第27話:戻った日常
あれから一週間がたった。
あの日、沙紀はそのまま入院、他の三人は事後処理やら次の任務やらでバタバタと過ごしていた。
そして、教育係が入院してしまった大祐はというと報告書やなんやらの事務作業を課長に教えてもらいつつ、入院した沙紀の所に度々顔を出す日々だ。
この日も大祐は沙紀に頼まれたあるものと課長から預かった封筒を持って病室を訪れていた。
コンコン。
「沙紀さん、大熊です。入ります」
「どうぞ」
返事を確認して大祐は病室へと入る。
病室には暇を持て余した沙紀がベッドの上で読書をしていた。
「調子はどうですか?」
「もうばっちり。今週末には退院よ。で、頼んでものは?」
沙紀は、ものすごく期待を込めた目を大祐に向ける。待ちきれないとばかりに。
「はい、買ってきました。『花』のプリンです」
そう言って大祐は、手にしていたケーキ屋の箱を手渡す。
「やったー、プリン、プリン」
沙紀は、箱を開けて中身を確認すると嬉しそうな声をあげる。
その姿は、同年代の少女達と変わらない姿で微笑ましい。
『花』とは、特異課の近所にあるケーキ屋で、そこのプリンは若い女性の間で人気があるらしく、沙紀さんも大好物らしい。
というか、プリンが大好物らしい。課長曰く、「沙紀君は三度の食事よりプリンが大好きなんだよ」だそうである。
「それと、これ。課長から預かって来ました」
大祐は、ベッドの横の椅子に座ると沙紀に持ってきた封筒を手渡す。
「課長から?」
沙紀はプリンを横にどけると封筒を開き、中から数枚の書類を取り出す。
ざっと、書類に目を通すと、沙紀は再びプリンに手を伸ばした。
「何だったんですか?」
「杉浦の裁判結果」
「えっ!? 早くないですか? だってあれからまだ一週間ですよ」
「タロ。手引き書、ちゃんと読んでる?」
「…………半分くらいまで」
「…………仕方ないわね、後で読みなさいよ。特異能力者は、この国の世間一般には知られていない。東京以外の場所ではね。それは覚えてる?」
「はい」
「ということは特異能力を使用した犯罪に対する明確な法律はないの。だから、裁判も秘密裏に行われるものだし、判決が出るのも早い。それに捕まった人間には二つの道しかない」
「二つですか?」
「一つは、更正の見込みが高い者が政府の監視を受けながら暮らしその力を政府のために使う。後は、見込みが無い者または更正を促すと決めた者は特殊な施設に収監される。つまり、普通の犯罪者が刑務所に入るのと一緒。前者は、軽微な罪を犯した者やその力を第三者に悪用された場合かしらね」
「杉浦さんは?」
大祐のどこか張り詰めた表情に沙紀は、驚く。
「なんで、あなたがそこまで必死になるわけ?」
「だって、あの人は沙紀さんの昔を知る人でしょ? それに罪を犯した理由が理由ですし。沙紀さんだって心配でしょ?」
「………………もちろんそうだけど。私は刑事として銀行に立てこもるなんて大事件を犯した人間をはいそうですかって許すわけにはいかないの。だから、裁判に提出する書類には真実だけを記した。まぁ、後は裁判官の手に委ねるしかなかったしね」
「確かに刑事としては、沙紀さんの言った通りにしなくてはいけないと思います。けど人としての感情は違うんです、今回は」
「…………………杉浦は、政府の監視の元暮らすことになったわ。今はその更正を手助けする人物の元に身をよせているそうよ。納得した?」
「はい」
大祐が頷くのを見て、沙紀は思った。
(うーん、人情がある上、少し熱血気味? でも、これからは一癖も二癖もある犯罪者達とも遭遇するだろし、この調子で無事に一人前になれるのかしら?)
まぁ、心配してもしょうがないと沙紀は、大祐の持ってきたプリンを食べることにした。
その姿を見ている大祐に沙紀は、箱に残っているプリンを一つ手に取り聞く。
「食べる?」
大祐は、一瞬ポカンとしながらもその美味しそうなプリンを見て返事をした。
「いただきます」