執着するのは愛の百合
わたしは普段、家から一歩も出ずに、だらけた生活を貪る女子高生。
学校には毎日通ってるけど、友達とも遊ばず、放課後と休日はゲーム三昧。
「……うぅ、もう朝か」
カーテンから差し込む光で、朝だと理解した。
今日オールナイトしてしまった。
くく、でも今日は日曜日だから大丈夫なのだ。
「とりあえず……寝よう」
わたしはカーテンをしっかり締め、布団を被る。
誰にも邪魔されないわたしだけの楽園。
早く眠り就こう……。
——ゴソゴソっ! ガサガサっ!
む?
なんの音だ?
外から何か怪しげな音が聞こえる。
こんな朝っぱらからなんなのだ?
まあ気にせず寝よう。
——ゴソゴソっ! ガサガサっ!
気にしない気にしない
——ゴソゴソっ! ガサガサっ!
気にしな……って、音が気になりすぎて寝れない!
意を決したわたしは、その正体を見に行くことに——。
「——ぐへっ!」
自分の部屋で頭から盛大に転んでしまう。
足元のゴミに足を取られてしまったのだ。
「誰だよ、こんな所にゴミを捨てたバカは!?」
自分で言っといてなんだが、それはわたしだ。
昨日、夜にゴミ捨て場にゴミを捨てに行って、綺麗にしたつもりだったが、まだまだゴミ部屋だ。
これは後でもう一度掃除する必要がある。
気を取り直して、わたしは音がする方へ向かっていく。
音の発信源はどうやら、家の外からしている。
家の外に出るなんて、わたしには勇気がいることだが、安眠を邪魔されたわたしの怒りは、それすら超えて突き動かす。
靴を履いて、家の外へ。
パジャマのままだが関係ない。
家の外に出ると、すぐに音の原因と対面した。
だがその光景はわたしの信じられないもので。
声を出すのも躊躇われる。
しかし尋ねずにはいられない。
なぜならそれは……。
「——あの……何をしてるんです……か? それって……わたしの捨てたゴミ……ですよね?」
そう、家の外には、昨日の夜、わたしがゴミ捨て場に捨てたゴミを、ゴミ捨て場で漁っている人物がいたのだ。
「——? あれれ? バレちゃったか……」
わたしに気づいたその人物は、悪びれもせずにこちらを向いた。
そしてわたしはその人物の顔を見ると、さらに衝撃が走った。
「っ……!? もしかして同じクラスの佐伯さん?」
「あはっ、私の名前、覚えててくれたんだ。 嬉しいなぁ」
彼女は笑みを浮かべた。
わたしの捨てたゴミを漁っていたのは、なんとクラスメイトの佐伯結愛さんだった。
成績優秀、容姿端麗で生徒会長。
そして学園のアイドル。
教室では数回話した程度で、それほど接点がなかったはずだけど、どうして……。
「佐伯さん——……何してるんですか?」
「ん? 見ての通り望未ちゃんのゴミを物色してたんだよ?」
さも当然かのように、ゴミ漁りを続ける佐伯さん。
わたしは今、クラスメイトに対して巨大な恐怖を感じていた。
「ちょっと、やめてくださいよ……こんなことおかしいですよ!」
「望未ちゃん、知ってる? ゴミ捨て場ってさ、人間の情報が一番落ちてる場所なんだよ?」
「……え?」
わたしの問いかけにものともしない。
「人間の日常生活でゴミは必ず排出される……例えば、その人が捨てた些細なゴミから個人情報が簡単に漏洩することだってある。 何を食べたかとか、何を使ってるとかね」
「……それなら一体……佐伯さんは何をしてるんですか?」
わたしの声は震えた。
学園のアイドルの彼女が、今自分のゴミを漁っている。
これほど恐怖に感じたことは、人生で1度だってない。
「んー? 何をしてるかって? 私はただ望未ちゃんの排卵日が知りたかっただけだよ〜?」
「……っ!?」
衝撃で声も出ない。
「あー、今日もハズレだ……。 やっぱりそんな簡単にナプキンは見つからないよねー」
佐伯さんはゴミを一通り漁り終わったのか、残念そうにしていた。
本当に恐怖で足が震える。
「……どうしてっ……こんなことを……するんですか?」
声を振り絞る。
これがわたしの限界。
「それはねー、望未ちゃんが好きだからだよ〜。 私、一目惚れだったんだ。 望未ちゃん顔も仕草も匂いも全部好き、だから望未ちゃんの全部が知りたくなっちゃった!」
はにかみながら答える佐伯さん。
急に好きと言われて、わたしは困惑する。
彼女からは、悪意すら感じない。
いつもはみんなの中心にいて、みんなを引っ張っる憧れの生徒会長なのに……。
「好きって……どういう……?」
「もちろん恋愛の意味だよ? 私、今まで人を好きになったことなかったんだけど、望未ちゃんは違った。 望未ちゃんを初めて見た時から、望未ちゃんを知る度に、心が張り裂けそうになるくらい好きって感じるの」
わけが分からない。
本当に接点なんて彼女となかったが、佐伯さんはわたしのことをそういう目で見ていたのか……。
別に女の子同士で好きになるのも、完全に否定的ではない。
だけどこれは……。
「……佐伯さんの気持ちは……嬉しい。 けどこんなことは良くない……と思います」
「そういえば、望未ちゃん? お腹空かない?」
「え?」
「望未ちゃんの家で一緒に朝ごはん食べよう!
私が作るから期待しててね? 料理には自信があるんだ?」
「ちょっと、待っ……!」
わたしの静止を聞かず、軽快な足取りで、わたしの家の中に入っていった。
わたしの話を全く聞いてない。
というか、わたしの家に入れたら何をしでかすか、想像ができず、すぐに佐伯さんを追って家の中に戻る。
*
家の中に入ると、佐伯さんはキッチンで料理を始めていた。
しかも鼻歌混じりで、気分が良さそうに手を動かしていた。
「あー望未ちゃん。 今日は望未ちゃんの大好きなオムライスを作ってるから、楽しみに待っててね?」
彼女は笑みを浮かべてそう言った。
彼女を止めるべきか……でもわたしは、大好物のオムライスを提示され、抗うことができなかった。
それにいい匂いも漂っている。
とりあえず料理の完成まで様子を見よう。
「じゃじゃーん! お待たせー!」
そう言って机に並べられたのは、わたしと佐伯さんのふたつのオムライスだ。
わたしは無意識のうちに、じゅるりっと唾液を飲む。
「美味しそう……」
思わずそう呟いてしまうほどに、その料理はおいしそうだった。
「えへへ、遠慮せずに食べてね!」
そう言われ、わたしは席につく。
「……毒とか、入ってませんよね?」
わたしは懸念点を聞いた。
何をしでかすか、わからない佐伯さんのことだ。もしかしたらこれは、わたし嵌める罠なのかもしれない。
「もー、酷いなー。 望未ちゃんのためにまごころ込めて作った料理にそんなことする訳ないよー」
佐伯さんは頬を膨らませながら拗ねていた。
「ほらほら、冷めないうちに、はいっ、あーん!」
「……え? ……むぐ!」
食べるのを躊躇うわたしに、佐伯さんはスプーンで無理やりわたしの口にオムライスを放り込んだ。
「どう? 美味しい?」
佐伯さんはつぶらな瞳を向けながら尋ねてくる。
口の中に広がるオムライスの味……——悔しいけど凄く美味しい。
「……おいしい」
「えー、嬉しい! おかわりもあるから一杯食べてね!」
その後、わたしは無我夢中でオムライスを食べていた。
今まで食べたオムライスの中で、一番美味しかったのだ。
「——ごちそうさまでした」
「お粗末さま。 凄い食べっぷりだったね! 毎日作りに来るから、食べたいもののリクエストがあったら言ってね?」
「え? 毎日?」
急展開だ。
でも、毎日こんな美味しい料理が食べられるならそれでも……って流されちゃいけない。
正直、佐伯さんは凄く怪しい。
どうしてわたしにそこまで尽くすのか?
ゴミ捨て場の件といい、わたしを好きになっただけで、そこまでするのか?
はっきり言って以上だと感じる。
わたしが佐伯さんの目的について考えていた時、わたしは今日で二度目の衝撃的な光景を目にした。
「何……してるんですか……?」
「あむ——……ぺろ、はむ……——んあ? ああ、これはメインディッシュだよ?」
佐伯さんがメインディッシュっと言いながら、恍惚とした表情で頂いていたそれは——。
「わたしの食べた後のお皿を……舐めるのやめてください!」
そう——彼女はわたしの食後の食器を、舐め回していたのだ。
「……? やめるってどうして?」
佐伯さんは、心の底から疑問に思っている表情していた
「だって、嫌じゃないですか!」
上手くは説明できないけど、生理的に嫌だ。
それに佐伯さんのこんな姿を見たくない。
わたしは食器を取り上げると、佐伯さんに告げる。
「もうやめてください! わたしが食器を洗ってるんで、出ていってください!」
わたしはそう言うと食器を抱えて、台所に向かった。
本当になんなんだ!
頭の中には自分勝手に行動する、佐伯さんでいっぱいだ。
わたしは悪態をつきながら、食器を洗う。
*
「よしっ」
洗い終わると、リビングに戻った。
佐伯さん……ちゃんと帰ってるかな?
わたしがそんな気持ちでリビングを見渡すが、佐伯さんは見当たらなかった。
「ふぅ」
わたしは胸を撫で下ろす。
やっと恐怖は去ったのだった。
本当になんなのだあの人は。
わたしを好きだとしてもやりすぎだ。
コロコロ——コロコロ——
ん?なんだこの音は?
わたしの自室の方からなるこの音にデジャブを感じる。
わたしは恐る恐る自室に、足を運ぶ。
そこで三度目の衝撃的な光景を目にする。
「本当に何してるんですか……!?」
「望未ちゃん、お邪魔させてもらってるね!」
「そう言う話じゃないです! これはなんですか?」
佐伯さんはなんと、床のゴミを取る『コロコロ』を使って、わたしの部屋の床をコロコロしていたのだ。
本当になんで人の部屋で勝手に!
「見ての通りコロコロしてるだけだよ?
あ……たくさん望未ちゃんの毛が取れたぁ!」
佐伯さんは嬉しそうに、コロコロに付着したわたしの毛を回収していた。
「持ち帰って、お守りにしよっと」
「本当にやめてください!
気持ち悪いです!」
反射的に声を荒らげた。
佐伯さんの行動には、毎回鳥肌が立つ。
もういい加減にして欲しい。
わたしは佐伯さんを引っ張ると、家の外まで連れていく。
途中に『大胆だね』と佐伯さんが言ったが、わたしは無視して、追い出した。
「もう来ないでください!」
最後にそう言い、玄関の扉を閉め完全に拒絶したのだ。
*
「ふふ、望未ちゃんってば、ツンデレだなぁ〜」
薄暗い部屋でモニターの前に座る少女は佐伯結愛。
彼女のモニターに映し出されているのは、望未の家に仕掛けられた八台の監視カメラの映像だった。
「待っててね。 望未ちゃん。
絶対にわたしのだけのものにしてあげるからね……」
望未は彼女の手から逃れることは出来ない。




