終章
週末、沙紀さんは無事に退院した。
その日の夜は、課長や田丸さん、そして皐月さん達と夕飯を一緒にすることになった。
「今日は、どこで食事をするんですか?」
大祐は、沙紀に尋ねる。
「海里よ。あなたも一度行ってるでしょ?」
「ああ、あそこですか。ってことは、皐月さんが……………」
「大丈夫。課長がいるから。皐月ちゃんの相手はまかせればいい」
「そうなんですか?」
「うん。皐月ちゃんのお酒の相手をまともに出来るのは課長だけなの」
キンコーンカーンコーン。
そうこうしているうちに終業のチャイムが鳴る。
「それじゃあ、行くわよ」
「はい」
他のメンバーとは現地集合ということなので沙紀と大祐は二人で海里へと向かう。
海里の扉を開けると同時にパンという音と色とりどりの紙が舞った。
「ようこそ、特異課へ! 大熊大祐巡査!」
音の正体はクラッカーでそれは大祐の配属祝いをするものだった。
「え? え?」
「事件とかで伸び伸びになってたタロの配属祝いよ、今日は」
「ありがとうございます!!」
大祐は、感激のあまり涙が出そうになる。
「さあ、大祐君。こっちよ、こっち」
「今日は、お前のお祝いだから遠慮せず飲めよ。大祐」
皐月が大祐の腕を取り席へと導くと田丸がグラスを渡す。
「じゃあ、乾杯しようか。皆、グラスは持ってるかい?」
課長が乾杯の音頭をとる為にグラスが回っているか確認を取る。
「それでは、大熊君。君の特異課の配属を祝してかんぱーい」
「かんぱーい!」
そして宴は始まり、大祐はとても楽しい時間を過ごしていた。そんな宴も中盤にさしかかった頃、現れた人物に大祐は驚愕した。
「退院おめでとうございます。沙紀様」
そう言って現れたのは、杉浦氏だった。
「様はやめてよね。杉浦」
「いいえ、やめません。貴女は私の主のお嬢様ですから。これは退院祝いです」
杉浦の手にあったのはどんぶりサイズのプリンだった。
「プリン!! え、いいの? やったー」
沙紀さんは、嬉々としてプリンを受け取り食べ始める。
「やっぱり、杉浦のプリンはおいしい」
「ありがとうございます」
「あの、杉浦さんは何故ここに?」
大祐の疑問には田丸が答えてくれた。
「杉浦さんは更正の余地ありってことで海里で働きながら、政府からの仕事をするんだよ。俺と同じようにな」
「え? じゃあ、田丸さんも?」
「そういうこと」
田丸はニヤリと笑う。
大祐はハハハと笑うしかなかった。確かに、特異課は普通じゃない。
「さっちゃん、そんなにおいしいの?」
「うん。杉浦は、家の料理番だったの。よくプリンを作ってくれたの。ね?」
「はい。旦那様に叱られて落ち込んでいる沙紀様に作ってあげて欲しいと、奥様がおっしゃったので」
「へー、一口ちょうだい?」
「はい」
沙紀から一口もらった皐月は、とろけるような笑顔を浮かべ叫んだ。
「おいしー!!」
そして杉浦氏を交えて宴は朝まで続いた。
翌日、沙紀の復帰と共に大祐の訓練が再開された。
「じゃあ、行くわよ。タロ!成果を見せなさい」
「はい」
沙紀が合図を送ると剛速球が大祐の反対側から飛んでくる。
(壁をイメージ、壁をイメージと)
大祐の目の前に光の壁が築かれる。成功かと思ったその瞬間、壁は霧散する。
「げ!!」
ドスという音がし、球は大祐の腹部にジャストミートした。
その様を見ていた沙紀から、地をはうような恐ろしい声がする。
「タ―ロ―!!」
そして沙紀の周りにはいくつもの炎弾が浮かび上がる。その様はまるで鬼火がいくつも浮遊しているようだった。
(もしかして、これが沙紀さんのあの別名の由来……………)
痛みから立ち直った大祐に向かってその炎弾が飛んでくる。
「うわ!! すみません、沙紀さん。かんべんしてくださーい」
大祐は、その炎弾から逃げ回る。
「こないだより短くなってるじゃないよ!! かんべん出来るか!!」
そして、次々と炎弾が大祐に向かって襲い掛かっていく。
「ギャ――――――――――!!」
そして今日もまた大祐の叫び声がこだまするのであった。
とりあえず第一幕終了です。続きをチョコチョコと書けるように頑張ります。
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次は、特異課と同じ世界の話を書きたいと思います。
某一族の話です。
よかったら、読んでください。