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第八.五話 「強欲の少女」


「アリザ、貴女は救わないで。

もう、足掻かないで。

もう、何もしないで」

「無理だよ。

私のために運命に抗う。

貴女のためじゃない」



 光も明かりもない泥沼の中に、私と、もう一人のワタシが居た。

ひんやりとした泥の感触が、体の半分を覆っていた。

足元は固まってしまって、前にも後ろにも進めはしない。



 でも言葉を投げかけてきたと言うことは、何か伝えにきたのだろう。

諦めさせたいのか、絶望させたいのか。

 


 例えそうであっても、私は彼女をも受け入れたいと思うようになった。

きっと、彼女が居なければ私はとっくに死んでいたから。


「ねえ、貴女は何がそんなに苦しいの?

いつも、悲しそうで苦しそうなのに。

それでも、私を縛ろうとはしない。

嗤うことも、貶すことも、それすら本当はしたくないんじゃないの?

もしかして誰かに、命令されてる?」


「………ちがう。違うわ!!お前が!!!

お前がワタシを縛りつけるから!!!!」

「私が……?どうして?!!」

「………っ。もう、時間よ。

貴女は、何も知らないでいて。

その眼を開かないで、ワタシはそれを死守するだけよ」

「言ってる意味が、それだけじゃわからないよ……。

お願いだから、私に貴女を教えてよ!」

「ふふ、フフフフフフフ……。

アハハハハハハハ!!」



 彼女は笑う。

その表情は、季節のように移ろいで眼前に差し迫る。

喜びながら、怒りながら、泣きながら。


 青白い手が顔を包んで、私に口付けを落とす。

深く、深く、歓楽を貪るように。



 押し離そうとするが、微動だにしない。

次第に息を吸うことも吐くことも、ままならなくなっていく。


 視界が涙で霞んで、意識は薄れて遠のく世界。

この領域にとどまることを許さないように、彼女はまだ私を溺れさせ続ける。




「……う、ぐ」

「腕が、痛むのか?どれどれ…」

「ッイ”っだぁああああい!!!!?!!」


 アスモデウスに、腫れ上がった腕をほんの少し触れられ、雷に打たれたような激痛が襲う。



「回復薬が必要か」

「ゔぐッ、元々は……アスモデウスのせい……」

「何か言ったかい?」

「笑っているのに、怖いのはなんでだろ…」

「ところで、スカイダイビングはお好きかな?」

「は??……い??」


 一方通行の会話に話が見えず、不安だけが煽られる。

そして何故か抱えられている私。


「さあ行こうか!何、空の旅とでも思っているといいさ!」



 そう言って、崖の上から真っ逆さまに降下する。

私はまだ、心の準備なんて出来てないのに。



 澄み渡る蒼穹そうきゅうには決して見向きもせず、黒翼を羽ばたかせ、直線状にグランディング。

まだ薄ら暗い森を掻い潜りながら、獲物を狩る猛禽もうきん類のように鋭く低空飛翔するのだ。



 アスモデウスの飛行は素早く、しなやかな小回りが的確で、彼の性格を表していた。


 風を切るように前進すると、白亜の城壁が行き先を塞ぐように聳え立つ。



「ねえ!!ぶつかるっ!アスモぉおお!

ぶつかるって!!」


 勢いを殺さぬまま直進、衝突寸前。


 彼の笑顔は決して崩れない。

翼を閉じて抵抗を抑え、急上昇した。



 眼を開けば、広がるのはヨーロッパ調の建物とその街並みだ。

赤煉瓦と白い石壁、窓辺には色とりどりの花が飾られている。



 城下町は賑わい、悪魔たちが人間のように生活を営んでいる。

城壁の上から見える景色は、絶景だ。

でも、私は笑えない。



 悪魔が人間を攻撃する。

どんな理由であっても、圧倒的に不利な者たちを一方的に殺戮さつりくしているように見える。


 だから、恨みはなくてもこれが良いとは到底思えない。



 けれど、彼らも確かに生きている。


 剣や槍、甲冑など武具を扱う武器商人の店。

怪しいローブの悪魔が、行き交う者たちに煌めく小物やアクセサリーを勧めている。



「スカイダイビングも、いいものだろう?」

「はは、まあ、たまにはね」


(どこかに、アデルとルルディアが囚われているんだ。……絶対、助け出すからね)




「おい、そこの不届き者たち。

余の領域だけでなく、城内まで踏み込むとはいい度胸だな?

死ぬことも、いとわぬというのだなぁ?ハハハハ」

「誰?」

「そちらが名乗るのが礼儀だと思うがな?違うか?」



(この子、悪魔だよね?

悪魔って、意外と礼儀とか気にするよな……良いとこのお嬢様育ちなのか)



 銀髪をサイドテールで結んだ、ゴスロリ少女が

仁王立ちしてこちらを睨んでいた。



「私は、アリザ」

「存外、素直だな。ならば余も応えよう。

余は、この強欲を統べる世界一寛容で、無敵なマモン様である!」

「っどの面下げて、私の前に現れたんだよッ!!?馬鹿なの?!!」

「ピキピキ……。面?馬鹿?聞き間違いよな?それより貴様。腕が折れているな?

何、マモン様に任せておれ」


(今ピキって言った自分で!!)



「いや、それより私の仲間を返してよ!」

「もちろんだ。そもそも、余はかくまうつもりでいたのだ。

忌まわしき、地獄の王からな?

そうだろう、色欲」

「あのなぁ。こう見えてもかなりキレてるんだ……マモン」

「それとこれとは別だ!!この娘の腕は治してやりたいと、そう思うのではないのか?

な?アリザよ」

「……え?う、うん?」


(馴れ馴れしいなぁ!!!)



 そう言ってポシェットから取り出したのは、

宝石のように輝く目玉と蛇の皮に竜の鱗、緑の液体。

それらはマモンの魔法で浮上し、目の前で混ざり合う。


 それらが圧縮され、禍々しいドス黒い色味の汁が、空き瓶を満たしていく。



「ほれ、これを飲めばあっという間に完治するぞ?」


 にぱっと、屈託なき笑顔で瓶を渡されれば、断ることなど出来なかった。



「ご主人様、これを飲むのかい?

僕は、とてもじゃないがオススメしない。

マモンが何を企んでいるかわからないからね」

「…………」


 そっと耳打ちされても、マモンのウルウルした瞳を見れば悪い子ではないと不覚にも信じたくなる。

いやでも、信用してもいいのか?

これも罠だったら、でも、穏便に二人を解放してもらえるなら……。



 私はそれを受け取ってしまった。


「………ありがとう、マモン。

い、いただきます!!!」



 グビっと、一息で飲み干した。


「……ウッ!!!くっそまずい!!!ウゲ……」



 雑巾と、腐った生卵。

それと、ハーブや雑草の風味が嗚咽を誘う。

正直マズイどころではなくて、食用としてはありえない味だ。


「……よくぞ飲んだ!!ニンゲン!!

余の手下たちをわざわざ働かせた甲斐があったぞ!!ほれ、これはここでゆっくりと時間を過ごして英気を養うための金だ」

「え、賄賂わいろ

わ、私は仲間を売ったつもりはない!!!」

「フ、違うわ。仲間は、必ず解放する。

明日、同じ時間にここで待ち合わせよう!

今後について、語り合いたいのでな。

それでは、余は多忙なので失礼するぞ?ハハハハハハハハハハ!」



 それだけ言い残して、煙のようにその姿を消してしまった。

残された私とアスモデウスは、顔を見合わせた。



「これ、私騙されたのか……」

「そう思うならどうして飲むんだ?

それになぜ僕よりも奴の言うことを信用したんだ?君が理解できない」

「………目が綺麗だったから」

「は?」

「………全員の悪魔を知らないけど。

誰よりもマモンの瞳が澄んでいたんだよ」

「はぁ、とんだお人好しだな。

いいか!次は、もっと慎重になれよ。

わかったな?」

「……わ、わかった」

「……よし、なら今からマモンを尾行するぞ」

「え?びこう?」

「そうさ、何せまだ僕の復讐は終わってないからね。そうだろう?ご主人様」





 ご覧いただき誠にありがとうございました!


 今年最後の投稿となりますが、二〇二六年もよろしくお願いいたします!



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