第8話:ディスカッション
結局、俺は沙紀さんと一緒に本部に帰還した。
そして本部に到着するなり、沙紀さんは会議室へと足早に向かっている。大祐は、その後を必死に着いていくことしか出来なかった。
今回の強盗犯達の要求については、この課に配属されたばかりの自分には、よく分らない。しかし、沙紀さんには心あたりがあるようで、どこか張り詰めた雰囲気を持っているような気がする。
(気のせいかもしれないけど。でも、いつもより眉間の皺が深い、多分)
そうこうしているうちに会議室に到着する。そして、入室するとそこには課長や皐月さんそして田丸さんがそろっていた。
「おかえり、二人とも。鈴木警部からは連絡は受けているよ。そのメモを見せてくれるかい?」
課長は、単刀直入に沙紀さんに話を切り出す。
そして、メモを受け取った課長は沙紀さんと同じく何やら深く考え込んでいる。
「よぉ! 新人! どうだった初現場は?」
田丸は、大祐の首根っこを腕でがっしりと掴むと聞いてきた。
「痛いですよ。……………とりあえず、現場の人間とこの課、とくに沙紀さんは相性があんまりよくないみたいかと」
「ああ、鈴木の親父さんだろ? 別にあの親父さんは俺らに対して敵対心は持ってないぜ。ていうか逆? 課長と仲が良くてあれでもさっちゃんのこと可愛がってんだぜ」
「そうなんですか?」
「ああ、だってさっちゃん、普段仕様で応対してただろ? 嫌いな相手ならもっと事務的に応対するからそんなに摩擦はないんだよ。表立っては」
田丸と大祐が話しているうちに課長は結論をだしたようだ。
「皆、席につきなさい」
大祐は慌てて近くの椅子に腰を下ろす。ちょうど正面には、沙紀さんと皐月さんが並んで座っていた。
(さっきよりは、落ち着いたかな。皐月さんのおかげ?)
「今回の事件だが、ただの銀行強盗とうは違うようだ。藤田君、現場はどうだった?」
「はい。問題の銀行ですが、銀行を包み込むような形で結界が張られているようです。何度か試しましたが、我々の力での侵入には時間がかかるかと。多分、強盗犯の中に能力者がおり結界を保持しているようです」
「そうか。田丸君、君の能力でも難しいかね?」
(田丸さんの能力?)
「確かに俺の空間跳躍を使えば、入れるでしょう。でも、あくまでビルに直接手が触れられればの話です。結界があるかぎり、無理です。結界に手を触れた時点で結界創製者に気付かれます」
「沙紀君でも無理かい?」
「結界創製者に気付かれずに侵入は出来るでしょうけど、その後が問題です。外から探ってみましたが、罠が張られているようです」
「罠かい?」
「はい。多分、幻覚の類いかと思われます。銀行内部がどうなっているかは、正直、入ってみなければ分りません。それより、要求を飲むふりをして交渉をする。それが一番被害が少なくてすみます」
「飲むふりねぇ? 一つ質問していいかしら?」
「何だい? 藤田君」
「課長とさっちゃんはどうやらあのメモについて知っているみたいですが、私達は、内容がまったく理解できないんですけど」
「それは………………」
皐月さんの問いに沙紀さんは、一度は何かを言おうとしたが何も言えずそのまま立ち上がり部屋の外へと出て行ってしまった。
皐月さんもそんな沙紀さんの態度がおかしく思えるのだろう、首を傾げている。
「そうだね、話しておいたほうがいいだろう。三人とも今から話す事は口外厳禁だ。もしやぶれば、どうなるかは保証できない」
いつにない課長の厳しい口調に、俺達三人は口をつぐみ頷くことしか出来なかった。
「このメモにある、子供達、三年前、真実をさらす。これらの言葉が示す事柄は一つしかない。それは、学園で起こった事件だ」
「学園ですか? それってさっちゃんの出身校のことですよね?」
「ああ、確かそこって能力に目覚めた子供達を教育する所だよな」
「そんな機関があるんですか?」
大祐は、二人の言葉に驚きを隠せなかった。
「俺達だって噂でしか知らない。でも、さっちゃんが学園から来たって話は聞いたことがある。そうですよね、課長?」
「そうだ。そしてその学園は、一期生が卒業して数ヵ月後、職員、生徒全員が殺害され全滅した」
思いがけない課長の言葉に大祐達は言葉を失う。
――――全滅? そんな事ってあるのか、普通。
特異能力者の存在を最近知ったばかりの大祐にとってそれは、信じがたいことだった。