契約履行
召喚されたのは随分前だ。
今時、悪魔召喚など珍しい。
私は召喚者を前にして問う。
「何を望む?」
叶える願いに限界はない。
仮にも私は大悪魔。
世界さえも欲しいと言うならくれてやろう。
「しかし、これは悪魔の契約。代償はお前の魂だ」
さて、今度の召喚者は何を望む?
そう思い見つめていると。
「は?」
願われたものに困惑する。
「愛してほしい?」
召喚者はまだ幼い少女だった。
聞いてもいない身の上話によれば、両親を知らない捨て子だという。
身体を売りながらどうにか暮らしていたが、最早限界となった死の間際、偶然にも私を召喚する術を知ったらしい。
欠伸の出るような話だ。
世界で彼女と同じくらい、もしくはそれ以上に不幸な人間など履いて捨てるほど居る。
だが、私は大悪魔。
「叶えよう。お前の魂と引き換えに」
*
束の間の数十年。
私は心から彼女を愛したし、彼女の心を満たし続けた。
彼女が笑うことが私の幸せだ。
そう、自らに言い聞かせた数十年。
私は大悪魔。
契約は必ず履行する。
愛されることを望むなら、誰よりも愛するのが契約なのだから。
――そして、召喚者の生が終われば魂を奪うのもまた契約だった。
「なに?」
時々問われることがある。
絆されることはなかったのかと。
「馬鹿な。私は大悪魔だぞ。絆されることなどあるはずもない」
事実だ。
あの少女は随分と前に死に、その魂ももう私の手の内だ。
契約は履行されたのだ。
馬鹿な質問をしてきた相手を軽く睨み、そして立ち上がる。
「そろそろ失礼する。家のペットが悲しがるのでな」
そう。
私は大悪魔。
どこまでいっても関係は契約の中にしかない。
「おかえりなさい」
住処に戻ると同時に出迎えてくる、滑稽に微笑む人間。
あの契約で得た魂に私もまた微笑んだ。
「ただいま」




