表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

プロローグ

「では4月に会うことを楽しみしているぞ! 委員長、号令」

 中学2年の三学期、最終登校日のHRが終わった。

 担任は学級の名残惜しさを欠片も感じさせず、委員長に指示する。

「きりーつ!」

 号令がかかると、各々が立ち上がった。

 委員長は全員が立ったのを確認し、おなじみの台詞を吐く。

「礼ッ!」

「「「ありがとーございましたぁ!!!」」」

 ノリのいい男子生徒はここぞとばかりに声を張り上げた。瞬間的に言えば飛行機のエンジン音なんて目じゃないな、うん。

 そして、帰る人と教室の一角で談笑するグループに分かれる。

 ところで本日は終業式であり、もちろん午前中で終わる。

 だから、話題はもっぱら「これからゲーセン行かね?」「えー、ウチはカラオケがいいー!」「いや、ここは遊園地だろ。 富士Q行こうぜ!」とかである。あと、最後のは『これから』で行けるような距離じゃないよな?!

 それは俺も例外ではなく。

「おーい、神!」

「ん? どうした?」

 中1のときから親しくしているクラスメイトの洋吉が、男女数人と共にやって来た。

 人数的にやはり遊びに行く様子。

「これからカラオケ行こうと思ってるんだけどさ。神も来いよ!」

「お、いいねぇ」

 カラオケかぁ……。最近行ってないし、久しぶりに俺の歌唱力を見せ付けてやりますか!

 ということで洋吉の誘いに乗る。

「先に行っててくれ。 今日も神社いかねぇと」

「おう。 まだ声がけしてるから後で神社のほうに迎えに行くわ」

「まじか、助かる!」

 片手を上げて感謝してることを端的に伝え、神社に向かう。

 学校から徒歩5分のところにあり、あまり有名ではないが初詣や縁日などのときは相当賑わう地元に愛された神社だ。 俺はここに参拝するのを習慣としている。

 けれども一つだけ欠点があった。

 ……っと、着いた。

 目の前に広がる境内への階段。 50段はあるだろうか。

「毎度きついんだよなぁ……」

 と呟きながら階段を上る。

 結構昔からある神社なので、町開発のときにここ一帯は開発されずに残ったためにこのへんは小高い丘に森が広がる。

 そのため階段の段数は自然と多くなり、ご老体の方は行きにくくなっているのだ。

 まぁ、これが神社っぽいといえば神社っぽいが。

 無事に上り終わり、紅く塗られた立派な鳥居をくぐった。

 木々の合間からは街がミニチュアの如く見え、ここに住んでいるのかと実感できる。

 だからこの風景は好きだ。 このために習慣的に来ていると言っても過言じゃない。

 いつも通り拝殿に向かいながら御手洗を済ませ、お賽銭箱の前で立ち止まる。

 五円玉と……。

 財布から五円玉を取り出し、箱の上に置く。

 そして縄を引いて鈴を鳴らした。 カランコロンと心地よい音が響く。

 二拍手一礼に沿ってパンッパンッと手を合わせた後、深く礼をする。

 いつまでも健康でいられますように。

 ありきたりの願いを念じて、神社を後にしようとした。

「あら神ちゃんじゃない。 今日は早いねぇ」

 途中、いつもごひいきにしてくださっている管理人の方に会った。

 白髪交じりの頭に、いつもにこにこと愛想のいい笑顔を振りまいている。

「おばさん、こんにちは。 今日で学校は4月までないんですよ」

「へぇ~。 でも、学校がないのも辛くはないのかい?」

「毎回遊びに誘ってくる友人がいるから、退屈はしないですね」

 おばさんは「そうかい。 そうかい」と相槌を打ち、桜の枝を見る。そこには立派に太った無数の蕾。

「今年も桜が元気に咲きそうだねぇ」

「ええ。 花見は是非ここでしたいですね」

 そんな他愛のない話が、結構続いた。

 昔から不思議とお年寄りの方と話すのが得意なんだよな。もしかして介護士に向いているのかな?

「じゃ、わたしはこれで失礼するよ」

 と、おばさんが手を振りながらその場を離れていく。

「はい。 明日も来ますね」

 そう言い残して、俺も神社の入り口に向かうために歩き出した。

「――神ちゃん」

 踏み出した直後にいきなりおばさんが俺を呼び止める。

 ん? まだ何かあるのかな?

「どうかしましたか?」

 振り返りざまに質問した。

 おばさんは微笑んでいる。

「毎日参拝してるから、いいことが絶対にあるはずだよ」

 と告げて、おばさんは再び背を向けて行ってしまう。

 不思議だよなぁ。 あのくらいの年の人に言われると本当に信じてしまいそうだよ。

「おばさん! ありがとう!」

 聞こえる様な大声で感謝を伝え、その場を後にした。

 う~ん、洋吉たちは来てるかな?

 鳥居の前まで来ると、案の定、下では洋吉たちと数人の男女が、今か今かと待っている。

 洋吉はこちらに気付いたのか大手を振った。

「早く来いよー!」

「ごめん! 今行く」

 洋吉の催促に大声で返して、階段を下りようとした。


 ガッ。


「え?」

 しかし、石段のほんの少しの隙間に足を取られた。

 そのままバランスを崩して前のめりに倒れてしまう。

 ――まずい!

 そう思ったのも束の間、結局階段を転げ落ちてしまった。




「ん……」

 強烈な日の光を受けて目が覚めた。 なぜか草むらの上で寝そべるような体勢でいる。

 なんでだろう。 たしか、階段から落ちて……そこから覚えていない。

 身体を見てみると痛々しいあざが点々とついていた。手足は動くから骨折はしてない様子。

 ともかく上体を起こして状況を確認する。

 そこには見たことがない動物、植物、街が広がっていた。

 おいおい……なんだよこれは。

 打ち所が悪くて寝ぼけているんだろうと思い込み、周りの風景を否定するかのように空を見上げた。

 ん? 飛んでいるのは……ドラゴン?! 嘘だろ?! 夢か?!

 試しに頬をつねったり、思いっきりグーパンチを決めたり、地面に頭突きしてみたりしたが、醒める気配がない。それどころか頭が冴えた気がする。

 そして、俺の脳は暫定的に答えを出した。


 俺は異世界に飛ばされたのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ