第9話:学園
特異課捜査報告書 No.15 学園における大量殺人事件 報告者:九重 沙紀
2052年10月20日
学園にて大量殺人事件が発生。被害者達の死因は、刃物による刺殺。犯人は殺害後、学園に火を放ち証拠を隠滅。
現場の状況から外部からの侵入者による犯行と推察される。
すぐに捜査本部が立ち上げられ捜査するも、加害者が特異能力者の可能性があり、特異課に捜査命令が下る。
捜査一課と共同で捜査するも犯人逮捕には至らなかった。現在も未解決のままである。
<学園について>
政府が秘密裏に作った特異能力者たちの為の学園。表向きは一般の学校と変わらない。
入学を許可されるのは、能力者の子供達。その年齢は、下が小学生から上は大学までとかなりの幅がある。
学園を作った目的は、特異能力を犯罪に使用する者たちを無くす為であり、将来的には国の為に働かせるのが最終目標。
事件後、再建を目指すも結局頓挫したままである。理由は、能力者の大幅な人口拡大と能力による犯罪への法整備等が遅れているためだ。
大祐は、ファイルを一通り読み終わると同時に大きな溜息をついた。今回の事件の捜査の為に課長から目を通すようにコピーがくばられたが、読了後の後味の悪さにどうしても溜息が出るのだ。
それは、田丸や皐月も同じようで顔を上げ互いに目が合うと、肩を竦めたり、頭を振ったりとそれぞれ似たような反応を返してきた。
「これ、さっちゃんが作ったんだろ?」
「つらかったでしょうね。自分の後輩達がこんな目に合って」
そう言うと二人とも口を閉ざしてしまう。そんな二人に課長もやりきれない表情を浮かべながら言った。
「そうだね。学園については口外禁止だったから、どうしても捜査にあたる人間が限られてしまったんだ。表向きは普通の学校だったから。ニュースでは、山火事ということになっている」
(沙紀さん、つらかっただろうな。自分の後輩達が全員亡くなるなんて)
「とにかく、今回はこの件が事件の鍵だと思う。多分、亡くなった生徒の関係者だろう。科学班が、内部の監視カメラの映像を分析しているから、それが済み次第捜査を開始する。それまで各々準備しておくように」
「了解しました」
田丸と皐月は敬礼すると部屋から出て行く。そして部屋に残されたのは大祐一人だった。
「あの、課長。俺はどうしたら………」
「ああ、大祐君。そうだね、君は沙紀君のサポートをお願いするよ」
「サポートですか?」
「そう。多分、この事件では沙紀君に冷静な判断が下せない場面も出てくるだろう。その時、側にいてあげて欲しい」
課長は、そう言い残すと部屋から出て行ってしまった。
(……………俺にそんな大役が出来るんだろうか? でも、今しなきゃいけないことは)
大祐は、何か思い立ったらしく勢い良く飛び出した。そして、沙紀を探すべく廊下を走る。
――――こんな時、一人にしてはいけない。何か出来る訳でもないけどただ黙って側にいることは出来る。人は弱った時、大きな孤独に襲われる。孤独が絶望に変化してしまう場合もある。そんな時、救いになるのは人の暖かい心だと思うから。
階段まで来ると大祐は迷った。
(上か下か、どっちだ?)
そう考えた時、瞬間的に屋上だと思った。確信はないけど、自分の勘がそう言っている。大祐は屋上へと続く階段をダッシュで昇りきる。そして、呼吸を整えるとドアを開けた。