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契約履行

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/10/22

 

 召喚されたのは随分前だ。

 今時、悪魔召喚など珍しい。

 私は召喚者を前にして問う。


「何を望む?」


 叶える願いに限界はない。

 仮にも私は大悪魔。

 世界さえも欲しいと言うならくれてやろう。


「しかし、これは悪魔の契約。代償はお前の魂だ」


 さて、今度の召喚者は何を望む?

 そう思い見つめていると。


「は?」


 願われたものに困惑する。


「愛してほしい?」


 召喚者はまだ幼い少女だった。

 聞いてもいない身の上話によれば、両親を知らない捨て子だという。

 身体を売りながらどうにか暮らしていたが、最早限界となった死の間際、偶然にも私を召喚する術を知ったらしい。


 欠伸の出るような話だ。

 世界で彼女と同じくらい、もしくはそれ以上に不幸な人間など履いて捨てるほど居る。

 だが、私は大悪魔。


「叶えよう。お前の魂と引き換えに」



 *



 束の間の数十年。

 私は心から彼女を愛したし、彼女の心を満たし続けた。

 彼女が笑うことが私の幸せだ。

 そう、自らに言い聞かせた数十年。


 私は大悪魔。

 契約は必ず履行する。

 愛されることを望むなら、誰よりも愛するのが契約なのだから。

 ――そして、召喚者の生が終われば魂を奪うのもまた契約だった。


「なに?」


 時々問われることがある。

 絆されることはなかったのかと。


「馬鹿な。私は大悪魔だぞ。絆されることなどあるはずもない」


 事実だ。

 あの少女は随分と前に死に、その魂ももう私の手の内だ。

 契約は履行されたのだ。

 馬鹿な質問をしてきた相手を軽く睨み、そして立ち上がる。


「そろそろ失礼する。家のペットが悲しがるのでな」


 そう。

 私は大悪魔。

 どこまでいっても関係は契約の中にしかない。


「おかえりなさい」


 住処に戻ると同時に出迎えてくる、滑稽に微笑む人間。

 あの契約で得た魂に私もまた微笑んだ。


「ただいま」

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