第19話:侵入
沙紀の合図とともに大祐達はビルへとダッシュする。
その間にも後方支援の班から情報が回されてくる。
「九重刑事あと、5メートル程で結界発生予測地点に到達です」
「やべっ。お前ら急げ!!」
「急いでるわよ!!」
「急いでます!!」
三人は息も絶え絶えになりながらも、走りぬける。
そして田丸が一番に辿り着き、空間跳躍の準備を始める。
空間跳躍―簡単に言えば、テレポーテーションと呼ばれるものだ。しかし、それは個人が跳ぶもの。田丸の場合、対象物に触れることにより扉を作成し、他人をも跳躍させることが可能なとても貴重な能力である。
「はっ!!」
田丸は片手を壁につき能力を発動させる。その手から光の粒子が創製され、その粒子が扉を作成する。
それを目のあたりにした大祐は、感嘆のためいきをつき、その光景に見入っていた。
そんな大祐を田丸は、拳で頭を殴りつける。
――――ガン!!
「いってー。ひどいっすよ、田丸さん」
「いいから、とっとと入りやがれ!」
田丸は大祐を蹴り飛ばし、無理やり扉に押し込む。
「姐さん! 早く!」
「分ってるわよ!」
何とか辿りついた皐月の手を田丸は掴み、その体を自分に引き寄せ急いで扉に滑り込んだ。
飛び込んだというのが正しかったようで、その勢いで先に入った大祐を押し潰す。
――――ドシン!
「おーい、生きてるか新人?」
「……………………何とか。すいません、早く上からどいて下さい」
「だってよ、姐さん?」
「ごめんなさいね、大祐君」
そう言って皐月は、そそくさと大祐と田丸の上から体をどけた。それに続き、田丸もその上からどく。
「まぁ、何とかすべりこみセーフってやつか」
「そうね、でもこれからが本番って感じかしらね」
「別に普通の建物って感じですけど………………」
そんな大祐の言葉が気に食わなかった皐月は、にっこり笑いながら大祐の両頬を思い切りつかんでのばす。
「いっ、いひゃい」
「よーく周りを見てごらんなさい? どう考えてもこの空間と元々の銀行の設計図が合わないでしょ?」
皐月は、最後に思い切り引っ張りつまんでいた頬を離す。
大祐は、頬をさすりながらもう一度周囲の状況確認を行う。
そして、目を疑った。
大祐達の目の前に広がっていたのは、広い部屋だった。部屋としては作りは簡単だろう、ただ本当に広く尚且つ、壁にはにはいくつもの扉がある。
「何じゃこりゃ? 姐さん、もしかしてこれ選択間違えばどうなると思う?」
「うーん、その先々でトラップが待ち受けてるんじゃないかしら?」
「例えば?」
「さぁ?それはこの困った空間の作り主のユーモア次第かしら?」
「はははっ。………………笑えねー冗談」
田丸の乾いた笑いが響く。
「でも、まぁさっちゃんが待っているもの。指示通り、迅速に辿り着かなきゃね?」
「……………了解」
田丸と大祐は、何とか了承の意を伝える。
(それにしても、俺は役にたてるんですか?沙紀さん……………)
大祐は、一人隠れて溜息をつくしかなかった。