第18話:ミッション・スタート
駐車場へのドアを開けると、そこには一台の黒のワゴン車が止まっていた。
後部座席のドアを開けるとそこは対面式になった座席があり、奥の席には大祐達と同じ装備に身を固めた沙紀と皐月の姿がある。
大祐と田丸が席に着くと車は、走り出した。
「今回の作戦について説明するわ」
沙紀は、早速用件を切り出した。緊張が混ざったような表情をしている大祐とは違い、沙紀はいつも通りの冷静な表情を浮かべている。
「まず、私が中へと向かう。犯人との交渉は警部が済ましてくれている。現場に着き次第、私は建物の中へと入ります」
「ちょっと待った、さっちゃん。そうなると俺らはどうなるわけ? 俺の能力じゃあ、建物に直接触れなきゃ入れないぜ」
「もちろん。触れてもらいます、私が入る時に結界は無くなるでしょう。その間に三人は建物の裏手へダッシュ。そして再び、結界が築かれる前に田丸の能力で侵入」
「かなり、ハードそうね」
皐月は、げんなりとした口調で呟く。
「侵入後、各自で遮断結界を創製。そして犯人達に気付かれないように、犯人達が居るであろう行内に侵入し、その場で待機」
「あの………………こんな時に申し訳ないのですが、遮断結界とは?」
勇気を出して質問をした大祐を見て、田丸は悪かったと謝りながら教えてくれた。
「遮断結界っていうのは、シールドを自分の体に密着させるように張る。そうすると自分達の気配が能力者達に伝わらない。まぁ、自分よりレベルの高い奴だったら丸分りだけどな」
「もちろん、新人君は張れないでしょうから私が二人分張ります。その代わり、あなたは盾になってね? 私の」
皐月ににっこりと笑顔を向けられ、大祐は神妙な面持ちで了解の意を伝えた。
「了解です」
「問題は、行内にあるトラップ。多分、中は迷路のようになっていて様々な仕掛けがあると予測されます。だから十分に気をつけて、なおかつ迅速に私がいる場所に辿り着くこと」
「了解!」
三人は、即答する。
そんな三人を見て沙紀は、笑う。
「大丈夫。この面子なら十分任務に対応出来るわ」
「ええ、もちろんよ。だから、さっちゃんも約束してちょうだい私達が着くまで決して無理しないで。一人でつっこむような真似はしないこと、いい?」
「うん。ちゃんと待ってる。…………大熊、私と訓練した内容を忘れないこと。それとこの作戦、あなたに懸かってる部分もあるってこと忘れないで。あと、皐月ちゃんに怪我させたらただじゃおかないわよ」
通常より声を低くして念押しをした最後の一言は、絶対守らなければ後が怖いと大祐は思った。
(うぉー、気合だ、気合。びびるな、俺!)
大祐は、懸命に自己暗示をかける。
そして大祐が両手の拳を固く結び、気合を入れたその時、車が止まった。
現場に到着したのだ。
車を降りると沙紀は、表へそして三人は建物の裏側へと向かった。
そして、沙紀からの合図を待っていた時、インカムから声がした。
「大熊」
「はっ、はい」
大祐の上ずった声に沙紀は苦笑しつつ、続ける。
「落ち着きなさい。あなたはちゃんと訓練を受けた警官なの。素人とは違うのだから大丈夫。あとは私が言ったことを忘れないで。迷わないこと、そしてかならず無事で帰るということを」
沙紀からの思いがけない激励に大祐は、逆に今まで浮ついていた心がスーッと落ち着いてくるのが分る。
「了解です。沙紀さんもですよ?」
「ふっ、当然」
沙紀の自信満々な声に大祐は、笑みがこぼれる。
「お二人さん。そろそろいいかしら?」
皐月のどこかからかいを含んだ声に、沙紀は少しばかりムッとしたがリーダーとして確認をする。
「準備はいい?」
「もちろん」
皐月が代表して答えを返す。
「じゃあ、五秒後にスタートということで。5・4・3・2・1、Go!」
そして大祐にとって初ミッションの始まりのゴングが鳴らされた。