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第7話:初出動

 ――――ピンポーン。


 部屋のチャイムの音が鳴り、大祐は目覚めた。

 枕元の時計を見るとちょうど昼前の時間である。けっきょく、あの後大祐が皐月から開放されたのは、早朝であった。フラフラと歩く大祐とは対照的に皐月の足取りは軽く、明るい声でまたねと告げて去って行った。


 (…………あんな酒豪と飲むのは、もう勘弁だ)


 そして、ふらつきながらもやっとのことで部屋に帰りつき、寝付いたのが数時間前のこと。今日は非番なので思い切り寝るつもりだったが、誰か訪ねてきたらしい。


 ――――ピンポーン。


 大祐が返事をしないので来客は、再度チャイムを鳴らしてきた。


 「…………はい。今、出ます」


 大祐は、フラフラとしながらも、何とか玄関までたどりつくとチェーンと鍵を外し扉を開ける。


 「はい、どちらさまですか…………」

 「いつまで寝てるの! 携帯の電源くらいちゃんと入れておきなさい!!」


 扉の外にいたのは、何と沙紀だった。

 いつものように叱責をされた大祐だが二日酔いのせいか頭がまだ正常に動かない。


 (沙紀さん? ………何でだ?)


 「……………お酒くさい」

 「あっ、すいません。朝まで皐月さんと飲んでまして………」

 「あぁ、魔の宴に出たのね。って、よく生きてるわね。あなた以外とお酒には強いの?」

 「いえ、あんまり。そこまで飲んだことはないので」

 「皐月ちゃんの飲みで最後まで意識が保ててるなら十分よ」

 「あの、ところで、沙紀さん。どうしたんですか?」

 「出動要請が出たの。あなたはまだ実践投入は出来ないけど、見学くらいはさせておこうと思って」

 「出動要請!!」

 「そうよ、分ったらさっさと着替えて下に降りてきなさい。置いてくわよ?」

 「はい!!」


 ズキーン、大祐は思わず上げた自分の大声が頭に響き思わずしゃがみこんでしまう。


 (痛い。これが世に言う二日酔いというものなのか!!)


 「どうする? 見学はやめておく?」


 沙紀は、低い声でうめく大祐を見下ろしながら問いかけてきた。


 (こんな状態で連れて行ってもしょうがないし)


 「いいえ、絶対行きます。下で待っててください」


 大祐はそう言うと着替えるべく部屋の奥へと駆けていった。


 「早くしなさいよ」


 そう言うと沙紀は、下に待たせてある車へと向かった。


 大祐は、とりあえず側にあったスーツに着替えると沙紀の元へと急いだ。

 そして、入口の前に止まった車の中に乗り込む。


 「お待たせしました」

 「早いわね。…………前から言おうと思ってたんだけど、うちの部署は基本的に服装は自由よ。動きやすければいいわ」

 「そうなんですか? じゃあ、明日からは、楽な服装に替えます。ところで出動要請って?」

 「ああ、新宿署からの要請よ。銀行強盗らしいわ」

 「銀行強盗!? 急がなくていいんですか?」

 「本来ならね。でも、新宿署の刑事が渋っていたらしくて、うちに出動要請するのを。だから、いいんじゃない?」

 「そんな!? だって一般人や行員の人たちがいるかもしれないでしょうが!」

 沙紀のあまりにものんきな答えに大祐はついカッとなり声を荒げる。

 そんな大祐をうるさそうに片手を振ってあしらいながら沙紀は言う。


 「あのね、出動要請を渋っているのはあちらなの。私に怒鳴らないでちょうだい。マニュアルにも書いてあったでしょ? 私達は、要請がなければ動かないし、動けないの」

 「…………すいません」

 「とにかく、現場についたら大人しく見学してなさい。いいわね?」

 「はい」

 

 現場につくとそこにはパトカーや警官、それにマスコミや野次馬であふれ返っていた。

 そんな人ごみを掻き分けながら沙紀は、警官が集まっている場所へとつき進む。大祐はおいていかれないように早足でその後を追った。


 「どうもご苦労様です。特異課より派遣されました、九重と大熊です」

 「おっ、来たな。お嬢ちゃん?」


 沙紀が挨拶するなり、どこか揶揄するような声を上げながら、大柄の男がよって来た。その男は、目付きがするどく叩き上げの刑事といった感じがする。


 「どうも。鈴木警部。ずいぶんとまぁ遅い出動要請ですね」

 「俺は、する必要はないって言ったんだがな。ただの銀行強盗にお嬢ちゃんたちを呼ぶ必要はないってな」


 ニヤリとどこか人を馬鹿にした笑みを浮かべながら鈴木警部は、後ろに見える銀行を指差した。


 「ただの銀行強盗ですか? それにしては手間取っているようですけど」

 「はっ! 俺は突入すればいいと言ったんだがな」

 「人質を取られましたね? 口程にもない」

 「ああん? お嬢ちゃん、何か言ったか?」

 「いいえ、別に」


 沙紀は、口元をニコリとさせ微笑んでいたが目は笑ってなんかいなかった。


 「お! 何だ、後ろにいるのは新人か?」

 「はい、大熊 大祐巡査であります」


 大祐は、警部に敬礼をする、それを見た警部はうんうんと頷きながら言った。


 「そうそう、そうやって挨拶するんだよ。警察官はな。お嬢ちゃんもその新人君を見習って目上の人間には敬いを持たないとな」

 「ふん。目上だからと言って敬える人間とはかぎりませんから」

 「沙紀さん!!」


 警部と沙紀間で一触即発の雰囲気が漂い始めたその時、強盗と交渉にあたっていた刑事が警部の元へと走って来た。


 (助かった)


 大祐は思わず安堵のため息をつく。

 配属されてから考えていたがやはり現場でも沙紀さんの言動や態度は変わらないらしい。

 これは、現場にはかなりの敵を作っているとみて間違いない、絶対に。まぁ、あの警部はどちらかというと沙紀をからかって遊んでいる節があるが。


 「要求は? あん? 何だこれ?」


 警部は部下が持っていたメモを取り上げると首を傾げていた。そのメモを警部の手からビッと奪いとると沙紀は目を通し始めた。


 「これは…………」


 そのメモを見た沙紀は、携帯を取り出すといくつかの場所に指示を出し、今度はスタスタと人だかりから離れ始めた。


 「おい、お嬢ちゃん! どこ行くんだよ!!」

 「現場はまかせます。私はこの犯人の要求について調べてきます」

 「沙紀さん! いいんですか?」


 沙紀は大祐にメモを渡すと車へと戻って行った。

 大祐は受け取ったメモに目を通す、そこにはこう書かれていた。


 『我々から奪いとった子供達を返せ。三年前に起こった事件の真実を白日の下へさらすのだ。我々、能力者にも人権は存在する』


あれー、何か予定してた筋書きから離れていくぞー。


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