表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/29

第2話:出会い



 真新しい警官の服装に包まれた時、大祐は、達成感に酔っていた。


 高校を卒業してから、今は亡き父親と同じ警察官になるべく警察大学へと進んだ。

 そしてそこでの課程を終えついに念願の警察官になったのである。


 「大熊 大祐巡査。本日をもって君を特異能力犯罪捜査課へと配属する」


 その言葉に大祐は耳を疑った。

 特異能力犯罪捜査課? 何だそれは? そんな部署は聞いたことがないし、配属はどこかの交番だと思っていたのだ。


 「ごほん。大熊巡査、聞いているのかね?」

 「失礼致しました。しかし、教官。一つ質問をよろしいでしょうか?」

 「何だね?」

 「その特異能力犯罪捜査課というのはいったいどういう課でしょうか? 私は聞いたことが

ないのですが…………」

 「そうだな、知らなくて当然だ。この課は一般社会には知られていない存在なのだ。少しばかり長くなるが説明しよう、そこの椅子にかけたまえ」


 大祐は教官に言われるまま、椅子へと座り「特異能力犯罪捜査課」、通称・特異課についての説明を受けることになったのである。


 そして、この辞令こそ今までの平穏な生活から一転して、嵐のように過酷な生活への地獄の乗り換え切符だった。



 そこはどこにでもある雑居ビルの群の中に建つ、ビルだった。

 築50年は経っているであろうビルで、建物自体はそう高くはなく見たところ三階立てのどこにでもあるようなビルだった。他のビルと違うのは入口に一歩入ってからでそこは広い吹き抜けの玄関ホールになっていて、その右手には管理人室、正面には階上へと結ぶ階段が目に付くどこか外見と中身がちぐはぐなビルだった。


 「ここだよな? …………でも入口に看板がないし…………」


 (ここが本当に警察署なのか?)


 確信が持てない大祐は入口で腕組みをし、深く考え込んでいた。その為、後ろから近付いてくる人物の存在に気付くのに遅れた。


 ドスッ!!


 大祐のちょうど腰のあたりに小さい衝撃があった。それと同時に若い少女の声が響く。


 「邪魔!! 入口でボーッと突っ立てるんじゃないわよ!」

 「しっ、失礼しました。お怪我はありません…………か?」


 大祐は、自分にぶつかってきた少女に謝罪しながら目線を移すと思わず言葉を失った。

 そこには、自分より遥かに小柄なとびきりの美少女が立っていたのだ。


 髪型は、腰まで届く長い黒髪にレイヤーをいれ赤と銀の組み紐で顔の両サイドの髪を束ねたもの。そしてその細い華奢な体を包むのは、薄い紅のシンプルなワンピース。


 「…………ちょっと。ねぇ? あなた、人の話を聞いてるの?」

 「きっ、聞いております」

 「私は邪魔だと言ったの。入るつもりがないなら入口からどいて」

 「はっ、はい!!」


 大祐は、その彼女の迫力に押されすぐに半分よろけながらその場を動いた。

 そんな大祐の横を彼女は颯爽とすり抜けて建物への中へと入って行く。


 それを見送りながら、大祐は、はっと気付いた。せっかくこのビルに入る人間に出会ったのだ、ここが本当に警察署なのか聞かないと………。


 「あっ、あのすいません!! 聞きたいことがあるんですけど……」


 急いでビルへ足を踏み入れ、階段を登り始めていた彼女を呼び止める。

 すると、大祐の声が聞こえたのか、彼女は途中で足を止め不機嫌そうな顔でこちらを向き、

まるで目下のものを見るような目でこちらを見てきた。


 「………何? 用があるのならさっさと言って」

 「この建物は、東京都警察本部分室・特異能力犯罪捜査課でいいのでしょうか?」

 「…………あなた、誰?」

 「私は本日付でここに配属されました。大熊 大祐巡査です」

 「ああ、確か新人が来るって言っていたわね。どうぞ、二階の部屋がそうよ」

 「はい、失礼します」


 彼女は、大祐の質問に答えるとさっさと上へと行ってしまった。彼女もここの刑事なのだろうか?それにしては、若すぎる気もする。しかし、とりあえず考えるのは後にして配属の挨拶へ行かなければ。


 大祐は、急いで彼女の後を追い二階へと階段を登って行った。そして、階段を登り右手の奥の扉を見ると確かにそこには、特異課と書かれたプレートが取り付けてあった。


 ゴクッ。


 緊張のせいか喉を鳴らした大祐は意を決し、扉をノックして部屋へと一歩足を踏み入れた。


 「本日よりお世話になります。大熊 大祐と申します」

 「ああ、大熊君だね? どうぞ」


 大祐は、自分に声を掛けた人物を探し部屋の奥へと目線を移した。声の主は、窓辺で植物に水を与えている穏やかそうな男性だった。


 「はっ、はい」


 男性は手に持っていたじょうろを近くのチェストへと置くと大祐へと手招きをした。

 大祐は急いで室内へ入り、その男性の元へと向かった。


 「はじめまして、大熊 大祐巡査だね? 私は、この特異課の課長を務める九重 礼一です」

 「本日付で特異課に配属となりました大熊 大祐巡査であります」

 「そんなに固くならないでくれないかな。ここは、特殊な課でね。ある意味常識が通用しない所なんだ。だから、柔軟に頭を軟らかくね」

 「はい!!」

 「この課は、政府直属だから警察と言っても他とは違う。その証拠に君以外の人員は、一般人だ。表向き、違う職業についている人間もいるから、追々紹介するとして………。まずは君の教育係を紹介しよう。沙紀くん?」

 「はい」


  大祐の後ろから突然声がした。


 (うわっ!?)


 「彼女は、九重 沙紀君。この課で唯一の常勤刑事。年は18歳と若いけれど、中学生の頃からここで働いているベテランさんだ。沙紀君、彼が大熊 大祐巡査。警察学校からの初めての採用者だ。よろしく、頼むね」


  紹介された少女は、先ほどの階段で出会った少女だった。


 (18歳!!俺より年下…………!?)


 「大熊 大祐巡査であります。よろしくご指導お願い致します」


 大祐は、腰を九十度曲げて目の前の少女・沙紀に挨拶をした。すると、沙紀はじっと大祐を見た後、鼻で笑う。


 「知ってる。さっき聞いた。課長、役にたつの? これ」


 (これ!? これって俺は物じゃねえ)


 「はーーーっ。沙紀君、失礼でしょ?」

 「だって、私が後ろに立ったのにも気付かないのよ。これで十分でしょ」


 (かっ、かわいくねー)


 「いいから、大熊君を頼むよ。これが彼のデータだ。彼は能力についての訓練を受けてないから、沙紀君そっちの世話も頼むね」

 「はっ? 訓練してないの? こんなの現場に出したって死ぬだけ…………」

 「だから、使い物になるまでお世話するのが教育係。よろしくね」


 課長は、そう言うと部屋を出て行ってしまった。

 そして後に残されたのは、この世の災難を一手に引き受けたかのように不機嫌な顔をした沙紀とどうすればいいのか分らない大祐だった。


 (俺は、今年は厄年なのか…………?)


やっと主人公登場です。

彼の災難な人生の始まりです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ランキング

HONなび
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ