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第3話:レクチャー

 課長が部屋を出て行った後、残された大祐はとてもあせっていた。


 (課長! この状況で置いていくんですか!?)


 そんなあわてふためく大祐をよそに沙紀は課長から渡された資料に目を通していた。


 (攻撃・防御ランクは………最低ランクのE。どうしようもないわね、感応能力はD。救いよう無し。……特記事項は…………ふうん。鍛えれば盾にはなるか)


 沙紀は、大祐の資料を最後まで目を通すと言った。


 「今日から、私があなたを鍛えるから。悪いけど、妥協は一切しないからそのつもりで。あなたの机はそこ。荷物を置いたら施設を案内するから。さっさとして」

 「はっ、はい」


 沙紀は、息をつがず最後まで言いきると大祐が荷物を片付けるのを待った。


 (いきなりしゃべりだしたかと思えば………。何なんだこの子は)


 大祐は、基本的に明るく真面目で情にも厚い。その為、昔から人には好かれてきた。どんなにひねくれた人間でも仲良くなれる自信もあったが、何故か目の前の少女だけはどう接すればいいのか見当もつかなかった。


 「準備完了しました」

 「そう、じゃあ行くわよ」


 沙紀はそう言うとスタスタとドアへと向かって行く。そんな彼女に対して大祐はあわててついて行くしかなかった。


 「二階は、本部とロッカールーム。後であなたの分の鍵渡すから。3階は、会議室と資料室。資料室はこれまでうちが扱った事件に対しての資料があるから暇があれば見るといいわ。次は下」


 沙紀は一気に説明するとまたスタスタと歩いて行く。


 (え? 資料室? ロッカールーム? こんがらがってきた………)


 大祐は、今聞いた説明を頭の中でぐるぐると考えながら沙紀を必死に追った。


 「一階は、備品室と受付。受付の中に入ると地下への入口があるの。ここは、カードと指紋と虹彩で認定するから。あなたの情報は入力済みよ。はい、カード。絶対無くさないで」


 沙紀は、ポケットから一枚のプラスチック片を手渡すと自分のカードをドアの入口に差込んで中へと入って行く。

 大祐もあわててカードを差込んで追った。


 (駄目だ、付いて行けない)


 大祐がドアを開き、階段を下りていく。そして再度ドアを開けるとそこには信じられない光景が広がっていた。


 (何だここ!! ありえない広さだろ!? 敷地面積に合ってないって!!)


 「この地下は、トレーニングルーム、武器庫、射撃場、仮眠室などがあるわ。追々使うようになったら把握できるでしょ。それから………」

 「ちょっと、ちょっと待ってください!! 質問があります!」


 大祐は思い切って沙紀の説明を遮り問い掛けた。


 「何?」


 (あっ、答えてくれるんだ)


 「質問があるならさっさとして」

 「あの、この地下ですが上のビルの敷地面積とどう見ても合わないのですが?」

 「ああ、この本部周辺の土地・建物は政府が買い上げてるの。だから、周りのビルには地下駐車場も無いし、施設もない」

 「他には?」

 「いえ」


 (何となく分ってきたぞ。付き合い方が。ぶっきらぼうだけど、基本的には、親切な子だ)


 「じゃあ、次は3階の会議室に行きましょう」


 沙紀はそう言うと元来た道を戻り始めた。

 大祐は、少し余裕が出てきたのか周囲に自分達以外の人間がいることに気付いた。その何人かは、沙紀と大祐を見ながらひそひそと話している。


 (あんまり、いい反応じゃないな。何だか悪意を感じる)


 「…………あいつが次のスケープゴートか」

 「鬼姫の生贄か。あいつ死ぬな」


 (何だよ、あいつら!!)


 大祐は思わず、その男達を睨みつける。


 「大熊 巡査行くわよ」

 「はい」


 (気付いてないわけ無いよな………………)


 沙紀の変わらない態度に大祐は思った。この少女はいつもあんな奴らの中で仕事しているのだろうかとそれならとても気の毒だ。

 大祐は周囲の悪意を物ともせず毅然とした態度を取る沙紀を尊敬の眼差しで見つめているとその視線に気付いたのか沙紀がクルリと後ろを振り返った。


 「何?言いたいことがあるなら完結にすばやく言って」

 「いえ、何でもありません」

 「ならいいけど」


 そう言うと沙紀はスタスタと会議室に向かって歩いていく。大祐は後を追いながら、この小さな自分の教育係の少女に対する認識がマイナスからプラスへ大幅に変換した。そして心なしかさっきより足取りが軽くなっているのだった。


 会議室に戻ると沙紀は大祐に座るようにうながし、1冊の本を手渡す。その本のタイトルは特異課捜査手引き書と書かれていた。


 「何ですかこれ?」

 「見ての通り手引き書。新人にはかならず渡すの。仕事の合間やプライベートな時間にでも読んで。今から質問を受け付ける、特異課について聞きたいことがあればどうぞ?」

 「はい。では、特異課の捜査はどういった物なのでしょうか?」

 「特異課は、各地区の警察署が捜査した事件で特異能力が使われた事件であると疑われたものを捜査するの。後は、緊急性が高いもの。特異能力者が立てこもりをしたとかね。だから、普段はあまり事件はないと言いたいけど、けっこう呼び出されるわ。そして、正式な警官はあなたを含めて三人。あなた以外は私と課長ね。他は事件によって呼び出される非常勤の捜査官。だから、他に仕事を持っている者も多い。まぁ、鍛錬を義務づけられているからその内地下で会うでしょう。他は?」

 「何故、特異課は出来たのでしょうか? 自分が東京に住んでいた時は無かったと教官から聞いております」

 「きっかけは地震だと聞いているわ。この地震を契機に特異能力者が現れ増大したらしいの。らしいと仮定形なのは科学班にも原因は特定出来ていないから」

 「こちらに来てから新聞で特異能力者達が起こした事件の記事を見ました。しかし、他の地域ではそれらしい事件は報道されておりません」

 「……………調べたの?」


  沙紀は、大祐の言葉に思わず面食らってしまった。


 (意外…………、案外化けるかもね)


 「あの………九重さん?」

 「ああ、何故他の地域では報道されていないかね。それは簡単な話、他の地域では特異能力者は発見されていないから、表向きは」

 「表向きですか?」

 「そう、東京にくらべれば出現率は圧倒的に低い。数年に一人とか二人じゃないかしら」

 「そんなに少ないんですか!?」

 「ええ、何故東京に集中するのか科学班も捜査中。で、他の地域で事件が表ざたにならない訳は、裏で某一族が暗躍しているから」

 「某一族?」

 「ええ、私も詳しいことは知らないけど、捜査で何度か会ったことがあるわ。はっきり言ってかなりいけ好かない連中よ。そいつらが言うには、東京は見捨てられた土地なんですって」

 「見捨てられた土地ですか?」

 「どういう意味かは知らないけど。………ところで呼び方だけど、沙紀でいいわ。一応、あなたはしばらく私のバディなんだから」

 「はい」

 「他に質問は?」

 「今のところはありません。また疑問点が出ればお聞きします」


 大祐がそう答えると沙紀はどこか満足そうに少し笑っていた。その笑顔はすぐ消えてしまったけれど、とても可愛らしい笑顔だった。

 しかし、その可愛らしい笑顔から一転鬼のような形相になるのは、午後の能力訓練の時間でのこと。その訓練で自分に地獄が訪れることなど大祐は夢にも思わないのであった。


少しばかり、話が前に進みました。しかし、大祐青年の受難はこれからです(笑)

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