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第24話:邂逅

 自分の頭を撫でる優しい手の温もりを感じた。

 目を開けるとそこには、自分の顔を覗き込み嬉しそうに目を細める女性がいる。

 年の頃は、20代後半で腰まで伸ばした黒髪と目じりに小さな黒子のあるどこか妖艶な美女だった。


 「おや、お目覚めかい?」

 「あなたは………………誰?」

 「つれないねぇ、小姫はちょっと会わないうちにずいぶんと薄情になったじゃないか」

 「小姫? 誰それ?」


 沙紀は、床に横たえていた体を起こす。そして、気付いた。どうも、自分はこの女性の膝を枕にしていたらしい。


 (…………………誰? 分らないけど、どこかなつかしい)


 じっと自分の事を見つめる沙紀の目に戸惑いの表情を見て取り、その女性はそれまでの楽しげな表情から一転してとても悲しげで淋しそうな顔をしている。


 「可哀想な、小姫。こんなに心に傷をつけて、我らが守れなかったばかりにかようなめに合わせてしまった」

 「可哀想と言われてもあまりピンとこないわ。正直、皆が私を可哀想だと同情するけど、記憶がないせいか自分ではそれ程可哀想だと思わない」

 「記憶がないからとそう言って己を納得させる姿は、十分可哀想だと思うが?」

 「確かにね、家族の写真や自分の本当の名前を聞かされたところで何とも思わない自分には自分でも問題ありかなとは思うのよ。でも、私は一人ではないもの」

 「そう、それだけが救いだった。あの九重という男は信に足りる男だったからな」

 「あなたはパパさんを知っているの?」

 「ああ、知っているとも。小姫が生まれる前まで我らの主だった小姫の父の親友だからな。本人は知らないだろうが、我らはいつも見ておったさ」

 「我ら?」

 「ふふふっ。そうだったな、小姫は記憶がないのだったな。私の名前は『華炎かえん』、焔の一族に伝わりし宝刀に宿る火精さ。そして私の相棒があそこにいる『炎輝えんき』だ」


 華炎が指差した方に目を向けると柱に背をもたせたたずむ男性がいた。

 華炎と同じくらい長さの髪を一本にくくった切れ長な目をした180センチ以上はある長身の男だった。


 「………………そう言えばここ、どこ?」


 沙紀は首を傾げる。そして周りを見渡すとそこは平屋作りの和風の建物だった。


 「小姫はあいかわらずどこか暢気だな。ここは、我らが住まう異界。小姫は、意識を混濁した折、ここまで魂を飛ばしてきたんだ」


 炎輝は、溜息をつきしょうがない子だと首を振る。


 「そこが可愛いのではないか。でも、小姫が無意識でここまで来れたということは目覚めの時は近いのかもしれぬな」

 「そうだ!! 戻らないと」


 沙紀は、大分意識が戻って来たのか自分のおかれていた状況を思い出す。


 「ねぇ、どうやって帰ればいいの?」

 「小姫が帰りたいと願えば帰れるさ。あの門を通ればいい、帰る前に言っておきたいことがある」

 「何? 華炎さん?」

 「あの男を救ってやってくれぬか?あ奴はただ小姫を守りたかっただけ、自分の庇護下に置き今度こそ守りたかった、ただそれだけ。今は亡き主の忘れ形見を」

 「やれるだけのことはします。あの人は方法を間違えただけ。でも、救うっていうのとは違うかも。でも、ちちもははもあの人が大事だった、ううん、一族全ての人間が大事だった。だから、私は残された者としてするべきことをする」

 「良い子に育った。それにどうやら思いだしたようだな」


 炎輝の言葉に沙紀は笑う。


 「全てではないけれど」

 「今はそれで良い、必要な時に我らをお呼び」

 「ありがとう」


 沙紀は、2人にお辞儀をすると門に向かって一直線に走り出す。


 自分を待っている人々の所へ戻らなければ!

 私達の仕事は、人々の笑顔を守ること。それは親しい人々の笑顔も含む。故に私達は生きて戻らなければいけない。

 新人に教えた心構えを忘れるなんて教育係失格じゃない。


 沙紀は、自分を待ってくれている人々の笑顔を思い出しつつ走った。


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