もない。俺もなんであいつが扱えるかはわからないが。

「ハッ。どうやら一番初めにあんたに会ったときに私が炎の魔術壁を展開してたなんて考えもしなかったのね。ていうか、これから放つ魔術をおおっぴろにする呪文なんか唱えてちゃ、話にならないわ。どうぞ防いでくださいって言ってるようなもんじゃない」

 勝利を確信したのか、ない胸を張り高らかに説教を垂れている。

 だからない胸を張るのはやめろよ、なんか惨めだから。

 俺はとても今言えないツッコミを心のうちでひそかに漏らしていた。

 それでもフレリアは押し黙っている。

「あんたがそこで座り込んでいるのは、きっとヴァルキリーだけで倒せるとおもった。だが、明らかに劣勢で一気にケリをつけようとして、自分が扱える中でも最上級の魔術を放ったけれども、私がそれを防いでもう打つ手がないから。残念だけど、すべて計算のうちだわ。あまりサキュバスをなめないことね」

 フッと鼻で笑い、紙を投げ捨てた。

「おい、ちといいすぎなんじゃねぇか?」

 あまりにもひどい言い様なので苦言を呈する。

 それに対して、ラミュエルは俺に侮蔑的な視線を送ってきた。

「なに言ってるの? 詰めが甘いのを分かりやすく教えてあげてるだけじゃない。ま、穢れをしらない生娘だからどうしても詰めが甘くなるものね」

 うわー、ひでぇ。

 従者の俺ですら引くレベル。

「……やめろ……」

 こんなに罵倒されても俯いたまま沈黙を守り続けるフレリアだが、テーラーは黙っていなかった。

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