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第11話:訓示

 沙紀は、本部へと戻ると課長の元へ一直線に向かった。


 「課長。分りましたか?」

 「ああ、さっき報告が来たよ。犯人はあの人達の中にいるだろう、予想はしていたけれどけっこうくるものがある」

 「そうですか。…………………はずれて欲しかった」


 沙紀は、ポツリと呟くと大祐に命じる。


 「銃の装備を認めるわ。いざという時は使いなさい、ためらわないでね」

 「了解です」


 大祐は、そう答えるとロッカーに自分の装備を取りに行った。


 (使わないですむといい。いや、使わないですむようにしなければ!!)


 大祐は、上着を脱ぎホルスターを取り付け、銃をいれる。そして上着を着ると自分の両頬を思い切りバシッと叩き自らに気合をいれた。


 大祐が部屋に戻ると沙紀も動きやすい白のワイシャツに紺のジャケット、それにジーンズにスニーカーといういでたちに変化していた。唯一変わらないのがポニーテールにした髪に飾られた赤と銀の組紐だった。


 「大熊、あなた運転は出来る?」

 「はい、出来ます」

 「じゃあ、これ」


 そう言って手渡されたのは、車のキーだった。


 「行くわよ」

 「はっ? あー、待ってください」


 いつものようにスタスタと歩いて行く沙紀を大祐は追う。そして追いながら沙紀に問いかける。


 「どこに行くんですか?」

 「特異研」

 「特異研?」


 大祐は、これまた知らない単語に思わず聞き返す。


 「特異能力研究所。つまり、特異能力について調査している所。そこには政府が調べた特異能力者達のデータもある。つまり、学園の生徒達の情報も」


 地下に下りると奥のドアに向かい進む。見慣れぬドアを開けるとそこは駐車場だった。


 「あの黒の車」

 「はい」


 大祐は運転席に回るとキーを使いロックを解除する。そして二人は車に乗り込む。


 「で、特異研の住所は?」


 大祐はナビの画面を操作しながら沙紀に尋ねる。

 沙紀が言った住所を聞いて大祐は面食らってしまう。


 (まじですか!? そんな………………)


 「早く、行くわよ」


 沙紀はあいかわらずのマイペースで大祐を促す。

 大祐は、何とか衝撃から回復し、車を走らせた。

 道中、大祐は沙紀にこれからの方針などを聞くことにした。


 「課長と沙紀さんは犯人が分っているみたいですけど誰ですか?」

 「分っているというか予想はついていたわ、あのメモを見て」

 「子供達をってことは、やっぱり生徒の親ですよね」

 「そう、能力に目覚めた子供達を変わらず愛し続けた親達。3年前、政府は事件を山火事と発表した。大半の親達は納得していた、というより肩の荷が降りたのかしらね。でも、一部の親達は納得しなかった」

 「当たり前じゃないですか!! 自分の子供ですよ!!」

 「あなた、私の言ったこともう忘れたの? まぁ、一般的な親なら納得しないでしょ。そういう親達が集まって確か真相究明を求める団体を設立したらしいわ」

 「すいません。つまり、真実を白日の下へさらせというのがその要求ですよね。あと子供らを返せというのは? だって全員亡くなったんですよね?」

 「亡くなったわ。多分、返せというのは遺骨だわ」

 「遺骨ですか?」

 「そう、特異能力の研究という大義名分を作り政府は返還しなかったの。遺体を」

 「研究って!?」

 「解剖とかその他色々じゃない? 特異課の人間は捜査で殉職すれば遺体はそうなるのよ、あなたもね。配属前に色々サインしたはずよ」

 「…………本気ですか? 俺、バタバタしてあんまり書類に目を通さなかったんですよ」

 「馬鹿ね。でも、これから出現するであろう能力者達の為になるなら私はいいわ」


 沙紀は、そう言うと沈黙した。

 大祐は運転しながら思った。もし、自分が死んでそうなったら自分の残された家族は今回の犯人達のように求めてくれるだろうか。

 何より、犯人というが元をただせば彼らも被害者なのかもしれない。大事な家族を突然亡くした彼ら。

 何だかやりきれない。

 自分は警察官であり、事件を起こした彼らを逮捕するべき立場だ。それは分るけれど本当に逮捕出来るだろうか。


 そんな大祐の迷いを見てとった沙紀は、一点を見つめながら真剣な声音で諭す。


 「大熊、私達は警官なの。犯罪を犯した人間は逮捕しなければならない、例え事件を起こしたきっかけがなんであれね。何より、私達は一般市民を守らなければいけないの。特異能力者からね、それが同じ能力者としてするべき事だと思うの」

 「沙紀さん」

 「だから迷っては駄目。その迷いがあなたの命を取ることになりかねない。それに私達は、人として一番に考え、すべきことがある。それは身近で親しい人々の笑顔を守ること。分るわね? 安易に命を落としても駄目なの。だから、迷わないで」

 「はい」


 沙紀は、最後にもう一度大祐に忠告した。

 大祐は、沙紀の言葉を心に刻みつけた、そう自分達の仕事は一般市民の生活を守ることなのだ。なおかつ自分の身近な人々の笑顔も守ることを考えなければいけない。つまり、簡単に殉職するような状況におちいってはいけない。


 ――――だから、迷うな!絶対に。


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